■ 既に経済は均衡しているとすると ■
リフレ論者はデフレを脱却する為には金融緩和が不可欠と主張します。
1)潜在需要は存在する
2)現実の需要が不足している
3)需給ギャップにより物価が下がりデフレが進行する
4)金融緩和によって需要を喚起する
5)需要が拡大し、需給ギャップが埋まる
6)需要がさらに拡大し物価が上昇し始める
7)インフレの進行によって金利が正常化する
8)金利の上昇によって投資のインセンティブが生まれる
多分、こんなプロセスを想定していると思われます。
これに対して、池田信夫氏らを始めと反リフレ論者の主張は次の様な感じです
1)ゼロ金利でも需要が喚起されないのなら既に需給は平衡状態
2)デフレの原因は構造的問題にあるのでこれを解決しなければ需要は拡大しない
さてどちらが正しいのでしょうか?
アベノミクスによって日銀は異次元緩和に踏み切り、リフレ政策を始めました。
安倍政権は補正予算によって財政支出を拡大し、強引に需要を作り出しています。
では、それによってデフレは脱却出来たのでしょうか?
答えは現状はNOです。
確かにインフレ率は上昇していますが、これは輸入物価の上昇によるコストアップインフレの要素が強く、多くの国民の景気実感は依然「不景気」のままです。
■ 「需要は常に均衡している」という考え方 ■
リフレ派と反リフレ派の主張の相違点の根本は「需要」と「供給力」の捉え方です。
ケインズ経済学は、需要と供給の間には不均衡が発生しており、需給ギャップが解消するまでインフレあるいはデフレが続くと主張します。中央銀行は金利操作によって需要を調整し、経済をコントロール出来ると考えています。
一方、最近では「需給は常にバランスしている」と考える人達が出始めています。
1)成熟経済においては需要は供給を大幅に上回る程強く無い
2)世界的に供給力が過剰な現在において、先進国の需要は安い輸入品によって瞬時に満たされる
3)格差の拡大により、本来需要を生み出すべき中間層に需要を生み出すお金が無い
私の勝手な妄想に因れば、少死高齢化が進行し、社会インフラが十分に整備され、所得格差が拡大した日本では、需給は常にバランスしていると考えた方が自然です。
リフレ論者は単にバランスした需給を、強引に需要を作り出す事でオフバランスさせインフレを生み出そうとしているだけですが、世界的に供給サイドが過剰になり気味な現代においては、強引に生み出された需要は短時間でバランスし、国内の製造業が投資を拡大する動機は瞬時に失われています。結果的に最低限の投資しか行なわれません。
■ 需給がバランスした社会ではデフレが利益を生む ■
この用に潜在需要が存在しない状況で需要を強引に生み出そうとすれば、金利はゼロに張り付きます。
現在の先進国においては、経済危機等で経済が一度停滞すると、金利がゼロになるのは自然な事なのかも知れません。
では、ゼロ金利下で利益を確保するにはどうすれば良いか・・・。
実質金利 = 名目金利 - 物価上昇率
上の式で名目金利がゼロの場合、物価上昇率がマイナスで無ければ実質金利がプラスに転じません。
一部の経済学者は、名目金利がゼロ金利下では実質金利を得る為にはデフレである必要が生じると主張し始めています。
私はこの主張は少し違うかなという気がします。
むしろ、世界的な過剰供給力によって物価上昇率がマイナスになるので、名目金利がゼロでも実質金利がプラスになるので、名目金利をプラスに動かす力が働かないと考えた方が自然では無いでしょうか?
1) 成熟した消費社会(需要が弱い)
2) 過剰気味の世界の供給力
3) 経済危機によるバランスシートの調整
これらの要素を満たす時には、金利は長期的にゼロに張り付く事が予想されます。
■ 金融緩和が経済成長を阻害する? ■
先進国の中央銀行が軒並み金融緩和を長期化させる一方で、その資金は金利を求めて新興工業国に流出し、これらの国の生産力を強化し続けます。
結果的に高度な工業製品までもが、安価で大量の供給される事になり、先進国内での、製造業の投資はますます先細りし、景気の回復を阻害します。
こう考えると、金融緩和は世界の供給力を拡大する事によて、先進国の景気回復を遅らせる要因になっているとも言えます。
■ 実体経済の停滞が、金融市場の拡大を促す ■
結局、先進国の中央銀行が金融緩和を実行しても、先進国の実体経済にはあまり影響を与える事が出来ません。
その様な状況で設備投資をしても、利益が拡大出来る見込みが無いので、余った資金は資産市場や金融市場に流入してマネーゲームを拡大します。
アメリカの様に個人が資産を金融市場で運用している場合は、金融市場の拡大はある程度経済に好影響を与えます。しかしこれにも限界があります。
1) アメリカでは長期的に所得格差が拡大している
2) 資産は一部の富裕層に集中している
3) 一部の富裕層の資産が拡大しても消費には限界がある
4) 資金力に勝る富裕層は、資産を拡大し続け、結果的に庶民は貧しくなる
5) 所得格差が拡大再生産され、需要は益々落ち込み、実体経済は疲弊する
■ 資産市場はグローバル化した金融市場は、世界規模の再配分を促進している ■
国内だけ見れば、発達し過ぎた金融や資産市場は、所得格差を拡大している様に見えます。
しかし、世界レベルで見れば、先進国の投資効率は低くなっていますから、先進国で余った資金は投資効率の高い新興国で運用され、その国の経済を発達させます。
中国の高級車の販売量がアメリカを抜いて世界トップとなりましたが、金融市場によって資金が流れ込む事で、貧しかった中国に確実に大きな需要を生み出しています。
これは資本家にとってはビジネスの拡大を意味します。
■ 既に世界は一体化しているが、政治経済は国単位で語られる矛盾 ■
グローバル化の弊害は、国家単位の視点であって、世界の視点で見れば、現在の世界の動きが実は合理的である事が理解出来ます。
投資効率の低い先進国は衰退し、投資効率の高い新興国が発展するのは自然の成り行きです。
■ 低金利の罠 ■
この様に金融緩和は、先進国の為の金融政策に見せかけて、新興国の発展を促す政策とも言えます。しかし、これとて、新規国でバブルが弾ければ、暴落した株式を買い占める事で、国際金融資本家達の利益と支配を拡大する事になります。
問題は、低金利で辛うじて生き延びている「老齢化した国家」が、金利上昇局面で財政破綻する危険がある事です。
FRBや日銀、ECBが緩和を永続化させれば、「年老いた国家」は延命できます。
世界は中央銀行の緩和マネーに支えられていますが、金融緩和自体が、先進国の景気回復と金利上昇を強く抑制しています。先進諸国、特に日本とアメリカは、財政も経済も現状の低金利無くしては成り立ちません。
「出口戦略」によって金利上昇が始まった時、あまりにも低い金利の国債や、その他の債券の価値が失われて行きます。
これこそが、世界が現在溜め込んでいる最大の危機なのかも知れません。
はたして10年後に、現在の中央銀行の金融緩和はどの様に評価されているでしょうか・・・?