夜噺骨董談義

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芦雁図 平福百穂筆 その58 大正8年(1919年)冬

2021-02-22 00:01:00 | 掛け軸
以前から本ブログで記述しているとおり、平福百穂の真作を入手するのは非常に難しい。その理由はむろん贋作が多いことと、さらには印刷などの工芸品が非常に巧妙に出来ていることによります。巧妙な印刷作品の一部には印章がまったく真作と同一のもの(真印)の作品があります。印刷か否かは素人では全く区別がつきづらい作品があるようです。

そんな状況で本作品を入手しました。作品中の印章はまだ確認できていませんが、真作と確信しています。これはもはや感でしかありませんが、かなり確証を持っている作品です。



芦雁図 平福百穂筆 その58 大正8年(1919年)冬
紙本水墨淡彩軸装 軸先 共箱二重箱 
全体サイズ:縦2310*横615 画サイズ:縦1520*横410

勢いのよい筆遣いで葦を描き、十二分に水分を含んだ筆で雁を描ききった技量にて、素晴らしい作品となっています。おそらくかなり短時間で描いた作品でしょう。

 

「己未(つちのとひつじ)冬日」と箱書きにあることから1919年(大正8年)42歳の時の冬に描かれた作品と判断できます。

 

この年以降に平福百穂は帝展への出品への興味を失い、この後はしばらく出品していません。期することがあったようで頭をまるめています。世俗から離れた境地がこの作品を生み出したように感じます。

このやけくそのような筆致は平福百穂独特のものですね。



*箱書にある印章も珍しく、1912年(明治45年)「水郷漁村」の印章と同一印章であることが確認できています。

 

11月に関西に遊び、正倉院御物を拝観しています。またさらに11月から12月にかけて、平福家発祥の地を求めて、兵庫県佐用郡平福村を訪ねおり、おそらくこの頃に描いた作品ですね。



同年の作品では図集に夏に描かれた「松林帰牧」という作品が掲載されています。落款と本作品の箱書きを下記の写真のように比較してみました。このようにいろんな作品を参考にすることでいろんなことが解ってきます。

  

本作品は下記のような保管箱に収められています。



秋田の画家は四条派の影響を多々受けており、このような蘆雁図は数多くの画家が描いています。平福百穂の作品も下記の作品があります。また同題の作品「蘆雁」が1930年(昭和5年)にパリ日本大使館に寄贈されているという記事もあります。

参考作品
蘆花双雁 1932年(昭和7年)作
絹本水墨淡彩軸装 角館町平福記念美術館蔵
作品寸法:縦1581*横515



秋田県角館町にある平福記念美術館の所蔵作品ですね



なお同年の5月に描いた作品では本ブログにて下記の作品が紹介されています。

峡田耕牧 平福百穂筆 大正8年(1919年)5月
紙本水墨淡彩軸装 軸先 中田百合鑑定書付 共箱 
全体サイズ:縦2095*横462 画サイズ:縦1348*横330



呑み込みの悪い当方には、数多くの作品を慎重に吟味して蒐集して、ようやく少しずつ真作が集まるようになるようです。



この作品の入手により、印章に疑問があり、真贋不詳に分類していた作品を身直した作品があります。というか増々迷路に嵌り込んだような気もします。

荒磯 平福百穂筆 大正15年(1926年)頃 真贋不詳→大正8年(1919年)頃 真作 
絹本水墨淡彩 絹装軸 軸先象牙 共箱二重箱
全体サイズ:横663*縦2340 画サイズ:横1380*横511

 

「葦雁」と同時期に描かれた作品と推定されます。

 

印章の違いから真贋不詳に分類されていましたが、箱書は「葦雁」を参考にすると本物と判断されます。共箱は本物で、中身(作品)を贋作とすり替えたという推測もされますが、その疑いはまだ晴れていません。

平福百穂の真贋の判断はともかく難しい・・、骨董は奥が深い。


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