社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

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「世帯の経済水準による終末期ケア格差-在宅療養高齢者を対象とした全国調査から-」

2011-06-20 15:12:34 | 社会福祉学
杉本浩章、近藤克則、樋口京子『社会福祉学』第52巻第1号 2011

 全国の訪問看護ステーションを対象とした、ステーションを利用した後に死亡した高齢者の調査研究。調査自体は1999年のものである。経済格差は、終末期ケアにどのような格差を生み出すかを分析している。

引用
・利用者世帯の経済水準を5群に設定…生活保護世帯レベルの経済力を「低い」として、担当看護師が判断
・看取り場所の家族の希望は、経済水準が「普通」以上の3群では、「自宅での看取りの意思表示あり」の割合が6~7割程度であったが、経済水準が低い2群では、共に5割台と少なかった。
・経済水準が「やや低い」世帯と「低い」世帯では、より多くの福祉等サービスを利用していた。
・考察より⇒「終末期ケア格差」解消に向けたソーシャルワーカーの取り組み…不利な条件にある患者への支援をよりていねいに立案・実施することが求められるだろう。


 「お金がなければ、死にたいところでは死ねない」…これは現場にいたときに、多くの利用者さんから身を持って教えられた現実である。これを科学的に立証したのが、本研究であると感じた。

 なぜ経済水準が低いのか。この裏付けが提示されていないのが残念であるが、経済水準が低いほどサービスの利用率が高いということから推測すると、主介護者等に「定職につきにくい」何らかの事情(障がいや疾病)があるのかもしれない。そうであれば、より多くの関係機関と協働し、意思表示を表明してもらうように努めたり、共倒れにならないより手厚い支援が必要となってくるだろう。
 
 本研究は、経済格差と終末期ケアの関係性について取り上げた、貴重な研究であると思う。しかし、調査そのものは12年前のものであり、介護保険以前のものである。
 調査研究は時間も費用もかかり、とても困難な作業である。しかし、12年前の材料を再分析するのは少し無理があるのではないか?という疑問はどうしても払拭できない。


 
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2 コメント

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豚の鼻さま (管理人)
2011-06-21 10:42:51
コメントありがとうございます。

おっしゃるように、在宅医療は医療難民の受け皿になっている側面もあるように思います。

医療や介護サービスを受けるために食費を削る…そんな理不尽な生活を送る利用者さんも少なくありません。
「若い頃に年金をきちんと収めていなかったせいだ」と指摘する方もいますが、その一言で片付けられない社会になってきているように思います。

すべての人に平等に…当たり前のことを当たり前に支援していくことの難しさが、ますます顕著になってきているように思います。


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経済水準 (豚の鼻)
2011-06-20 16:46:52
在宅介護を行っている方は確かに経済的に苦しい方が多いと思います。
在宅を家族が望んでいる場合は少なく、出来れば病院でお願いしたいが本心のように思われます。
しかし、経済的理由で退院をする場合が多いように思います。急性期病院は在院日数が決められており、慢性期に入ると病院は収入がなくなります。特別室にでも入らなければ、おいてもらえなくなります。慢性期病院でも同様。医療保険は治療しなければ収益になりません。看護、介護ではお金になはなりません。
1万から5万の部屋代。高額医療は適応されない実費。普通の経済力ではすでに厳しい状況です。低いと言うのではなく経済水準が高くないと、病院や施設での療養は行えないのだと考えます。在宅で1割負担の介護保険を利用し、なんとかしのいでいる状態の人が多くいます。
安い老人健康医療施設は半年以上待ちの状態です。在宅医療は医療難民に近づいているように感じます。
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