■ リスクを煽る時代は終わったのか? ■
FRBのテーパリング開始で予想されていた市場の混乱が発生しなかった事で、昨年末からリーマンショックから続いていたリスクが遠のいたと多くの人が考えています。
私の様に「金融が崩壊する!!」なんて騒いでいた人達は、「オオカミ少年」だと批判されそうな状況になってきました。
そこで本日は「世界のリスクは去ったのか?」という問題を妄想してみたいと思います。話半分でお付き合いください。
■ リーマンショック時のリスク ■
リーマンショックで発生したリスクとは大規模な「信用喪失」でした。
1) アメリカの住宅バブルで景気は右肩上がりに拡大すると思われてた
2) 金融市場で流通するMBSやそれを元にした金融商品のリスクが過小評価された
3) 債権投資のリスクがほとんど無視されていた
4) 債権市場に大量の資金が流入し、債権価格が右肩上がりに上昇していた
5) ヘッジファンドなどが、調達した資金を債権市場で運用し市場が過熱していた
ここでサブプライム層のローンが破綻し始め、リーマンショックで一気に危機が意識されます
6) 債権価格が暴落して買い手が付かない状況になる
9)金融機関の手持ち資産の時価が暴落し、大手の金融機関も債務超過に陥った
7) 債権を手放して現金化しようとした為に一気に信用収縮が発生する
8) 金融機関が手持のドルを手放さなくなりドルの流動性が枯渇する
これがリーマンショックで起きた「急性の危機」です。
9) 米政府とFRBは不良債権化したMBSを市場から買い集める。
10)ドルを大量に供給し、政府とFRBがバットバンク化した
この時点で民間の金融機関はリスクを政府や中央銀行に移した事になります。アメリカでは当時も税金を使って金融機関を救済する事がモラルハザードと反対する人も多かったのですが、結局、金融システムと経済のクラッシュを防ぐ為には、政府とFRBがリスクを肩代わりするしか手段は残されていませんでした。
■ 出口戦略とは ■
リーマンショック後の一連の大規模な金融緩和は、交通事故の患者に輸血をする様な処置です。今、それをしなければ患者が死んでしまうという治療に等しい。
一方、リーマンショックから時間た経過し、金融市場は緩和マネーによって一命を取り留めました。最近では大分回復して、流動食も旺盛に食べる様になりました。
そこで、各国中央銀行は、だんだんと金融を正常化する必要があります。点滴や流動食ばかり食べていては、本当に回復は期待できないからです。
1) 中央銀行がMBSや国債の市場からの購入量を減らして行く
2) 中央銀行がMBSや国債の市場からの購入を停止する
3) 中央銀行が市場から購入したMBSや国債を市場に売却する
現在のテーパリングは1)の段階です。FRBは1年位を掛けて2)の段階を達成するものと予測されています。
現在、FRBは国債とMBSを一か月4兆円位ずつ購入していますから、これらの市場でのFRBの存在感は絶大です。FRBがテーパリングを進めるという事は、これらの市場の需要サイドが縮小するという事なので、国債やMBSの価格は下落し、金利は上昇します。
国債金利は全ての金利の大元とも言えますので、テーパリングに伴って米国債金利は上昇し始めています。これは当然市中金利にも影響します。
ところが、一方でFRBは低利の資金提供は継続しています。それにより金利は実際には低く抑えられています。今回のテーパリングの開始で市場が混乱しなかった背景には、FRBが低利の資金供給をテーパリングの間継続する事が周知されたからです。
■ フォワードガイダンス ■
中央銀行が一定期間は低金利を継続するとアナウンスする事は、最近では「フォワードガイダンス」と呼ばれる様ですが、かつて日本では「時間軸の政策」と呼ばれていました。
長引く不況で、日本の金利はゼロに張り付いていました。マイナス金利を採用しない限り、これ以上の低金利は不可能です。ところが、資金需要が極端に低下した環境では、最早ゼロ金利でも需要を喚起する事は不可能です。
そこで、金利をある一定期間据え置く事を中央銀行が宣言します。将来的な資金調達コストが上昇しない事を約束された金融機関がリスクを取り易くする事が目的です。
フォワードガイダンスは、イギリス中央銀行でも行われていますし、FRBの「当分は金利は据え置く」という発表もこれに当たります。日銀の「インフレ率が2%になるまで異次元緩和を継続する」というのもフォワードガイダンスです。
■ 当分はリスクを取り易い世界 ■
心配されていた出口戦略が辛うじて混乱無くスタートし、一方で中央銀行が資金供給を約束しているので、現在の金融市場はリスクを取り易い状況が発生しています。
タダの様な金利で供給された資金を元手に、株式市場や債券市場で運用すれば、利益は濡れ手に粟状態です。
ダウや日経平均の上昇は、テーパリング開始の成功によるリスクオンムードと、中央銀行の資金供給に支えられています。
■ 利益を確定する絶好の機会 ■
日本市場では、一昨年末以来、日本株を外資が15兆円程も買い越しています。一方で日本人の資金があまり日本株市場へと集まらないので、ヘッジファンド勢は昨年5月の株価下落以降、日本株を売り抜けられない状況が続いていたと思われます。
限られた銘柄を集中して買い支えて相場を維持する日経平均には表れませんが、日本の株式市場全体では売り圧力が強く、少しの株価下落で日経平均もスーーと値下がりし易い状況が続いていました。
最近になって、国内メガバンクも日本株に投資すると言い出したので、ようやくヘッジファンド勢が日本株を売り易い状況が生まれています。
最近の日経平均はドンと落ちてから、するすると上値を更新する展開が続いていますが、ヘッジ勢が売り抜けた穴を、メガバンクや海外の投資家が買い上げる状況が続いているのでは無いでしょうか。
■ 急性期は過ぎたけれど、慢性的なリスクが拡大して来る ■
昨年9月頃はテーパリングを予測して新興国からの資金回避が発生しました。しかし、今回は極端な資金回避は見られません。このまま平安が続けば、新興国への資金流入が拡大する可能性は低くありません。
一方、中国では土地バブルが再び拡大してきており、資金流入が続けば、バブルが制御不能になる恐れも出て来ます。
一方、先進国では慢性的なリスクがジワジワと拡大しています。
日本が先頭を走っていますが、長引く不景気で政府の債務が拡大しています。これ自体は常識的な範疇であれば何ら問題無いのですが、非常識なまでに政府債務を膨らめてしまうと、金利上昇に伴うリスクは無視出来無くなります。
日本国債は世界にほぼ無視されていますが、アメリカは別です。オバマケアーや、ベビーブーマーのリタイアで社会保障費が急拡大するアメリカの財政に注目が集まり易く、米国債の金利が上昇し易い状況が発生しています。
これらのリスクは徐々に進行するので、「慢性的なリスク」です。
■ バブルが再び拡大するリスク ■
もう一つのリスクはアメリカでのバブルの再拡大です。
大規模な金融緩和で過剰に供給された資金は、本来、FRBの市場でのMBSや国債の売却で回収されるべきですが、アメリカにおいても実体経済の回復は非常に弱く、インフレ率は低く抑えられています。
したがってFRBは金利アップや資金回収を実施し難い状況が続きます。一方、資産市場でリスクオンムードが拡大すれば、どこかで再びバブルが発生する恐れがあります。
アメリカはレーガノミクス以降、不動産バブル、ITバブル、住宅バブルとほぼ10年周期でバブル経済を発生させています。リーマンショックの記憶が薄らぐにつれて、次のバブルの芽が育ち始めるでしょう。
世界はリーマンショックの原因である住宅市場の回復に注目していますが、多分新たなバブルは思わぬ所で発生するはずです。そして、それがアメリカ国内で発生するとは限りません。今や投資に国境は有りません。
例えば、円安が進行して、東京オリンピックによる地価上昇が予想される東京は、不動産バブルが発生し易い状況にあります。東京の地価が上昇する事は、日本経済にとっては喜ばしい事ですが、上手くコントロール出来ないと、バブル崩壊によって経済はバブルが発生しない場合よりも大きなダメージを受けます。
■ 見えるリスクに反応し、見えないリスクは無視する世界 ■
リーマンショックの原因である金融システムの過熱性と脆弱性を温存したまま、世界は新たな成長を模索しています。
表面上はリスクは遠のいた様に見えますが、高齢化が進行する先進国の成長力は弱く、さらに資金の多くは富裕層に集中しています。この事は、景気回復の実感を伴わずに、資産市場のバブル化が進行する可能性を示唆しています。
市場は急性のリスクには過剰に反応しますが、慢性のリスクは無視します。
見えやすいリスクが遠のく事で、見えないリスクが高まる時期に世界は入ったのかも知れません。
次のバブルの発生源を予見して、先行投資してバブル崩壊前に売り逃げた人が高笑いするのはいつもの事と言えます。
短期的な利益を追求するだけならば、バブルの生成と崩壊も利益を得る機会となり得ます。一方、金融や経済システム全体を眺めると、アメリカの80年代の不動産バブル、90年代のITバブル、2007年のリーマンショックと、ほぼ10年周期で生成と崩壊を繰り返すバブルは、段々とその規模を拡大し、破壊力を増大しています。
民間から国家へと付け替えられ、金融抑圧という不健全な手段で延命する現在の経済システムは非常に肥大化と脆弱化が進んでいます。
次なる危機が発生した時、はたして何が起こるのか予想するのが恐ろしい。そして、次なる危機が何時発生するのかも予断を許さない状況です。
「急性の危機」が遠のいた事で、世界は進行の著しい「慢性の危機」を軽視していないか・・・。
このブログは「金儲け」の為のブログでは無いので、趣味の社会観察として、リスクの所在と推移には注目し続けたいと思っています。