入手時の説明には鶺鴒となっていましたが、本作品は五位鷺を描いた作品と思われます。平福百穂が晩年によく描いた画題であり、画集によると絶筆となった作品も五位鷺を描いた作品とされています。この絶筆なった作品も本作品と同様に色紙の作品です。
この作品は入手時のタトウの書付から推察すると「なんでも鑑定団」に出演しておられる安河内真美氏のお店からの購入された作品の可能性があります。
五位鷺 その2 平福百穂筆 昭和8年頃
紙本水墨淡彩色紙 誂タトウ
洗心(安河内真美氏)より購入 色紙サイズ:縦270*横240
五位鷺の名の由来は「平家物語」(巻第五 朝敵揃)の作中において、醍醐天皇の宣旨に従い捕らえられたため正五位を与えられたという故事が和名の由来になっていますね。また、能楽の演目「鷺」はその五位鷺伝説に由来しています。
平福百穂が晩年に行きついた墨絵の境地が存分なく発揮された作品です。小作品ゆえに逆にその境地の凄さが味わえますね。
作品中の落款と印章、また購入時のタトウの書き付け下記のとおりです。色紙タトウに記されている「洗心」は安河内真美氏が1985年に港区六本木に開店し、2006年に改名するまでのお店です。この色紙タトウはもともと松林桂月の作品が納められていたのかな?
印章にある「白田草堂」は平福百穂が大正8年に創設した画塾「白田舎」のことのようです。現在の世田谷にあったらしく、昭和2年に隣接して新居が建てられています。「白田草堂」が画塾なのか新居のことなのかは不明ですが、画塾の方が可能性が高く、このことから大正8年以降の作と推定されます。
*当方では調査資料とともにタトウに収めて作品を整理しています。
平福白穂の色紙の作品は専用の箱に収納していますが、そろそろ満杯になってきました。
ちなみに安河内真美氏の略歴は下記のとおりです。
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安河内真美:福岡県北九州市生まれ。西南女学院高等学校、上智大学外国語学部ロシア語学科を卒業後、東京都中央区銀座の画廊店に勤務。アメリカ合衆国に語学留学し帰国後、刀剣商を経営する義兄の影響で古美術に関心を持ち、都内の老舗骨董店に転職して古美術商としての修行を積んでいます。
1985年、港区六本木に古美術店「洗心」を開店し、2005年11月9日に株式会社偶庵を設立。翌2006年に店名を「洗心」から「美術商やすこうち」に改名しています。
安河内の存在を広く知らしめることとなったのは地元TVQ九州放送のキー局・テレビ東京が制作する『開運!なんでも鑑定団』への鑑定士としての出演です。当初は横山大観の弟子であった渡邉包夫の傍らにあって鑑定力を磨き、渡邉が1998年に逝去した後は日本画系統の鑑定で中心的な役割を果たしています。
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冒頭の平福百穂の絶筆となった作品は下記の作品です。本作品より洗練された作品となていますが、構図が同じでありほぼ同時期に描かれた作品と推定されます。
また当方の所蔵作品において平福白穂が五位鷺を描いた作品は他に下記の作品(下写真左)があります。こちらも同様の印章が押印されており、描かれた時期は近いものと推定されます。下写真右は絶筆の上記写真の説明にあった文章です。
本日紹介した作品は足の部分に不安定さを感じるですが、絶筆の作品や上記作品では改められています。本作品と絶筆になった作品との描かれた時期の違いなどの詳細は不明ですが、晩年に好んで描いた題材には相違ないようです。いずれにしても絶筆の作品との関連からも興味をそそられる作品ですね。
平福百穂の色紙程度の作品が二箱目の収納箱となりました。同郷の福田豊四郎の色紙の作品はさらに上回る数となっていますが、色紙の作品は額のまま保管しないで別々に保管したほうが保管場所に困らないし、いろんな色紙額との取り合わせが愉しめます。