夜噺骨董談義

収集品、自分で作ったもの、見せていただいた品々などを題材に感想談など

九谷五彩手 明末五彩倣草花文四寸角皿 五客揃

2020-07-06 00:01:00 | 陶磁器
蒐集する者は蒐集作品が煮詰まってると、マニアックな蒐集になりがちとよく言われます。古伊万里なら古伊万里のみ、李朝なら李朝のみ,そしてその領域の関連するいろんなものまで・・。美的センスとは距離を置いた作品蒐集になりかねませんね。これが蒐集する側には意外に多く、多くの蒐集家がその蟻地獄に嵌り込みます。作品群もそうなるように仕組んでいる節がありますが・・・。



当方でいえば、たとえば「明末の餅花手」の作品群です。最初に藍釉の作品を入手しました。さらに褐色釉薬、藍釉の龍文のある作品と入手します。ここまではいいとして、さらにできれば柿釉、青磁、白釉と蒐集を目指すことになり、ふと振り返ると最初の藍釉の作品の美しさに敵う作品は他にはないと気が付く・・。

多少破損の補修跡のある作品まで入手してしまっていますが、それが意味のある蒐集か否かという美的感性の琴線に触れます。家中に所狭しと並べると、たとえ一級品であっても、そのような蟻地獄に嵌った作品群の中では光り輝くことはないことに気がつきます。金銭的価格に心奪われたり、美的感覚より学芸的研究心が優先したり・・・。蒐集者は骨董商でもなければ、研究家でもないのですからあまりマニアックになるのは戒めなくてはならないのでしょう。



よく考えると、蒐集は一代限りかもしれません。個人個人で趣向が違うので、なんのための蒐集かということが重要だと最近改めて思いなおすことがよくあります。

ともかく愉しめと最近入手したのが、本日の作品です。

九谷五彩手 明末五彩倣草花文四寸角皿 五客揃
徳田八十八吉識箱
幅132*奥行132*高さ34



古九谷は言わずと知れた陶磁器を蒐集する者以外にとっても垂涎の的です。ひと作品は青手の大皿が欲しいと夢見るものです。当方もいつも夢見ていますが、むろんたやすく叶う夢ではありません。



そこで明治期の紛い物や再興九谷などを手にして喜んでいるのですが、だんだん「やっぱりつまらないな~」と思うようになります。



実際に使えるか? 飾るしかあるまいという作品はつまらないと・・。それで徐々に蒐集の志向が使える大きさのものになっていくのですが、ちょうどよい大きさの古九谷の作品は「九谷五彩手」という作品群になっていきます。



ご存知のように「古九谷」と呼ばれる磁器は、青、緑、黄などの濃色を多用した華麗な色使いと大胆で斬新な図柄が特色で、様式から祥瑞手(しょんずいで)、五彩手、青手などに分類されています。多くの人が恋焦がれるには「青手」でしょうが、これは叶わぬ恋・・・。小生のような凡人には高嶺の花・・。「祥瑞手」は数が少ない? そこで数が多く、入手しやすい?「五彩手」ということになります。



九谷五彩は緑・黄・紫・紺青・赤の色絵の具を自在に活用して、黒の輪郭線を用い絵付けされたスタイルです。5色の色絵の具をフル活用することから、「五彩手」とも呼ばれます。器の中央に、作品のモチーフを絵画的・写実的に描くことも、色絵の特徴です。作品の見どころは、屏風や掛軸から器へ抜け出してきたかのような絵画を描いた、熟練された絵付けの筆づかいです。



特に色絵の古九谷は、中国の明王朝末期から清王朝初期にかけての色絵磁器がモデルになっているとも言われ、大皿 (大平鉢) から小皿 (端皿) に至るまで、中国風の人物・動物・山水 (風景) を見事に描写した名品が数多く残されています。



あこがれはむろん大皿でしょうが、飾るだけでなく実用を優先するなら手頃な大きさのものを選びます。ただこれは時代の判断が難しいのです。素人にはまったく判別がつかないでしょう。小生は気に入ったものを入手し、仏壇の蝋燭置き、筆置きに使っていますが、古いのやら新しいのやらさっぱり解りません。



初代徳田八十吉らなど多くの九谷の陶工が再現の取り組んできましたので、再現した作品と並べても「九谷五彩」の作品と称するものの時代判断は素人の域を超えているのでしょう。



本作品は「中国の明王朝末期から清王朝初期にかけての色絵磁器がモデル」そのものです。大湖石などの花鳥画のデザインは中国の南京赤絵や五彩の作品がモデルで相違ないでしょう。絵付けが稚拙と言えばそれまででしょうが、味があるという見方もできますね。ちょっと見は南京赤絵風となっています。



箱書の識は初代徳田八十吉によるものかと思われます。箱蓋裏には「古九谷中筆致殊尓(に)面白き変り多き珍品也」とあり、さらに「九谷八十吉識 押印」とあります。印章は朱文白方印「九谷八十吉」で、初代の印章と思われ、初代徳田八十吉の識箱書と推測されます。



有名な「徳田八十吉」は現在で4代目となります.

*本ブログでは二代と三代の作品が紹介されています。

初代の陶歴は下記のとおりです。

******************************************

初代徳田八十吉(1873年11月20日~1956年2月20日)は、吉田屋窯風の作風を得意とし、古九谷・吉田屋の再現に生涯をかけた陶工です。号は鬼仏。指導者として浅蔵五十吉、二代目、三代目徳田八十吉等を育ています。
明治 6年 石川県能美郡小松大文字町(現小松市)の染物屋に生まれ、
明治22年 荒木探令に師事して日本画を学んでいます。
明治23年 義兄松本佐平(佐瓶)に師事、陶芸の道に進みます。
大正11年 東宮殿下御成婚の折、石川県より花瓶製作献上。
昭和28年 上絵付け(九谷)の技術が文部省より無形文化財の指定を受ける。
昭和31年 死去。

******************************************



「古九谷中筆致殊尓(に)面白き変り多き珍品也」は言い得て妙・・・。このような作品を入手することをマニアックというかどうかが本日の論点です。私の美的感性からはこれが蒐集の醍醐味・・。「古九谷でござい」の作品ばかりではつまらなかろう。紛い物と笑わば笑えという居直りかもしれませんが、当方のように明末の作品を蒐集している者にはこのような作品は愉しくてしょうがない。使う前に飾って置いています



箱書きが無ければ、明末から清朝にかけての民窯の色絵と判断していたでしょう。ま~それでも構わないのですが・・。これをマニアックというのかもしれませんね

正直なところ、この作品はマニアックではなく、王道の作品だろうと考えています。明末の五彩手と古九谷とをつなぐ作品、そしてそれを見極めた初代徳田八十吉、骨董陶磁器に醍醐味でしょう。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。