チベットの昔話/アルバート・L・シェルトン 西村正身・訳/青土社/2021年
育ての母と実の母が、子どもの手を引きあい、どちらの本当の母なのか決める話は、日本でも大岡裁きの例がある。
たいていは育ての親に旗が上がるが、この話では、ほんとうの母親が、息子を愛し、傷つけたりしては大変と、激しく引っ張らなかったので、王さまの裁定で、子どもは実の母親のもとへ。ただ、この話では、いきなり手をひっぱりあう場面になるので、子どもがどんなふうな状態におかれていたのかが不明である。
このシチュエーションは、日本の昔話にもでてくる。
古代イスラエルの名君ソロモンが2人の母親の子争いを裁くのも興味深い。ソロモン王の裁定は、剣で子どもを2つに裂いて、半分ずつ2人の女にわたしてやれというもの。
一方の女は、ぜひとも半分ずつにしてほしい、という。他方の女は、それならば生きたまま相手の女にわたしてやってほしい、という。
ここでソロモンの判定は、「この子を殺してはならない。生かしたまま他方の女に与えよ。その女がこの子の母である」。
旧約聖書にでてくるというから、この手の起源はだいぶ昔。