温泉クンの旅日記

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佐原で極上あぶり餅

2016-02-14 | 食べある記
  <佐原で絶品あぶり餅>

「あぶり餅、ください」



 店先の焼き場で炭を整えている年配の女性に声をかけると、寒いのでどうぞ店のなかでお待ちくださいと勧められる。でき上がったものをもらい、食べ歩くような簡便な形式のあぶり餅かと思ったらそうではないらしい。
 席に座ると、店のなかにいた若い女性がお茶を出してくれる。



「注文を受けてからつくりますので、お茶でもどうぞ飲んでいらしてください」
 ふうむ・・・これは、ひょっとして京都のような本格的なものなのだろうか。いや、とにかくあまり期待しないほうがいいだろう。
 
 あぶり餅は、親指大のきなこを塗した餅を長めの竹串に刺して備長炭の火で炙り、白味噌の甘いたれを塗った餅である。柔らかく、香ばしくまろやかな甘みのひとくちサイズの餅だ。



 わたしは京都に行くと実によく歩く。
「歩き倒す」という勢いで名所を次々と巡るのだ。
 だから、嵐山から歩き始めて洛西を歩きとおし、大徳寺の裏を抜けた今宮神社門前の茶屋に辿り着いて初めてあぶり餅を食べたとき、餅にからんだ白味噌の甘みがじわーとへとへとの身体にしみわたり、こいつは実に旨いと心から思ったのだ。
 平安時代から千年の歴史をもつ今宮神社のあぶり餅は日本最古の和菓子屋といわれ、参道で応仁の乱や飢饉のときに庶民に振る舞ったといわれている。



 運ばれてきたあぶり餅は、いやはやどうも、いい意味で期待を裏切る本格的なものだった。京都のように白味噌だれではなく醤油だれだが、いやあ、こいつはたまらないぞ。美味しいのひと言。たしかにこれはあぶり餅だ。いや、待てよ。この味・・・どこかで食べたことある。

「どちらからですか」
 顔をあげると、いつのまに来たのだろうか若旦那風のひとがカウンターのなかにいる。
 横浜からです、と答えると、遠いところをどうもと言いながら佐原はこの季節より初夏に訪れるのが一番のお薦めだという。
「やっぱり、あやめ・・・ですかね」
 初夏の六月、佐原の一大イベントである「あやめまつり」では<水郷佐原水生植物園>で四百品種百五十万本のハナショウブが咲き誇る。
「もちろんあやめもそうですが、川沿いの柳の新緑も生き生きとして、それはええええ、とても素晴らしいし・・・」



「ところで、このあぶり餅はとても美味しいですね。いつも京都へ行くと食べるヤツにも引けをとりませんね」
 強い郷土愛からだろうか、スイッチが入って佐原のアツイ話が明日の朝まで止まらなくなりそうなので話題を変えたつもりが失敗してしまう。
「あ、今宮神社のを、お客さまは知ってらっしゃるんですか!」
 ジツは大徳寺のそばで生まれて、幼いころから今宮神社門前の二軒の茶屋にしょっちゅう出入りしていたと、別な熱弁が始まり、ここからしばらくは京都の甘味話で盛りあがってしまう。それにしても、てっきり佐原かとばかり思ったら京都生まれだったとは驚いた。

「あぶり餅って、ベースの味がたしかあちらは白味噌ですよね・・・」
「ええ、そうですが、オリジナルなものにしようと思い、すべて佐原の名物でつくろうと、たれは醤油と味醂でこしらえたんです」
 なるほど。ただし、正月だけは京都と同じ白味噌だれで提供するそうだ。ああ、そのテーブルの山椒をかけるとひと味違いますので試してくださいな、と言われて試して瞠目する。うなぎだけでなく山椒は、醤油だれ全般のものにかけると魔法のようにすべてひと味引き立てるのだ。
 その瞬間、思いだした。

「この醤油だれの絶妙の味わい、どちらかというと鹿児島の両棒餅(じゃんぼもち)にそっくりですね」
「えっ、ジャンボ・・・ですか。恥ずかしながら、どういう字を書くのでしょうか」
「両方の『両』に、木ヘンの『棒』、それに餅という字です」
 差し出された紙片に、下手な字で書きなぐったのだった。

 よほどの甘党と勘違いされたのか、近くにある店のたい焼きが絶品なのでぜひとも食べていってほしいと強く勧められ、またも忠敬橋方面に戻るハメになってしまう。
 それと、向かいの店もあぶり餅を始めるかもしれないという話もあるそうで、もしかしたら今宮神社門前のような二軒茶屋みたいになるかもしれない。



 蕎麦、あぶり餅、たい焼きと満腹なのに帰り道で焼き立てパン屋を発見すると、ついついよせはいいのに旨そうなパンを二個買ってしまうわたしであった。


  →「両棒餅」の記事はこちら
  →「本命麦代餅、対抗かつら饅頭」の記事はこちら
  →「たい焼き、老舗と古本屋」の記事はこちら
  →「佐原の町並みを歩く(1)」の記事はこちら
  →「佐原の町並みを歩く(2)」の記事はこちら
  →「佐原の町並みを歩く(3)」の記事はこちら
  →「佐原、超老舗の黒切蕎麦」の記事はこちら

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