■ 拡大しつづけるリスク ■
アメリカが利上げのタイミングを計り始めるなど、世界経済はリーマンショックの危機を脱し回復したかに見えます。この様な時期に「金融は崩壊する」などと書くと、「リーマンショックにも耐えたじゃないか」と狼少年扱いを受ける事になります。
ただ、敢えて言いたい。「大規模な金融緩和によって世界のリスクは拡大し続けている」と。
■ ボラテリティーの低下が齎すリスクの軽視 ■
各国中央銀行の行った大規模な金融緩和が齎したものはボラティリティーの不足です。
1) 中央銀行が低金利で資金をバラ撒く
2) 投資家の調達金利はタダ同然
3) 高い金利(リスク)を取らずとも利益が得られる
4) 投資対照が不足して来ると、本来リスクが高いジャンク債などの金利が低下する
5) 様々な投資の金利が低下する
これが第一段階で、「金利の低下」と総称されます。
6) どの市場も過剰流動マネーでジャブジャブになる
7) 相場が崩れ難くなり、ボラティリティーが低下する
これが第二段階です
8) ボラティリティーが低下する事で利益機会が減少する
9) 利益機会を拡大する為にリスクの高い商品にも資金が集まり出す
10)資金循環の機能も失われ、どの市場も中期的には緩やかな上昇相場となる
これが現在ではないでしょうか。
一見、現在の金融市場や債券市場、現物市場は安定している様に見えますが、資金が飽和していて、グランドローテーションの様な資金循環の機能が損なわれている状態にあると言えます。
■ 既にバブル化している市場 ■
リスクが軽視(金利低下)する中で、既にバブル化している市場もあります。
1) ジャンク債市場
2) 南欧国債
3) 新興国市場
本来、ウクライナやリビアやシリア危機、或いはイスラエルとハマスの紛争でこれらの市場から大きな資金流出が起きるはずです。所が、資金流出は限定的で、これはリーマンショック以降の混乱で、市場が鈍感になってしまった結果とも言えます。
「ユーロ危機や新興国危機が起きた時、慌てたヤツは損をしたじゃないか」・・・そんな教訓が身に着いてしまったのです。
■ 基本的に楽観的な市場 ■
投資家は楽観的です。そうでなければリスクを取れず収益機会を失うからです。
一方で危機に際しては恐怖に支配され易く、恐怖に打ち勝って冷静に判断した人達が巨利を手にします。
楽観と冷静を合わせ持った投資家は少なく、「市場の思惑」といった不確かな集団意思が市場の流れを支配しています。
現在の市場は「再び」金融危機が発生するとしても、それは今じゃない」という思いに支配されている様です。
■ ブラックスワンはどこに居るのか? ■
市場が楽観に支配される時、突然現れるのがブラックスワンです。
サブプライムショックを予測した市場関係者は大勢居ました。しかし、実際に危機が発生すするまでは、「危機」と呼ばれる事は無く、危機が発生してから「ブラックスワン」と呼ばれます。これは一種のレトリックで、サブプライムショックはブラックスワンだから回避不能だったという言い訳を金融当局に与えているだけです。
現在、多くの投資家がバブルだと思っている市場は「ジャンク債」です。多分、次のブラックスワンはジャンク債市場の崩壊になると予想している方も多いでしょう、
現在、アメリカの企業の業績が好調なのは、社債発行コストが安い事が大きく影響しています。
本来、株式市場で比較的高いコストで(配当など)資金調達していた米国企業は、リーマンショック以降、社債を安く発行して、自社株買いによって金利を圧縮しています。
IT系の優良企業は、空前の低金利で社債を発行し、自社株買いで株価を吊り上げて資産総額を水増しし、好決算を演出し、さらに社債発行コストを下げています。これに釣られてジャンク債と言われるリスクの高い社債の金利も低下しています。
FRBはテーパリングを年内に終了し、来年は金利上昇に機会を伺います。その過程で、極端にリスクを軽視したジャンク債の金利が上昇する事が予想されます。
これが一種のパニック売りになれば危機は一気に拡大します。
一方、社債市場の金利がずるずると上昇するという現象になって現れると、株式市場の自社株買も抑制され、ダウもズルズルと値下がりする様な状況になるかも知れません。ダウに連動して日経平均もズルズルと下がり出すでしょう。
ここに日欧の緩和マネーが流入して来れば、市場は一進一退を繰り返す事になります。ブラックスワンは芦原の中に隠れたまま、なかなか姿を見せないでしょう。
■ 又、日銀が引き金を引くのか? ■
FRBの利上げでパニックが発生しなければ、FRBは徐々に金利を上げて市場を順応させて行くでしょう。企業業績が大きく改善する材料は思い当たらないので、金利の上昇圧力も抑制的で、人々は金利の正常化に徐々に慣れて来ます。それを支えるのは、日銀の緩和マネーでしょう。
こうして、ゆるやかにリスク意識が退行する中で、一部の投資家達が過剰ばリスクを取り始めるかも知れません。大きなレバレッジを掛けた取引が復活するかも知れません。
事ここに至って、ようやく次の危機の信管が準備されるのかも知れません。多分、2017年頃になるのでしょう。
その頃にはさすがに日銀の極端な緩和政策を縮小する時期に来ているでしょう。運が悪ければ、再び日銀が金融危機の発端を作る事になるかも知れません。
何となくですが、現在の市場参加者の頭の中には、こんなロードマップが薄らと描かれている様に思います。皆が「2017年頃までは大丈夫ではないか?」とんぼんやり考えながら投資が継続れる・・・・。
こんな時に思わぬ所からヒョイと現れるのがブラックスワンです。
思わぬ米ロ衝突であったり、イスラエル本土を巻き込んだ大規模な戦闘であったり、尖閣での日中の小競り合いであったり、材料はいくらでもある様に思えます。
これが発火剤になって、信管が起爆して、「チュドン」・・・・。
はたして、市場の読み通り、2017年まで世界は表面的には平穏で居られるのか・・・その根拠も「バブル崩壊10年周期」程度ではありますが・・・。