■ 不況や成長力の低下で金利が下がる ■
伝統的に金融政策では、好景気では金利が上がり、不景気では金利が下がります。これは中央銀行が物価を安定させる為に金利を操作するからです。
バブル崩壊の後であったり、高齢化によって経済の成長力が低下した状態においては長期的に金利は低下します。
■ 金利が低くても融資が増えない ■
通常の景気循環における「不景気」であれば、金利が下がれば資金需要が生まれて来ます。「しばらくすれば景気が回復する」という予測の元に、金利が低いうちに必要な投資を済ませようとするからです。銀行も資金需要に応える形で貸出を増やします。景気回復によって需要が拡大すれば貸し出した資金は金利が付いて戻って来ます。
しかし、「構造的要因」によって長期的に経済が低迷する場合、需要回復が容易には見込めないので資金需要が存在しても、銀行は簡単には貸出を拡大しません。貸し出した相手の見込み通りに業績が拡大する可能性が低くなるからです。
当然、高い金利で貸せばリスクを低減出来ますが、高い金利では借りてが居ません。
■ ダブついた資金は金融市場で運用される ■
銀行などが企業に直接投資をする場合は、採算性や将来的な利益な拡大を厳密に精査して金利に打倒な融資かどうかを検討します。
しかし、銀行が手元資金を金融市場や株式市場で運用する場合は、そこまで厳密なリスク管理はされていないでしょう。
例えばリーマンショックの原因となったサブプライムローンですが、住宅債権が大量に寄せ集められてMBSという住宅担保証券となった時点で、個々の破綻リスクは見えなくなります。大数の原理という「インチキ数学」で全体の3%程度までの破綻は問題無いとされましたが、パニックが発生すれば、MBSやMBSを元に組成されたCDOの価値は一時的に消失しました。
現在、日本国内の金利が低く、それに見合うリスクの投資先は限定されているので、国内の余剰資金は金利を求めて海外の市場で運用されます。この時リスクが正しく判断されているかと言えば答えはNOです。
例えばハイイールド債(ジャンク債市場)は低金利下でも比較的高い運用益が得られるので資金流入が拡大しましたが、元々10%以上のの金利が要求されるジャンク債の金利が5%はとても正常では有りません。(最近は金利は上昇に転じていますが)
サブプライム危機の教訓から、ジャンク債は現在、リスクの度合いによって分類され寄せ集められて証券化されて流通しています。これにより危機への耐性は高まったと説明されますが、ジャンク債市場全体が「低すぎる金利」となっているので、危機が発生すれば市場が
崩壊する事は避けられません。
これはジャンク債市場に限った事では無く、国債を始めあらゆる市場がリスクに見合わない金利で投資されている為に、金利が上昇し始めると全ての市場でリスク回避が発生するのです。
■ 資金流入が続く限り崩壊しないだけ ■
現在の金利がリスクに見合わないものである事は金融関係者は誰もが理解しています。しかし彼らは資金を運用せざるを得ず、膨れ上がる緩和マネーは市場にどんどん投下されて行きます。
この資金流入が続く限り、若干の調整は有りながらま市場規模は拡大し続け、金利は将来の損失の代償として払われ続けます。この循環は緩和マネーの供給が続く間は持続可能ですが、緩和マネーの量が減った途端に一気に崩壊します。
■ 極端に低すぎる金利は実態経済の成長を阻害し、資産市場をバブル化する ■
「低金利の罠」とは二つのプロセスで経済に悪影響を与えます。
1) そもそも極端な金融政策が必要な場合は成長率が極度に低下している
2) 先進各国の成長率は構造的に低下している
3) 金利がゼロになった時点で、実態経済に金利に見合う投資は極端に少ない
4) 資金は金利を求めて資産市場に流出する
5) 結果的に実態経済で流通する資金が増加せずに実態経済の回復は限定的となる
6) 資産市場に流入する資金は緩和的金融政策が拡大した分だけ拡大する
7) 資金流入が市場をバブル化させ、金利とリスクのバランスが崩れる
8) 緩和資金の量が減少に転じた時、弱い市場から先に資金逃避が発生する
9) 資金が逆回転する事で信用収縮が発生しバブルが崩壊する
■ 金利がゼロに張り付いた時点で逃げ場が無い ■
金利が経済のポンプの役割を果たします。その金利がゼロになった時点で、その経済は活力を失ったとも言えます。
リフレ政策は過剰な資金供給で強引に実質金利をマイナスにする事で「ゼロ金利の罠」を回避しようとする政策ですが、「低金利の縄」に益々深く嵌ります。
ですから、金利がゼロに張り付いた時点で勝負は決しているのです。どこかの時点で金融システム自体の破壊を伴う大バブル崩壊が発生し、金利は急騰した後に、徐々に正常な状態に戻るはずです。
もちろん、各国国債の金利も無傷では居られないでしょう。