アトリの鐘/世界の心をうつ話/塚原亮一編/偕成社/1974年初版
いま、ふれている昔話は氷山の一角のようで、まだまだ知らないお話も多い。
これも、派手さはないが、こころあたたまるイタリアの昔話。意味深なタイトルだが、アトリは、単に地名である。
<前半部分>
ある日、王さまの命令で、アトリという町の広場の塔に大きな鐘がつるされます。この鐘には、長いつなが下がっていました。
王さまがいうのには、「この鐘は、ただ時刻を知らせたり、音を聞くだけのものではない。お前たちのうちの誰でも、もし人にいじめられたり、つらいめにあわされたりしたら、ここへ来て鐘をならせばよい。鐘がなれば裁判官がすぐに来て、お前たちの言い分を聞いてくれる。そして何が正しいかを、決めてくれるであろう」
このつなは、子どもでも利用できるように、長くしてありました。
それから町では、その日から人につらいめにあわされた人や、争い事のある人は塔の下に来て、鐘をならすようになり、裁判官がやって来て、誰が正しいか、何が真実かを決めてくれるようになり、町のみんなは、楽しく毎日を過ごせるようになります。
長い年月の間に大勢の人がつなを引っ張ったので、つなが切れて新しいつなが出来るまでブドウのつるがさげられます。
<後半部分>
一人の金持ちの騎士が住んでいましたが、これまでウマにのって悪者をたくさんやっつけた、いさましく正しい人でした。でも年を取るにしたがって、だんだんと意地悪のけちん坊になってしまい、お金をためる方法はないかと考えた結果、ウマにエサをやるのをやめてしまいます。
主人から見捨てられたウマは、石ころのあいだの草をたべながら、つらいおもいをしてアトリの町へたどりつきます。
そして広場の塔の鐘の、つなのかわりにたれているブドウのつるの葉を食べ始めます。
すると、たちまち、たかい塔の上の鐘が鳴りだします。町の人たちも裁判官も広場に飛んで来て、そのウマを見ました。「かわいそうに、こんなにやせている」「口の聞けない動物が、私たちの裁判をのぞんでいるのだ。」
すぐに、飼い主だった金持ちが広場に呼ばれ、裁判がはじまります。
裁判の判決は
「このとしとったウマは、長い間、あなたために働き、なんども危ない目を救った。いま、おまえがたくさんの財産を蓄えることができたのも、このウマのおかげといっていい。おまえの財産の半分をさいて、このウマのために、十分なエサと走りまわる牧場と、あたたかい馬小屋をつくるように命令する。」
ウマの途方にくれた状況に同情していると、最後はこんな風に終わる話。
うーん、こうしたすっきりした判決がでると、世の中、うまくまわるはず。