「長靴をはいたねこ」は、1697年にペロー、それ以前には1634年出版のものにみられるという。またグリム童話の初稿にも「くつはきねこ」というタイトルで。タイトルだけでは、なかなか内容がわかりません。
・ペール殿下(ノルウエーの昔話/アスビョルンセンとモー編 大塚勇三・訳/福音館書店/2003年)
両親がなくなり、三人兄弟の末っ子のペールがもらったのはネコ。
ネコは、王さまの歓心をひくため、トナカイ、シカ、ヘラジカを脅かし、王さまに献上させます。つれていったペールは、そのたびごとに、心づけのお金をたくさんもらいました。
王さまは、ペールのことが知りたくて宮殿に来るようにいいます。ネコは、馬車や馬や衣装など、ペールが必要なものをそろえ、ペールと一緒に宮殿に向かいます。王さまが、ペールに、なにをだしてみせても、なにを見せても、ペールは、「これは、たしかに、けっこうなものです。けれど、わたしのうちにあるもののほうが、ずっとみごとで、すてきですねえ。」と、こたえます。王さまはひどく腹を立て、「おまえのうちにいってみたい。お前の言うことが本当か見てみたい。」といいだし、みんなはでかけました。
ネコは、羊の群れ、ウシの群れ、馬の群れをみると、銀のスプーン、銀のひしゃく、銀の盃を、番をしている人にあげ、王さまから何か聞かれたら、ペール殿下のものだと、こたえさせます。
一行が、だいぶ長いこと進んでいくと、ひとつの城にやってきました。ネコは、ペールに、「ここがわたしの住んでいる城です。」と、王さまに言うよう進言します。城の中は、椅子もテーブルも、なにもかも金でできていました。
王さまは、「なるほど、ペール殿下は、わしよりも、ずーっとすばらしい暮らしをしている」と、帰ろうとしますが、ネコは夕食を食べていくように頼みます。そのうち、みんながテーブルについているとやってきたのは、城の持ち主のトロル。「おれの食べ物を食い、おれの蜂蜜酒をのんでいるやつは、いったいだれだと?」とトロルがどなると、ネコは、お百姓の話をしだしはじめ、時間をかせぎます。そして太陽がのぼってくると、後ろのほうに、美しい乙女がいるからとトロルをふりむかせると、太陽を見たトロルは、はじけとんでしまいました。
ここからびっくりするような展開。ネコは、わたしがしてほしいたったひとつのことは、頭を切り落としてほしいということ。「そんなこと、ぜったい、やりたくない」と、ペール殿下がいうと、ネコは、「そうしてくれないなら、この爪で、あなたの目を、引っかきだしてしまいます。!」とおどしたので、ペール殿下は、やむなく頭を切り落とします。すると、ネコは、なんとまあ、うつくしいお姫さまにかわってしまいます。
お姫さまは、トロルに魔法をかけられていたのです。
ペロー版では、お姫さまが、主人公に、ひとめぼれしますが、この話では、「わたしを妃にしようと望まれても、望まれなくても、ご自由です。」と、本人の意向を尊重しています。まあ、結論は想像のとおりですが・・。トロルやトナカイ、ヘラジカがでてくるのは北欧らしい。
・ピロ伯爵とキツネのおはなし・・シチリア(シチリアのメルヘン/シルヴィア・シュトゥダー=フランギニーノ・カンパーニャ・編 あべ ゆり・訳/花風社/1999年)
ねこでなくキツネが主役。
父親が遺産として残してくれたのは一年中実をつける梨の木だけ。ひとりでは食べる分も稼ぐことができない若者のところに、一匹のキツネがやってきて梨の実を、大かご一ぱいもらえないか もちかけます。幸せにしてあげるといわれ、梨をもたせると、キツネはその梨を王さまのところにいって、梨の木(ピロ)伯爵からといって献上します。
真冬に梨の実を見た王さまは、わけを知りたいといいますが、キツネは、「伯爵はお望みの物をなんでもお持ちです。」といい、王さまの返礼も、伯爵の名誉を傷つけると、ことわります。
キツネが、もういちど王さまのところへ梨の実を献上したとき、伯爵が望んでいるのは姫君との結婚を許していただくことというと、王さまは、城へ招待したいといいます。
キツネは、上等な服を仕立て屋につくらせ、馬の商人のところで一番よい馬を手に入れ、若者と城に向かいます。もっとも、服も馬も後払いで。
城では一言も発しなかった若者は、食事がおわると家路につきます。もういちど梨の実を王さまに届け、姫君との婚礼の返事をもらったキツネは、心配する若者と姫君の婚礼の儀式をあげることに成功します。
何日かすぎて、お城に奥方をつれていくことになり、王さまと大勢の騎士も一緒に、平野をすすんでいきます。
一行の先を走っていったキツネは、何千頭もの羊の群れ、豚の群れ、馬の群れを連れていた人たちを、人食い鬼のものだと言ったら、騎士たちに殺されるから、ピロ伯爵のものだといえと脅します。羊飼いたちは、王さまに尋ねられると「ピロ伯爵のものです!」と答えたので、王さま婿が大変裕福なのをみて喜びます。
やがてキツネは、人食い鬼の宮殿につくと、人食い鬼たちに、大勢の騎士たちが君たちを退治するためにやってくる脅し、みんながいったらおしえてあげようと、鬼を炉のなかにかくれさせます。
城の豪華さに いたく感心した王さまは、召使がひとりもいないことに気がつきます。キツネは、伯爵が、奥方さまの希望を聞くまで何も整えようとなにもなさらなかったとこたえます。
王さまが安心して城へ帰ると、キツネは、鬼がかくれている炉の小枝に火をつけ、焼き殺してしまいます。
このあと、キツネは自分が死んだあと、ピロ伯爵がどうするかひと芝居をうちますが、誤解も解けて、キツネは宮殿で何不自由することなく暮らし、死んだときは見事な棺の中へ。
「いやあ、うらやましいお話ですね」という結びは、ほかの話にも使えます。それにしても、「口のうまさは」表裏一体。騙す人に要注意。
・ぼうしになったキツネ・・中国 ウイグル族(けものたちのないしょ話/君島久子・編訳/岩波少年文庫/2001年)
とてつもなく貧乏で、財産といえば、いっぽんのザクロの木だけ。そんなアイムタイクは、この木を自分の子どものように可愛がり、大事にしていました。ザクロが熟するころになると、昼も夜もその木のそばに座り見守っていました。
ところが一日中気を張っているのも大変です。ある晩、思わずこっくりしてしまい、はっと目をあけると、ザクロの数が減っているではありませんか。「なんとしたことだ」と、後悔しました。ところがあくる日も眠ってしまい、ザクロはごっそりとへっていました。
つぎの日、眠ったふりをして待ち構えていると、キツネがやってきて音もなく木に登りました。アイムタイクはふいにとびおき、手をのばすと、キツネのしっぽをつかまえますが、逃げられてしまいます。となりのおじいさんから教えられ、塀際のキツネがうずくまるところに、”にわか”を煮て、まいておくとキツネをつかまることができました。
アイムタイクが、キツネを打ちのめそうとして棒をふりあげると、キツネはしきりに前足をあわせて「どうぞ命だけはお助けてください。そのかわり、一生あなたの手助けをします。お嫁さんだってさがしてあげます。」。それを聞いたアイムタイクは、キツネまでばかにしてと、またも棒を振り上げますが、「本当なんです。方法があるんですから。王女さまだってさがしてあげられるんです」といわれ、キツネをはなしてやりました。
さて、キツネは、この国の遠い都の国王に真珠やメノウをふるい分ける力があるという”ふるい”を貸してもらうと、ふるいを返しにいくとき、こっそり宝石をいくつかふるいの目にうめこんでおきました。そしてふるいを手渡しふりをして、わざと地面に落としました。すると、真珠や宝石が地面にころがり、それをみつけた王女や王子がかけよって、うばいあいになりました。
国王は、キツネからアイムタイク国王が、宝石をたくさん持っているのを聞くと、内心うらやましくなり、にわかにていねいにキツネをもてなし、三人の王女のうち一人を妃にするよういいます。キツネは、もったいぶって結婚するかどうか聞いてくるからとアイムタイクのもとへかえり、いっしょに都へでかけます。
途中、アイムタイクに、川に入り頭だけだすように知恵をつけたキツネは、国王に、「大変です。わが国王があなたへのおくりものの四十頭のラクダに真珠や宝石が、洪水でながされ、服も流された」といい、国王に、りっぱな服も用意させることに成功してお城に到着しました。
王女の一人と結婚し、とうとう帰る日がやってくると、国王は大臣に命じて、たくさんの軍勢をひきいさせ、王女とアイムタイクを送らせることにしました。
一足先に走り続けたキツネが、ラクダの群れに会い、ラクダ飼いから「キツネさんや、なにをそんなに夢中で走っているんだい。」と聞かれると「知らないのかい。うしろからたくさんの盗賊がおってきて、人を見つけしだい殺すんだ。早く逃げた方がいい。ほらきたほらきた。」「あいつらがやってきて、このラクダの群れは、だれのものかと尋ねられたら、アイムタイク王のものだとこたえるがいい。そうすれば、殺されずにすむよ。」
キツネが走り続けていくと馬の群れに会います。ここでもアイムタイク王のものだとこたえれば、ころされないよと、いいます。そして羊飼いにも同じようにして、やがてとびこんだのは魔王の宮殿。ここでは、「アイムタイク王が攻めてきました。魔王を殺せといっているのです。たくさんの兵をひきいてやってくるから勝ち目はない。早くかくれましょう。」と、マントルピースにかくれさせます。それから、キツネは、急いで薪を運んでくると、山のように積み上げ、火を放ちました。魔王はたちまち火だるま。
こうしてアイムタイクは、魔王のりっぱな宮殿をそっくりいただいて、そこにすみつくようになったのです。
ある日のこと、キツネが、「わたしはあなたのために大いに働きました。もしわたしが死んだら、どうなさいますか。」と聞くと、アイクタイムは、「もし、おまえが死んだら、永遠に忘れないように、お前を頭の上にいただこう」と、まじめに答えました。ニ、三日後キツネが死んだふりをすると、アイムタイクが「穴の中へすててしまえ」と、言い終わらぬうちにキツネは「なぜ、約束を守らないんだ」と問い詰めます。「すまん、すまん、かんべんしてくれ」と、謝った王さまは、「もし前が本当に死んだら、わたしは必ず、お前を頭にいただいて、永遠にわすれないようにしよう」と約束し、キツネが本当に死んだとき、その通りにします。
それを見た人々は、なかなかかっこうがいいと思ったのでしょう。みんなまねをして、キツネの皮で帽子を作り、頭にかぶるようになったという。
ラクダ飼いや馬飼いが出てくるあたりが、ウイグル族らしいところです。
・しょうじきなおじいさんと親切なネズミ・・チリ(世界むかし話 中南米/訳=福井恵樹 絵=竹田鎮三郎/ほるぷ出版/1988年初版)
ねこやきつねではなく ネズミです。他のものにくらべ後半部がありません。
お店で働く、まずしいおじいさんはとても親切で心が広く、なけなしの食べ物でもこまっている人とわけあうほど。
おじいさんのところに、ちびネズミが住んでいたが、おじいさんはいつも自分の食べるパンや、チーズ、肉をネズミと一緒に食べていました。おじいさんがとっておいたわずかの食べ物をネズミがほとんど食べてしまったこともありましたが「わしだって食べなくちゃならないんだよ。ほどほどに食べて、わしの分を残してくれ」といいました。
ネズミはこんどはわたしがあなたの役にたちたいと、金持ちの王さまのところにいって、お金を計るブッシュルかごを貸してくれるよう頼みなさいと言う。お金をもっていないおじいさんは、ばかばかしいというが、ネズミは美しい小姓に姿をかえて王さまのところへおもむきます。
お金を計るのにブッシュルかごがいるほどのお金持ちときいた王さまは、もしかすると自分よりお金持ちかもしれない。ブッシュルかごは貸してやるが、自分で返すに来るようにいう。
かごをもってきたネズミに、おじいさんはびっくりするが、ネズミはおじいさんが王さまにブッシュルかごを返してくれだけでいいという。
ぼろぼろの古ぼけた服をきたおじいさんが、川の橋をわたっているとき、ネズミが足元を走り抜けると、おじいさんはよろけて流れにころがり落ちてしまいます。
ネズミは再び小姓に姿をかえ、王さまのところにいって、主人が川に落ちたのでもうしばらくおまちいただくよう話すが、王さまは、どうしても立派な紳士にあってみたいからと、上等な服と馬車を家来にもっていかせます。
王さまの服を着たおじいさんはとても若く見え、金持ちの貴族のようでした。王さまはすっかりおじいさんを気に入って自分の一人娘と結婚するよういう。おじいさんが本当のことを言おうとしても、ネズミはそれをおしとどめ、やがて王さまの娘と結婚。
いつの間にかネズミのことは忘れてしまったおじいさん。そこでネズミは死んだふりをします。
台所ののこりかすが捨てられる場所に、ネズミをみたとき、おじいさんは声を上げて泣き出します。それを見たネズミは「わたしがあなたにしてあげたことを忘れていないかどうか、ためしてみたのです」といいます。そして天使となったネズミは、おじいさん、おきさきとその家族の守護天使になります。
昔話で結婚というと若者とお姫さまというとりあわせが多いが、この話ではおじいさんと母のおきさきがなくなって、宮殿内のこまごましたことをとりしきっていた年かさの娘と結婚することになります。
ここででてくるブッシェルかごは、35リットル入りという。