もみの木/アンデルセン原作 石井睦美・文 瀬名恵子・絵/2019年
アンデルセンとせなさんの絵というのに惹かれました。
せなけいこさんが、絵本作家デビュー前夜の原画を、この6月に復刻されたものです。
石井睦美さん文となっていますが、ほぼアンデルセンの原作を踏襲していました。
森の中に 小さなモミの木がいました
早く大きくなって別の世界にいきたいと 思っていたもみの木。
「うみで新しい船をたくさん見たよ。もみの木は、船のりっぱなマストになったんだと思う。もみの木の匂いがしたからね」とおしえてくれたのは、こうのとりでした。
「わかいときこそ、すばらしいんだよ。ずんずんのびて、そだっているときこそ、たのしいんだよ」とお日さま。風はそっともみの木にキスをしてくれました。
けれども、もみの木はみんなのやさしさが すこしも わかりませんでした。
夏がすぎ、冬がきて、クリスマスがちかづくと、もみの木は切られ、ひろびろとした部屋に運び込まれました。
召使がやってきて、もみの木に かざりつけを はじめました。くつしたの なかには お菓子がいっぱい。りんごやくるみはっまるで木になっているようです。可愛い人形も、百本もの いろとりどりのろうそくも。
じぶんのうつくしさに、ぼうっとなるもみの木。子どもたちが、もみの木のまわりをおどりまわり、おもちゃやお菓子を持って、おじさんにお話をせがみます。
おじさんは「ずんぐりむっくりさん」のお話をしてくれます。
「あるところに、ころころふとって、ずんぐりむっくりさんと よばれている 男の子がいたんだよ。あるとき、ずんぐりむっくりさんは、とんとんと、階段を ころげおちてしまった。まったく ついていない。だけど、ずんぐりむっくりさん、こんどは とんとんと、えらくなって、ついにおうじょさまを およめさんにしたんだ」
ぼくだって、そうなるかもしれないと思ったもみの木。あしたは また、きれいにかざられるのだと おもって、わくわくしました。
しかし、次の日、もみの木は、暗い屋根裏部屋の運ばれてしまいます。何日たってもだれ一人やってきません。
「春まで ぼくを ここにかくまっておく つもりなんだ」
でも春がやってきて、中庭にはこびだされたもみの木は、ちいさくおられて、まきにされると、燃やされてしまいます。
もみの木は、ネズミたちに昔の森の話をしているときに、じぶんがどんなに しあわせだったかに はじめて きづきます。 燃やされるときになって、森の夏の日や、星の輝く冬の夜や、わかかったじぶんを おもいだすもみの木の気持ちが切ない。
木が語っていきますが、大地からきりはなされ自分ではなにもできない木。一瞬のきらめきと、そのあとのギャップは、木にとって悲しいことだけだったのでしょうか。
この話を12月に聴いたことがあります。ツリーがでてくるのでクリスマスの時期にぴったりと思ったのですが、ラストを考えると、そのほかの時期に聴いても違和感はなさそうです。しかし、子どもはどう受けとめるでしょうか。