新型コロナ:新型コロナ 全数把握簡略化 4県先行1週間 医師「業務量減らず」
2022年9月11日 (日)配信毎日新聞社
新型コロナ:新型コロナ 全数把握簡略化 4県先行1週間 医師「業務量減らず」
新型コロナウイルス感染者の氏名などを確認する「全数把握」の簡略化が2日から4県で先行して始まっている。発生届の対象を高齢者らリスクの高い人に限定し、感染者の情報を入力する医療現場などの負担を軽減する狙いだ。開始から1週間を過ぎたが、先行して見直した自治体ではどのような変化があったのだろうか。
◇容体急変、把握漏れ警戒
全数把握は、医師が政府の情報把握システム「HER―SYS(ハーシス)」に感染者の氏名などを打ち込み、感染の端緒や感染傾向などをつかむために用いられてきた。政府は26日から全国一律で見直す方針だが、都道府県の判断で先行して簡略化することを認めている。発生届の対象外の重症化リスクが低い人でも容体急変の恐れがあり、先行して簡略化した県では医師らがどうケアするかが課題だ。
◇茨城
2日から全数把握の見直しを開始した茨城県。水戸市医師会長で「クリニック健康の杜」院長の細田弥太郎医師は「発生届の対象者か判断するには聞き取りが必要。見直し後、業務量は減っていない」と明かす。同クリニックは非常勤を含む医師3人体制で、発熱外来では車で訪れる患者を乗車させたままスマートフォンなどを通して診察し、車内でPCR検査の検体採取から会計まで行う。見直し以降、休診日を含めて5日までの計4日間で27人を検査し陽性者は23人、届け出対象者は13人だった。
細田院長は「発生届は記入項目が絞られているので、記入はそれほど負担ではない。それよりも自宅療養者の問い合わせが増え、負担になっている」と話す。届け出対象外で自宅療養中の健康観察が行われなくなった感染者について、県が診断を受けた医療機関に相談するよう推奨したことが、見直し後の問い合わせの増加につながっているという。「保健所がやっていた説明までも我々がやることになり、ただでさえつながりづらかった発熱外来の電話がさらに混んでいる」
一方、自治体の担当者からは見直しに歓迎の声が上がっている。県感染症対策課の担当者は見直しについて「意外なほど順調で混乱やトラブルはない」と話す。集計の手間が省け、職員の負担も減少。陽性者相談センターを設置したが、容体の急変といった緊急事態は7日までに出ていないという。担当者は「不安があれば気兼ねなく電話してほしい」と呼びかけている。
◇宮城
宮城県(仙台市を除く)では「全数把握」見直し後の9月3~7日、計4323人の新規感染が発表された。そのうち医療機関から保健所に発生届が提出されたのは約19%に当たる832人分で、全数把握した場合に比べて8割減った。村井嘉浩知事は5日の記者会見で「混乱なくスムーズに移行できた」と胸を張った。
県南部の2市7町を管轄する仙南保健所では、これまで手が回らない医療機関に代わって1日に数十件の患者情報をハーシスに入力していた。担当者は「全数把握の見直しと新規感染者数の減少傾向が相まって、入力すべき患者数が大幅に減り、代行入力の負担も軽くなった」と話す。
ただ、高齢者施設などでクラスター(感染者集団)が発生すれば一時的に業務量が急増する。新たな取り組みは始まったばかりで「業務軽減に目に見えた効果があるかは、まだ分からない」(担当者)。感染拡大の「第7波」がさらに落ち着くまでは、他の職場から応援派遣されている職員の帰任も難しいという。
発生届対象外の患者の体調が急変した場合の対応が懸念されていたが、今のところ問題にはなっていないようだ。急変時には県が設置した24時間対応の「陽性者サポートセンター」に患者自ら連絡する手はずで、県疾病・感染症対策課は「今後も急変患者の把握に漏れがないよう、サポートセンターの認知度を向上させたい」としている。
全数把握の簡略化は宮城、茨城、鳥取、佐賀の4県で2日から始まり、続いて三重と長崎の両県が9日から運用を開始した。【森永亨、小川祐希】