夜噺骨董談義

収集品、自分で作ったもの、見せていただいた品々などを題材に感想談など

古武雄焼 その4 緑褐打釉櫛目文大平鉢

2018-05-21 00:01:00 | 陶磁器
最近の「なんでも鑑定団」に出品された「古武雄」の作品。虎が描かれた図柄が珍しいこともあり、120万という高値の鑑定でした。



なんでも鑑定団に評では「名品。古武雄は佐賀県の武雄で江戸時代に焼かれたもの。表に白い土で化粧してその上に絵を描くのが特徴のひとつ。松の木をシンプルでダイナミックな筆で描いたものが数多くある。依頼品に描かれている虎というのは珍しい。鉢の縁がぎゅっと鍔縁に広げられて丁寧な作り。」とあります。それでも120万の鑑定金額は高すぎますね。

桃山期(16世紀末~17世紀初頭)に九州の肥前地方(現在の佐賀県西部及び長崎県北部)を中心に焼かれた「古唐津」は、長く日本において愛されてきました。鉄絵、朝鮮唐津など基本的にはモノトーンで表されるのびやかな装飾は、いまでも多くの人を惹きつけてやみませんが、江戸時代前期(17世紀前半)から19世紀にかけて唐津と近接する武雄地域で「古武雄」というやきものが誕生しています。「弓野焼」、「二川焼」、「二彩唐津」、「武雄唐津」を総称して「古武雄(コダケオ)」と称していますが、本ブログでの「古武雄(コダケオ)」に分類される作品紹介は四作品目となります。

古武雄焼 その4 緑褐打釉櫛目文大平鉢
古杉合箱
口径365*高台径*高さ105

「俺は生活雑器たぞ! 早々簡単には毀れないぞ!」という裏側の高台には力強さがあります。入社後にすぐ辞めてしまうような最近の若者にはない力強さのある作行です



江戸時代前期に作られた古武雄の水甕などは、かつては民藝陶器の分野に入れられていたものですが、当地の陶芸家で人間国宝の中島宏氏(本ブログにて青磁の作品を紹介しています、)がこれを収集・研究して肥前陶磁史上に古武雄として確立しました。

最近、中島宏氏が逝去され、改めて「古武雄焼」の蒐集家、研究者として評価されています。中島氏の蒐集作品をメインに展示会も催されたこともあります。



鉄分を含んだ赤い土をろくろの上で立ち上げ、回して形を作る。そして回しながら水に溶かした白泥を刷毛目で塗っていくため、白い部分に濃淡が出て、絵が浮き上がります。鉄絵具で一気呵成に絵を描き、この力強さに甕の作品を観た棟方志功も感動して半日口をきかなかったといい、またピカソはこれこそ本物の芸術だとうなったといわれています。



現在では本ブログでも紹介した松を描いた甕の作品が有名ですが、本日は刷毛目文様の大平鉢の作品の紹介です。むろん大平鉢の作品も近年評価が高くなっています。

参考作品:九州陶磁文化館蔵の中島宏氏コレクション「緑褐彩櫛目文平鉢」 武雄市重要文化財



参考作品:緑褐釉櫛目文大平鉢 江戸時代17世紀後半、口径52・3cm、高さ16・2cm(画像が不鮮明なことはご容赦願います。)



古武雄焼の大平鉢の作品においてもっと大きな作品が多々ありますが、本日紹介する作品のようにこれほど細密な櫛目文様の古武雄焼の作品は珍しいでしょう。



その櫛目文様に緑釉と褐釉が打ち釉として施されアクセントとなっています。



近代的な幾何学文様のような斬新なデザインとなっており、「江戸のモダニズム」と古武雄焼が評されるのも頷けます。



唐津、弓野、小鹿田の各々の特徴を備えており、古武雄焼の中でも最も佳作な部類に入るであろう。近年では東南アジアでも出土し、輸出されていたことが分かってきています。



さらには、豪快な筆使いの魅力と現代アートにも通じる斬新な文様にますます注目が集まり、従前の古唐津と並べて「知られざる唐津」・「江戸のモダニズム」などと称され、高い評価を得るようになっています。

この刷毛目を使った技法はどのような技によるものか実際の工程を観てみたいものです。



なおバーナードリーチは小鹿田にて数多くの作品を遺したことは知られていますが、古武雄でも代表的な様式である弓野にそっくりな大皿を製作しており、リーチがその手の作品を遺しています。1934年にリーチが来日した翌年リーチがその手の作品を遺しています。



ただバーナードリーチが製作したのは、武雄でも弓野でもなく、福岡の二川でした。西南戦争のときに武雄の陶工たちが二川に移住して、そのままそこに住み着いてしまっており、リーチはその二川を訪ねて弓野のような作品を製作しました。そのせいで武雄より二川のほうが有名になってしまいましたが、武雄焼は日陰の存在たるところがあり、茶陶の歴史からみると古唐津の陰に、民藝の観点からみるとリーチや二川の陰に、という具合の傾向があり、なかなか表舞台には登場しなかった陶磁器群でした。

*なおバーナードリーチは、1954年(昭和29年)4月、小鹿田に約3週間滞在し、作陶を行っている。当時67歳と既に陶芸家として大きな名声を得ていたバーナードリーチの小鹿田での作陶と、大手デパートでの展示会は、マスコミで大きく取り上げられ、小鹿田の知名度が高まる大きな契機となった。

小鹿田焼のおいてのバーナードリーチの参考作品(左は当方の本ブログにて紹介した作品です。右はあまりにも有名な作品ですね。) 

 

武雄焼、弓野焼が再評価されているとはいえ、松の絵ばかりではという御仁の多いでしょうが、このような大平鉢もあります。



松の絵の甕はたしかにいい作品ですが、なんといっても数が多いので飽きがきます。



多用なデザインの作品がある大平鉢はとても面白い作品のように思います。



機会があれが入手したい作品ですが、意外に高価なのが難点ですね。

最後の古武雄焼に分類されている作品で本ブログに投稿されている作品を改めて紹介します。

松絵紋二彩唐津水指 古弓野焼(古武雄)
漆蓋 合箱
口径96*胴径175*底径*高さ145



松絵紋二彩唐津水甕 古弓野焼
合箱
口径320*胴径355*高台径130*高さ295



同上片面



松絵紋二彩唐津大徳利 古武雄焼(二川焼)
「小さな蕾」(2001年4月号 「骨董と偲ぶ」)掲載作品 合箱
口径*胴径135*高台径*高さ240



本日紹介している作品は人によっては小鹿田焼と思われる方もおられるかもしれませんが、古武雄焼に相違ありません。



見事な技法に基づいた力強さは民芸の転々とも言える作品です。



古武雄焼はもっともっと評価されて良いのでしょう。



最近亡くなられた世に武雄焼を知らしめた人間国宝の陶芸家中島宏氏の遺志を継ぐ人々がおられることを祈るばかりです。



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