ありがたいこってす!/作:マーゴット・ツェマック 訳・渡辺茂男/童話館出版/1994年
ある村に、母親と、おかみさん、6人の子どもたちと一緒に、一部屋しかない小さな家に住んでいた貧しい男。
家のなかが、あんまり狭いので、男とおかみさんは言い争いばかり、子どもたちも がたがたうるさくてけんかばかり。
ある日、貧しい男は、とうとう 我慢ができなくなって、ラビ(ユダヤの法律博士。先生)のところに相談にいきました。
ところが助言は、ひなどり2、3羽と、おんどり1羽、がちょう1羽を家の中に入れて暮らしなさいというもの。
もちろん、小さな家の暮らしは まえより ひどくなり、もういちどラビのところへいくと、こんどは、ヤギを家に中にいれなさい、次には牛をいれなさいというもの。
助けてくれと、もういちどラビに相談すると、「動物たちを 外に出しなさい」。
貧しい不幸な男が、急いで家にかえり、牛とヤギ、ひなどりとがちょう、おんどりを外に追い出すと、その夜は、家族残らず ぐっすりと 休むことができました。
ラビへの感謝の言葉は「おまえさまは おれの暮らしを 楽にしてくださった。家の中には 家族のものが いるだけで、しずかに ゆったりで 平和なもんでさあ・・ ありがたいこってす!」。
ほんとの狭さを体験してみると、それまで狭いと思ったことも苦にならなくなります。親子四人で1DKの部屋に、ひしめきあって暮らしていたのを思い出しました。いろんな場面で同じようなことがあります。
ユダヤの民話からとありました。アメリカでの初版は1976年で、クラシックな色使いでした。
・うちの中のウシ(おはなしのろうそく5/東京子ども図書館/1976年初版)
メイベル・ワッツ作、松岡京子訳。
「ありがたいこってす!」と同じシチュエーションで、メンドリ、ヤギ、ブタ、ウシをつぎつぎに家に入れていきます。ドタバタのようすが楽しい。
貧乏な百姓の夫婦に助言?するのが、”ちえのありぞう”じいさん。松岡さんのネーミングが絶妙です。
「昔話風だが、あくまで創作」というコメントがついていますが、アイデアはユダヤの昔話ですから、「あくまで創作」ということにはならないようです。
夫婦と小さい部屋二つ、おかみさんが、とびきり長いうどんをつくるのに台所が狭いという導入部の狭さの実感が物足りません。
・ぎゅうづめ家族(英語と日本語で語るフランと浩子のおはなしの本/フラン・ストーリングス・編著 藤田浩子と「かたれやまんばの会」訳/1999年)
作者が、聞き手の参加でおなじように展開していきます。
大工、おかみさん、おばあさん、三人の子ども、あかちゃんが小さな家にすんでいます。
せまくてうるさいのを何とかしようと、もの知りばあ様に、何かいい知恵がないか相談します。
はじめに にわとり、ひつじ、そのあとは聞き手が飽きるまで次々と動物を家に入れて、最後は、動物を全部外に出して、平和がもどります。
赤ちゃん役にオギャオギャとないてもらい、何人かのニワトリ役に、コココッケコーなどと鳴いてもらい、話し手の合図で一斉に止めるという進行です。
こうした展開のお話にはあったことがありません。その場の状況で話を展開するというのも柔軟です。赤ちゃん役を大人の男性にしたり、語り手が聞き手のところに行くようにしてもいいでしょう、というのが藤田さんのコメントです。