■ シェールガスで損失を計上した大阪ガス ■
暮れに知り合いのアメリカ人と飲んでいましたが、彼はシェールガスでアメリカのエネルギー事情は将来的に大幅に改善し、国内に製造業が戻って来ると信じていました。これは、オバマの発言そのものですし、マスコミの論調も概ね同様です。
一方、大阪ガスがアメリカのテキサスで獲得したシェールガス鉱区では、想定していた14%しか販売できず、大阪ガスは250億円の特別損失を計上しています。
大阪ガス投資の米国シェールガスは大赤字(blogs)
<一部引用>
同社が取り組んでいたのは、米テキサス州南西部の「ピアソール・シェールガス・オイル Pearsall Shale Gas・Oil 開発プロジェクト」。昨年6月、米キャボット・オイル・アンド・ガスから権益の35%を取得し、累計で約330億円を投資してきた。同サイトは、地下3300メートルのやや深いエリアで地層に難があったため、「現在の掘削技術では経済性に見合った量を確保できない」ことが判明した。ガス・原油の販売高は当初想定の14%程度にとどまった。ただ、今後も鉱区自体は閉鎖せず、生産・販売を続けるという。
<引用終わり>
何処を掘ってもガスが噴き出して来ると思われがちなシェールガスですが、場所によって算出量に差があるのは当然の事です。ババを引くリスクを考えて投資する必要があるのでしょう。まさに「ヤマシ」の世界です。
■ 資金流入に支えられる開発バブル ■
現在のアメリカのシェールガスの置かれる状況は資金流入に支えられた開発バブルです。
シェールガス革命という幻想・・・急激に産出量が減るガス田 (人力でGO 2013.03.09)
1) シェールガスのガス井は生産開始から2年位で生産量が激減する
2) 次々と新しいガス井を掘らなければ経営が成り立たない
3) ガス井を掘る為にはお金が掛かる
4) 生産されたガスの売却益で新しいガス井を掘る
5) ガス井単体での採算性は低い、もしくは赤字
6) 投資資金が流入している間は、それを元手に新しいガス井を開発出来る
7) 投資資金が減少すると、ガス井の開発が滞路、生産量が減少する
8) 収益性が悪化してシェールガスの開発バブルが弾ける
大阪ガスの事例は、推定埋蔵量に対して実際の埋蔵量が少なかったのか、あるいは推定埋蔵量の14%しか生産出来ないのかが不明ですが、いずれにしてもシェールガスが世間で思われている程儲かるビジネスでは無い事の一端が伺えます。
■ カナダのオイルサンド・バブル ■
実はシェールがス同様にもう一つのエネルギーバブルが発生しています。
それはカナダのオイルサンドです。
オイルサンドは原油が砂岩層に染み込んだものですが、揮発成分が抜けてしまっている為にアスファルトに近い重質油が主な成分です。カナダのロイヤルアラバータ州では、オイルサンドが露天掘り出来ます。
非常に手軽に採掘される印象のオイルサンドですが、砂岩から重質油を抽出するには岩を粉砕し、水と天然ガスを用いてオイルを抽出します。抽出されたオイルは中東などの原油と違いアスファルトに近いので、これから石油を精製するのにも手間とコストが掛かります。さらには後に残された廃棄土砂の環境問題も発生しています。
さらに、100m以上の深さの露天堀出来ない深さのオイルサンドは、1000度という高温の蒸気を用いて液化して汲み上げられます。
この様に、在来型原油と異なるオイルサンドは、精製コストが高い為に原油価格が高騰していなければ採算に合いません。ところが2000年代の原油価格の高騰が、オイルサンドの採算性を引き揚げました。
カナダでは2000年代にオイルサンドの採掘が活発になり、ロイヤルアルバータ州を中心にオイルサンド・バブルが発生しています。
■ オイルサンドの採算性と原油価格 ■
オイルサンドから原油の製造コストは30ドル後半から70ドルだと言われています。大規模な設備を持つ大手は、30ドル後半から40ドル。中小はそれより高いコストが掛かります。
カナダのオイルサンドが注目されたのは第二次石油ショックの時ですが、原油価格が30ドルを越えなければオイルサンドは採算の取れない資源です。
http://www.noe.jx-group.co.jp/binran/part01/chapter03/section02.html
石油便覧より
長年40ドル以下で安定していた原油価格が上昇し始めるのは2000年代に入ってからです。上の「石油便覧」によれば原油価格の値上がりの要因は次の通りと書かれています。
1)金融緩和を背景にした投機資金の原油市場への大量流入
2)主要産油国の地政学的リスク※に対する懸念
3)急激な需要増により生じた生産余力の縮小による供給不安の高まり
4)資機材、人件費などのコスト高騰により、投資額の増加が実質的な探鉱投資の拡大に結
びついていないこと
5)容易に開発・生産できる油田(イージーオイル)が掘り尽くされつつあり、将来の油田開
発の高コスト化が見込まれること
6)国営石油会社の台頭による供給確保への懸念
興味深いのはリーマンショックの直後に需要の低下から原油価格が40ドル以下に下落した事です。その後、イラン危機やアラブの春などにより原油の供給量が減ったので、原油価格は持ち直しています。
■ シェールオイルに依存するシェールガス ■
現在のアメリカのシェールガス革命は、「水平坑井掘削技術」によってもたらされました。
1) 頁岩層の中に水平に井戸を掘る
2) 高圧の水を頁岩層に注入し、頁岩層を破砕する
3) 頁岩層はシェールオイルを含んでいるのでそのままではガスが回収できない
4) シェールオイルを溶かす薬品(多分強力な洗剤か溶材)を頁岩層の注入
5) 薬品と共にシェールオイルを回収
6) シェールオイルが抜けた後にシェールガスが噴き出す
7) シェールオイルは薬品と分離
8) 重質油のシェールオイルを利用可能な状態に精製
この様にシェールガス開発では、ガスの算出に伴ってシェールオイルが算出されます。その生産コストは70ドル~95ドルと言われいます。この価格は現在の原油価格からすれば、どうにか採算ラインに乗る価格とも言えます。
一方、ガスの相場はシェールガスの開発によって低位で安定しています。
アメリカのガスはパイプラインで輸送されるので、アメリカにはガスの液化貯蔵施設がほとんどありません。ですから、産出されたシェールガスはパイプラインに流されます。この為、供給が過剰になり、アメリカのガス価格は4ドル以下に下がっています。この価格はシェールガスの採算ラインを割っています。
現在のシェールガスビジネスは、わずかに儲かるシェールオイルと、全然儲からないシェールガスを生産する事業なので、既にビジネスモデルとしては始めから崩壊しています。
■ 採掘権詐欺 ■
シェールガスビジネスの実体は次の様なものでしょう。
1) シェールガスが次世代エネルギーの様に大宣伝する
2) ウォール街が出資してシェールガスの採掘を始める
3) シェールガスが儲かるビジネスを錯覚させ投資を促す
4) 採掘権を高値で売り抜けて儲ける
5) 採掘権を高値掴みした大阪ガスや中国の投資会社が青ざめる
まあ、シェールガスの採算性だけ見れば大損ですが、はじめから「採掘権詐欺」が目的であるならば、大成功とも言えます。これがアメリカにおけるシェールガス革命の正体です。
いずれにしても、コストの安いオイルサンドが2兆バレルも存在する中で、コスト高のショールオイルやシェールガスに現時点では魅力はありません。
■ 液化して日本に売りつけよう!! ■
しかしシェールガスを買いたいというお得意様が居ます。日本と韓国です。
日本と韓国は世界でも一番高い価格でガスを輸入しています。
アメリカの凡そ5倍、ヨーロッパの2倍の価格です。
原発が再稼働出来ずにガスの輸入量が増えている日本は、安定した天然ガスの供給先を探しています。そこにアメリカが名乗りを上げたのです。
但し、アメリカの提示している価格は、現在の日本の輸入価格とあまり変わりません。何故なら、液化して海上輸送するコストが掛かるからです。
アメリカはガスの液化施設を建造中で、将来的には日本や韓国にLNGを輸出します。しかし、多分液化施設にはパイプラインが接続されているはずで、そこに供給されるガスはカナダからの天然ガスだろうが、シェールガスだろうが区別は付きません。
要は、単にガスを液化して輸出するというだけ。
■ 小泉純一郎氏の脱原発は、シェールガスビジネスの一環 ■
ここで注目されるのが小泉純一郎元首相。
引退してオトナシクしていると思ったら、脱原発で再び注目を集めています。
彼が国民の健康を気遣ってくれるハズも無く、その目的を邪推すれば、アメリカのシールガス輸出をサポートしているだけだと思われます。
日本のマスコミはこういう背景は一切報道しませんから、何だか小泉氏が白馬の王子様の様に一部の人達には見えている事でしょう。
■ 中東の戦争と無縁では無いシェールガス革命 ■
リーマンショック以降、中東ではイランの経済制裁やアラブの春など、原油価格を高騰させるイベントが続いています。
これによってリーマンショックで暴落した原油価格も持ち直し、シェールガス革命は一応のい体裁を保っています。
しかし、シェールガスバブルは既に崩壊し始めていますので、アメリカが本気でシェールガスを推進しようとするならば、中東で新たな戦火が発生する可能性も否定出来ません。
「夢のエネルギー」のシェールガスは、ウォールストリートの思い描いた夢に過ぎません。そして、最悪は原油価格の高騰という実害を私達にもたらすのかも知れません。