■ 「金融抑圧」という聞きなれない言葉 ■
昨今耳にする「金融抑圧」という言葉。非常に単純化してしまえば次の様になります。
インフレが発生しても金利を低く抑えてインフレを放置
要は「インフレの放置プレー」
■ 実質的財政ファイナンスで金利を抑制する ■
フィナンシャルタイムスの記事は、日銀の異次元緩和の先を予見しています。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM2905Z_Z20C13A5000000/?df=3
<前略>
日銀は長期金利の道筋についてガイダンスを与えなければならない。金利が(恐らくは変動する)上限を超えた時には、無制限で買い入れを行うべきだ。日銀としては、多少の上振れがあっても、短期金利をゼロ%に維持する期間を明示することで、政策を後押しできるだろう。例えば、(インフレ率ではなく)物価水準が特定のレベルに達するまで金利をゼロに据え置いてもいい。こうすることで日銀は一定の予測可能性をもたらせるかもしれない。
次に、政府と日銀は日本の政府債務の山を管理する良い方法を見つける必要がある。いかなる解決策にもマネタイゼーション(貨幣化)という大胆な措置が盛り込まれなければならない。これには恐らく、銀行に対する預金準備率の恒久的な引き上げが必要になるだろう。
準備率の引き上げは銀行の預金者に負担を課すことになる。だが、日本では、民間銀行に政府への恒久的な超低利融資を担わせることが理にかなう。経済成長の見込みが薄く、民間借り入れが力強い回復を遂げる可能性が低く、公的債務残高が巨大だからだ。また、銀行預金に付く低い(恐らくはマイナスの)実質金利は、円安と資産価格上昇、そして個人消費の増加をもたらす可能性もある。こうした効果はどれも極めて望ましいものだ。
<後略>
1) インフレが発生しても短期金利をゼロ%に据え置く
2) 日銀の財政ファイナンス(マネタイゼーション)を実施すべき
3) 銀行の預金準備率を引き上げる
日本の財政破綻をさせない為には、マネタイゼーションによって、国債金利を強引に抑制する必要がある。この考え方は、一昨日、このブログで私が主張した内容に通じます。日本は、マネタイズでしか財政破綻を回避出来ないのです。
一方、マネタリーベースの拡大はインフレの進行を招きますが、それを抑圧する為に銀行の預金準備率を引き上げろと主張しています。
■ 「金融抑圧」は第二次世界大戦中と後のアメリカで実施された ■
興味深い記述を紹介します。
「政府債務累増の帰結 米山秀隆 」
http://jp.fujitsu.com/group/fri/downloads/report/economic-review/200307/review04.pdf
コピーできなかったので要約します。
4.第二次世界大戦後のアメリカ
1)第二次世界大戦後のアメリカの政府債務のGDP比は110%に達した
2)商用銀行の資産に占める国債比率は70%にも達していた
3)戦後の景気回復で国債価格が下落して、民間銀行が破綻するリスクが高まった
4)国債価格の下落を防ぐ為、連銀は国債金利を2.5%に固定する公開市場操作を開始
5)公開市場操作は国債金利を2.5%に固定する様に市場から連銀が国債を大量に買い入れた
6)国債金利を2.5%に固定した為に、インフレが進行しても金融引締めは実施出来なかった
7)戦後のアメリカは緩やかなインフレが持続した
8)インフレの持続により政府債務は増えたにも関わらずGDP比は74%縮小された
9)1950年の朝鮮戦争によるインフレの進行で、2.5%の固定は解除された
この様な政策が実現した背景には、当時のアメリカの国力の強さがあります
1) アメリカは戦勝国として、そしてその経済力において基軸通貨の地位を確立していた
2) アメリカは多額の計上黒字を計上する債権国であった
■ 戦後の日本でインフレの抑制が効かなかった ■
上述の記事は戦後の日本についても記述しています。
5・第二次世界大戦後の日本
1)1944年の日本の債務残高のGDP比は189%
2)この原因は1932年の高橋是清の国債の日銀の引き受けで軍事費が肥大化した為
3)高橋是清の政策は昭和不況のデフレ克服の一時的緩和を目的としていた
4)226事件で高橋是清が暗殺され、日銀の財政ファイナンスは恒常化した
5)国債引き受けで戦時中に大量に発行された日銀券は戦後ハイパーインフレの要因となる
6)統制経済カで資本逃避や金利上昇など市場反応が起きなかったので物価上昇が発生した
7)インフレにより債務はほぼ帳消しとなった
■ アメリカ型金利抑圧と、日本型のハイパーインフレ ■
アメリカも日本もインフレによって政府債務を圧縮した事には変わりありません。
アメリカは「印有抑圧」によって緩やかなインフレを持続させ債務を帳消しにしました。それが可能だったのは、機軸通貨というドルの信頼があったからに他なりません。さらにドルは金兌換通過だったので、信用が金によって裏打ちされていました。
一方、日本は戦後の統制経済によって隠されていたインフレが一気に噴出したとも言えます。戦後も以前経済は統制されていましたが、闇市の取引価格は配給や統制価格を大きく上回っています。国土が焦土化して物資が不足した影響よりも、物流が破壊された事によって都市部で農産物が不足した事がインフレ加速の要因となりました。
■ 今後の日本はアメリカ型か、戦後日本型か? ■
日銀が実質的な財政ファイナンスに突入した現在、将来的なインフレは発生するのでしょうか?
インフレの要因は幾つか考えられます
1) 円安による輸入物価の上昇
2) 景気回復による自然な物価上昇
3) 金融緩和バブルの発生による資産インフレ
4) 中東戦争による石油価格の暴騰
5) 金融危機による経済状況の激変(通貨価値や国債価値の下落)
1)は既に始まっています。
2)は少子高齢化の日本では限定的で、高率のインフレを発生させる要因とはなりません。
3)は東京オリンピック招致の決定により発生する確率が高まりました
4)は、アメリカ経済とドルや米国債の先行きによっては起こり得ます
5)は、確率的に起こり得えます
はたしてこれらのインフレが発生するとして、マイルドなインフレとなるのか、それともハイパーインフレ的な急激なインフレの進行になるのか、どちらでしょう?
財務省や日銀が望むのは、当然「マイルドなインフレの継続」です。
■ 異次元漢和は「金融抑圧」と言えるのか ■
現状、インフレが進行している訳ではありませんが、異次元漢和後に長期金利は0.8%程度で安定しています。
これがインフレ局面でも、金利が2%以下で安定していれば「金融抑圧」が働いていると言えます。但し、インフレ率が2%程度では金利とバランスしてしまいますから、もっと物価上昇圧力が掛かるイベントが必要となります。
「東京オリンピック」は景気回復の起爆剤になりそうですが、それでもその効果は限定的だと思います。あるいは「東京地域限定」の回復で、地方経済への波及効果は低いと思います。
■ 世界的な「金融抑圧」のパラダイムシフトを促す石油危機 ■
日本に限らず、量的緩和で国債の実質的ファイナンスに突入したアメリカでも、出口戦略に躓けば、日本の後を負う形で、FRBの国債買い入れが恒常化するかも知れません。そう考えると、リーマンショックで民間から国家に付け替えられた負債を解消する方法は、増税でも、債務削減でも無く、中央銀行の財政のファイナンスによる「金融抑圧」が最も安直な方法の様に思えます。
しかし、世界経済はデフレ基調なので、インフレによる財政赤字の解消は難しい状況です。
但し、世界に一律にインフレを引き起こす方法があります。
中東戦争をきっかけとした原油価格の高騰です。
こう考えて来ると、強引と思えるアメリカのシリア政策も何となく合点が行きます。
今はまだ準備段階で、中東戦争の原因を「演出」している段階でしょう。
日本の会計法の改正によって、国債の時価評価が停止されるのが2015年ですから、世界はその頃、かなりキナクサクなっているかも知れません。
■ 公然とマネタイズが語られる様になたら要注意 ■
世界はリンクしていますので、公然と中央銀行の財政ファイナンスが論議され始めたら要注意なのでしょう。今は「禁じ手」とされていますので、準備段階なのかも知れません。
さて、リフレ論者にしてみれば、「ゆるやかなインレは大歓迎」となります。
さらに金利抑圧ならば、企業活動を阻害する要因も少ない様に感じます。
こう考えると「アリじゃん」とも思えますが、困る人達が居ます。
年金生活者と、社会保障の受給者です。
あるいは、預金を大量に保有する資産家も損をします。
世代間格差や、生活保護の不正受給問題は一気に是正されますが、本当に困っている人はかなり苦しい生活を迫られます。
そして、原油価格の高騰がインフレの要因となった場合は、「好景気」では無く「不景気」と「インフレ」が同時進行するスタグフレーションが発生する為、会社の倒産による失業が急増するはずです。
こう考えると、インフレによる財政赤字の解消は、やかり景気回復による緩やかなインフレの持続で実現する事が好ましいと言えます。はたして、現在の日本やアメリカが、第二次大戦直後の様な潜在成長力を有しているのか・・・
楽天的な展望を流布する三橋氏が若者の支持を集める事は理解出来ます。
しかし、世界はもっとシビアな状況に置かれておる様に思えるのは、私がチキンだからでしょうか?本日も朝から妄想をタレ流してしまいました・・・・。
<追記>
アメリカのFRBはリバースレポなる手法を導入しるみたいですね。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE98804L20130909?pageNumber=2&virtualBrandChannel=13848
1)FRBが将来的な買取を約束して国債を民間に売却
2)その際の金利は、固定金利でFRBがその時点で妥当だと考えり金利とする
確かに市場からダブついた資金を吸収する良い手立てだと思いますが、金利の決定権も市場から剥奪されます。あれ、これも一種の「金融抑圧」なのでは?