どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

えのないえほん

2020年03月30日 | 絵本(日本)

    えのないえほん/斉藤倫・作 植田真・絵/講談社/2018年

 

 「絵のない絵本」とありますが、黒いページに白い文字が続く中に、森や花が淡い色で最小限に描かれています。冒頭に

 「あるところに みにくい けものが いました

  どんなに みにくいか  その すがたは

  たとえ せかいいちの えかきを つれてきても

  えがけなかったことでしょう」

とあります。

 この世から 消えてしまいたいと思っていた みにくいけものですが、仕立屋で働いていた目の見えない少女に出会い、心を通い合わせます。

 ところが、けものが「あさやけや くもや もりや いずみや わたしの しらない たくさんの うつくしい ものを おしえてくれる あなたも きっと とても うつくしいのね」といわれ、はじめて 少女を 憎らしいと 思います。なんて ひどいことを いうんだろう それきり けものは 少女の前から 姿を 消してしまいました。

 そのあとも、少女は 毎日森の入り口に やってきますが、けものは でていきませんでした。

 いつか少女が、森にやってこなくなった冬の冷たい雨の日、ねむれない日が続き、けものは はじめて 村に出かけました。おそれた村の だれかが ついに 銃をうちました。玉は何発か けものを 打ち抜きますが けものは 構わず少女の家に向かって ただ、まっすぐに すすみました。

 少女は ひどい熱で ふせっていたのです。

 「ありがとう きみに あえなかったら ほんとうに ぼくは みにくい けものに なるところだったよ」という、けものの最後に ジーンときました。

 目が見えなくても予断なく、けものを ありのままに うけいれる少女の優しい心が けものとの会話を通じて伝わってきました。

 見えていると思っている自分が、じつは、本当のことに気がついていないのでは? とも思わされます。


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