語りつぐ人びと アフリカの民話/守野庸雄 中島久・訳/福音館文庫/2004年初版
中野暁雄氏が採録の際に、であった話者が毎日1時間語るとして1年間はかかる物語があるという。
中野氏は一度聞いた物語を記憶・再生する能力に驚嘆されていますが、10分程度の話でも四苦八苦しているわが身からは想像もできないこと。
しかし人間の能力の限界をきめているのは、もしかするとできないという思い込みなのかもしれません。
「大祭の日の悪魔とある男」というのは、この話者が20歳の時といいます。
途方もない金持ちの大商人が買った羊は、中庭にいるはずなのに2階からは見えなく、下に降りると羊はつないだ場所にいます。
真夜中に中庭をみてみると、羊はいなく、門の外からかえってみるとちゃんとつながれています。
夜商人が寝ているそばで「だれかがおまえの羊を盗んでいったやつがいるぞ」とささやく声が聞こえます。
商人が寝室の戸をあけてみると、羊がトコトコおりていくのが見えました。
商人が友人に確認してもらおうと、一緒に寝ていると、友人の耳元で「なにが起こるか見に来たのか。こいつめ、殺してやる」というささやく声が聞こえます。
殺すといわれてあわてて帰ろうとした友人ですが、今度は音楽がきこえてきます。
中庭に足音が聞こえたので、中庭をみると羊がいっぱいです。しかし朝になってみると中庭には羊がいっぴきだけ。
ほんの導入部ですが、ここまで10分はかかりそうです。
じつは羊の脳のなかには指輪があって、この指輪を手に入れたものが、天と地にすむ魔物を、みんな支配できるようになる力をもっていたのでした。
商人から羊を手に入れた羊飼いは、この指輪を手に入れ、指輪をまわすと魔物があらわれ、望みのものを手に入れます。
このあたりは「アラジンと魔法のランプ」をおもわせます。
この魔物も面白く、じつは魔物より上の悪魔という。悪魔は人間の心に巣くうという会話もあります。
ふだん聞き慣れた物語とは大分趣がことなる昔話です。