■ テーパリングが開始されたのに米国債金利が低下している ■
FRBは今年1月からQE3のテーパリングを開始しています。毎月MBSと米国債の購入額を50億ドル、合計で100億ドル(約1兆円)ずつ縮小しています。FRBは長期債を中心に米国債を購入していましたから、本来ならば米長期債の需給関係が悪化して金利が上昇するはずです。
上のグラフは2月から現在までの10年債金利ですが、テーパリング開始から米国長期債の金利は低下し続けています。これは不思議です。
■ 米長期国債金利低下の原因 ■
長期国債の金利は、需給関係よりも将来的な景気動向予測の影響を受けやすいと言われています。米長期国債の金利が低下するのは、市場が将来的な米国経済の動向を悲観的に見ている現れなのでしょうか?
私は市場が自由なプレーヤーに支配されているのならば、長期国債金利は将来的な景気予測を反映すると思いますが、一方で市場がある意図を持った者に支配されている時は、長期国債金利は需給関係を反映すると考えます。例えば、現在の日本国債金利の低下は、明らかに日銀による購入の影響を受けています。
■ 米国債保有を急増させている中国 ■
中国銀行業監督管理委員会(銀監会)の初代主席を務めた劉明康氏が講演で「中国は外貨準備の約半分を米国債で保有している」と4月の講演で語っています。
2014年3月末時点での中国の外貨準備は3兆9500億ドルですから、その半分の1兆9750億ドル相当の米国債を保有している事になります。しかし、中国の米国債保有額は1兆2729億ドルと発表されていて、7000億ドル程足りません。
中国は4月も外貨準備を1300億ドルも増やしています。
かねてより中国は米国債を他人名義でロンドン市場で購入していると噂されていました。最近ではベルギーの米国債保有が飛躍的に拡大していますが、ユーロクリアーに米国債を預けているのは中国でないかと言われています。
この様に、中国は表に出ない米国債保有を拡大している様です。
■ 中国が裏で米国債保有を増やす理由 ■
中国製品の多くがアメリカに購入されますし、多くの貿易決済はドルで行われます。輸出大国中国のドルの保有高は、放っておいても日々増え続けます。これをドルで保有するより米国債で保有する方が金利が付くだけお得です。
中国製品の最大のお得意様はアメリカですから、中国はアメリカ経済の悪化を望みません。ですから貿易によって増え続ける外貨準備をドルや米国債で持つ事には合理性があります。4兆ドル(約400兆円)という膨大な外貨準備を有する中国は、短期的にはドルや米国債の下落を好みません。
一方で、保有する米国債をFRBに預けておくと、米中関係が悪化した場合に凍結されてしまう恐れがあります。そこで中国は他人名義やユーロクリアーでの米国債保有を増やし、対米交渉のカードとして利用しているのではないかというのが大方の人に見方です。
■ 米中関係はズブズブだ・・・・ ■
「FRBのテーパリングは成功している、来年は順調に利上げが行われるだろう」という論調が広がっていますが、テーパリングが成功して金利が抑え込まれている原因は中国による買い支えと、地政学リスクの拡大によるリスクオフの流れです。
米中関係は表面的な対立とは裏腹に、ズブズブの関係となっています。
■ 中国が米国債を売る時 ■
私は陰謀論者ですから、アメリカが中国に大量の米国債を持たせる理由を邪推してしまいます。
次の金融危機が勃発すればドルや米国債とて無傷では居られません。多分、2017年頃にバブル崩壊が起きそうですが、その時米中関係が悪化していれば、中国が米国債売却で一気のドルと米国債を葬り去る事も考えられます。
「中国が米国債を売却したから米国債が暴落した」と言えば、ドル崩壊の責任を中国に転嫁する事が出来ませす。当然、中国はアメリカと敵対していますから、責められても痛くも痒くもありません。
ウクライナ問題で米ロ関係が決定的に拗れるならば、米中関係も今後悪化して行くでしょう。ただ、切っ掛けが必要ですから、尖閣有事が利用される可能性は低くありません。
こう考えるとウクライナ問題は対岸の火事などではありません。世界の経営者が世界を分断しようと目論んでいるならば、尖閣有事はきっと起されますし、ドル基軸体制も崩壊します。
地政学リスクが単なる米国債への資金誘導なのか、それとも世界の線引きの変更の為なのか、ウクライナ、中東、東アジアの情勢からは、しばらく目が離せません。