海外で臓器移植し帰国、仲介NPO案内の病院受診できず…臓器売買疑われ「話が全然違った」
2022年8月30日 (火)配信読売新聞
NPO法人「難病患者支援の会」(東京)が仲介した海外での生体腎移植で臓器売買が行われた疑いがある問題で、NPOが患者に帰国後の受け入れ先病院があると説明しながら、実際には診察や通院を断られるケースが相次いでいたことが読売新聞の取材でわかった。病院側が臓器売買を疑うためで、患者は「話が全然違った」と話している。
「病院を探してくれてはいたから口に出さなかったが、『話が全然違う』と思った」。NPOの案内で昨年4月、東欧ブルガリアで腎移植を受けた男性が取材にそう振り返る。
男性はNPOに手術費などとして約1850万円を支払い、昨年3月に日本を出発。同4月にブルガリアの首都ソフィアの病院で生体腎移植を受けた。臓器提供者(ドナー)は、ウクライナ人女性だった。
NPOはホームページに「(帰国後は)私どもが指定する病院へご案内」と記載し、患者向けパンフレットでも「完全に回復するまで治療は継続されフォローアップの病院(日本の医師)へ引き継がれる」と説明。男性は渡航前、NPO実質代表(62)から「帰国後は移植医療で有名な西日本の総合病院が診てくれる」と言われていた。
だが、NPO職員が連絡すると、この病院は「臓器売買の疑いがある」として通院や入院を拒否。このため男性は同月末に帰国後、NPOの案内で東京都内の大学病院を訪れたが、この大学病院でも「海外で移植を受けた患者は受け入れない」と断られた。
男性はNPOの案内で都内の別の病院を受診したが、まもなく通院を断られた。そこで、神奈川県内の病院に通い始めたが、治療の過程で「外国で腎移植を受けた」と告げると担当医の態度が急に変わり、やはり治療継続を拒まれた。
男性はその後、NPOの紹介で首都圏の別の病院を訪問。ここでも治療に難色を示されたが、男性が「何度も断られ、もう他に行くあてがない。命の問題だから助けてくれませんか」と懇願すると、やっと通院を認められたという。
男性と同時期にブルガリアで腎移植を受けた別の患者も、NPOの案内で西日本の総合病院を訪れたが、通院などを断られていた。患者はその後、自分のつてで神奈川県内の大学病院に通院している。
NPO関係者によると、今年7月にベラルーシで死体からの腎移植を受けた患者も、NPOに勧められた大学病院に通院の予約を入れようとしたが断られ、知人の紹介で別の民間病院に通院したという。
ブルガリアで手術を受けた男性は取材に「またいつ診察を断られるかもしれないと思うと怖い。海外での移植がこんなに大変なものだとは思っていなかった」と話した。
NPOはホームページ上の「帰国後の治療について」と題する文書で、「帰国後の患者が診療を受けられずに路頭に迷う人は私どもの活動において誰一人いません」としている。
「拒否」の合理性認める判決も
医師法では、医師は正当な理由がなければ診療を拒めないと定めている。
だが、海外で臓器移植を受けた患者は、命に関わる緊急性のある場合を除き、診察に難色を示されたり断られたりするケースが多い。病院側が「臓器売買に関与したとみなされれば、保険医療機関の指定取り消しなどの行政処分を受けかねない」(医療関係者)などと懸念するためだ。
患者と病院との訴訟に発展し、裁判所が診療拒否を認めたケースもある。
中国で2015年に腎移植を受けた男性が、診療を拒否した浜松医科大病院の運営法人に損害賠償を求めた訴訟では、静岡地裁が18年12月、男性の請求を棄却した。臓器売買の疑いがある患者を診療しないという院内の申し合わせに基づく対応は「一定の合理性がある」との判断だった。男性は控訴したが、2審の東京高裁でも1審判決が支持され、その後、確定している。
弁護士資格を持つ同大医学部の大磯義一郎教授(47)(医療法学)は「患者の命が最優先なのは言うまでもないが、医師や病院が臓器売買ビジネスに手を貸すようなことはあってはならない」と話している。