・ジャータカ物語/辻 直四郎 渡辺 照博宏・訳/岩波少年文庫
昔話がインドのジャータカ物語をルーツとしているのではないかとの説もあるようなので、ジャータカ物語を読んでみました。
ありがたいことに読んでみたいと思った本が日本で出版されているということ。それもだいぶ古く、岩波少年文庫で1956年に初版が出版されています。
いまある形で編集されたのは5世紀のはじめごろといいますから、いまをさかのぼること1600年前ということになりますが、そのもとは2000年以上も前のことといいます。
しかし、エジプトのツタンカーメンは3350年前の人物で、エジプト文明が5000年前に誕生したことからいえば、そんなに古いということではないかも知れません。
岩波少年文庫には、ジャータカ物語547話のなかから30話がのっている。
仏教の説話集というので道徳的な感じでいろいろな教えを含んでいるという解説がうなずける内容になっています。
お話のはじまりは、「むかしむかし、ブラフマダッタ王がペナレスの都で国をおさめていたころのことです」とあるのが、文庫におさめられた30話のなかで27話。2話のはじまりはこれとことなるが、もう一話はブラフマダッタがジャナカとなっています。
はじまりの次は、ボーディサッタが動物や王子、バラモンの僧に生まれ変わって登場します。
ボーディサッタ(菩薩)は、「のちに仏陀になるはずの人」という意味でおしゃかさまの前の世のすがたということですが、ここでは動物と人間が近い存在。
昔話のルーツというので、もう少し慣れ親しんでいる内容がでてくるかと思ったが、おもったほどではありませんでした。訳されているのが5%ほどなのかが影響しているのかもしれません。
この本にある「幸運をつかんだゾウつかい」では、木の上のオンドリと下のオンドリがけんかをし、どっちがえらいかとののしりあいをはじめ、下のオンドリは、自分の肉を食べたものは、金貨千枚が手に入る。木の上のオンドリは、自分の肉をたべたものは、男なら将軍に、女ならばおきさきになる。坊さまなら王さまおきにいりの大僧正になれるとどなりあう。
それを聞いたたきぎひろいのおとこが木の上のオンドリをしめ殺し、その肉をたべて王さまになろうとするが、その肉をゾウつかいが手に入れ、それを食べたことによって、王さまになるというお話。
動物などの話を聞いた者が、その話のとおり行動するというのは他にもあるが、この話ではもうひとひねりし、親切なゾウつかいを登場させ、聞いた本人ではなく、親切で正直なものが幸運?をつかみとっている。
ところで、このジャータカ物語がルーツとなっているというフィリピンの話に「王さまと二人の母」というのがありました。
国際結婚したフィリピンの方が幼児の頃聞いた話を、山形の言葉で語っているものです。
・王さまと二人の母(フィリピンの民話 山形のおかあさん 須藤オリーブさんの語り/野村敬子・編 三栗 沙緒子・絵/星の環会/2003年初版)
話の内容は・・・
賢い王さまのところに、男の子を連れた二人の女がやってきて、お互いに、この子は私の子だと主張しまし。
王さまは子どもの腕を両方から引かせ、自分の方に子どもを引っ張った方が本当の母だということにしようと、二人に腕を引かせますが、実の母親は、子供の手が折れたり、骨が割れたりしたら大変と子どもの手を離してしまう。
もちろん、王さまは本当の母親だったら子どもが痛がることはしないはずと裁定を下します。
いかにも仏教の説話を思わせる内容で、ジャータカ物語がルーツになっているとうのが納得できる話です。
大岡裁きやブレヒトの「コーカサスの白墨の輪」にも同じ話がでてきますが、ルーツはジャータカ物語にありそうです。