■ サマーズ氏のバブル必要論(長期停滞論) ■
近年、サマーズやクルーグマンは「自然利子率がゼロ以下になった経済ではバブルでしか成長が達成できない(私の意訳)」と発言しています。
http://jp.wsj.com/articles/SB10001424052702304894104579207101943246992 より
<要約して引用します>
1) 米国を含む複数の経済は「長期停滞」に陥っている
2) これらの経済は貯蓄過剰と技術変革によって自然利子率がマイナス2~3%で推移
3) 名目金利の下限はゼロ%なので、実際的には金融引き締め状態になっている
4) 自然利子率(実質金利)をプラスにする為に各国中央銀行は超緩和的金融政策を実行
ここまでは従来のリフレ政策の目的の説明です。
5) 初期の成長を促す効果が資産効果を通じたものであれば中銀は資産バブルを煽る
6) 富が偏在している状況で資産効果が実需に影響を与えるには現在のバブルでは不足
7) 既に貯蓄は取り崩されているので資産売却や資産を担保にして消費が加速する
8) 資産価格の値上がり分まで景気が拡大すれば問題無い
9) 資産価格が本来の水準に縮小すればバブルが崩壊する
10) リーマンショックでは資産価格の縮小が発生した
要は、成長力の低下した先進国ではバブル生成をもってしか経済成長が達成できず、中央銀行は意図的に資産バブルを作り出していると説明しています。
実態経済が資産価格の上昇分だけ成長すれば問題は無く、資産価格が本来の水準に下落すればバブルが崩壊すると説明しています。
11) 現在の所過剰なバブルとは言えず、将来的な成長を見込んだ相場と判断される
12) 予測が間違っていたら将来において過度なインフレが発生し資産価格は正当化される
13) 中銀は将来の過度なインフレを招くリスクが、現在の微々たる成長よりマシと判断
どうやら各国中央銀行は物価安定の使命を既に捨て去っている様です
14) 低調な成長の中で中銀が急騰した資産価値を維持できるかに掛っている
15) 日本は過去20年間に渡りこれを達成している
16) 長期的上昇傾向は何度かあったが全体的には下落傾向である
これはアメリカを始めとする先進国経済が「日本化」する事がリフレ政策の「成功」とさせると読み取る事が出来ます。
<引用終わり>
■ バブル経済の成果を評価するサマーズやクルーグマン ■
以下のクルーグマンの発言も興味深いものがあります。
http://blog.livedoor.jp/sowerberry/archives/34147176.html より
1) 1985年から2007年まで家計の負債は急激に拡大したのにインフレは起きていない
2) この時期は人口増加率が低位安定しているので需要が低くインフレが抑制されている
3) この様な低成長な経済においては従来の美徳はむしろ経済を縮小させる
要は、FRBのQEや異次元緩和の様なラディカルな金融政策を取らなければ先進国の経済は縮小すると指摘しています。
彼らは結果的にバブルが弾けても、投資の結果次の産業や技術の芽が残るから問題は無いという趣旨の発言もしています。
ITバブルの結果、現在のIT産業の成長がもたらされた。バブルによって生み出されたインフラは将来の経済発展の元になっている・・・こう主張します。
■ 1985年以降、アメリカは意図的にバブルを生み出し続けて来た ■
「ひろのひとりごと」さんのコメント欄でベテランズさんに「金利の上昇でバブルが崩壊する」事を証明するデータが有るかと聞かれたので、私なりに作ってみました。
1) オイルショックの物価高騰は収束に向かい1982年に金利が引き下げられる
2) レーガノミクスの減税と規制緩和によって資産家の投資意欲を高める
3) 1980年代中盤から1990年代初めまでアメリカで不動産バブルが起きる
4) 株式市場も上昇を続ける
5) 1987年9月にドイツが金利を引き上げ、アメリカの利上げ観測が広がる
6) 金利上昇予測から株式市場が暴落して「ブラックマンデー」が起こる
この時期、FRBは意図してバブルを作っていた訳では無いと思われます。ただ、人口増加率の低下によって米経済のインフレ圧力が低下した事で金利は低調に推移していました。その結果、不動産バブルが発生し地方銀行を中心にリスクを高めて行きました。この時期、金融自由化によってアメリカでは多くの地銀が経営破たんし、バンカメなどの大手銀行に買収されて行きます。(これが目的のバブルでは無いかと陰謀論的には妄想しています)
80年代低金利のバブルは1987年10月の「ブラックマンデー」で一時幕を閉じます。
7) 1989年にアメリカの住専とも言える貯蓄金融機関・S&Lの大規模は破綻が起こる
8) 1989年6月からFRBが金利を引き下げて危機回避を図る
9) 1990年代前半まで、商業不動産バブルが続く
10) 1994年にFRBが金利を引き上げる
11) 1994年、債権市場や証券市場で損失は発生する
12) 1994年、メキシコから投資資金が引き揚げられ「テキーラ危機」が発生する
13) 1997年、アジアから投資資金が流出して「アジア通貨危機」が発生する
14) IT産業が勃興し、IT株に資金流入が起こり「ITバブル」が発生する
15) 1999年6月にFRBは利上げするが、日銀のゼロ金利マネーが市場を支える
16) 2000年8月い日銀がゼロ金利を解除する
17) 2001年、バブルが崩壊する
18) ITバブル崩壊の影響を緩和する為にFRBが大幅な利下げに踏み切る
19) 2004年6月、FRBは住宅市場を安定させる為に利上げに踏み切る
20) 日銀が2001.3から2006.3まで量的緩和を実施していた
21) 日銀の緩和マネーは円キャリートレードを通して米国市場に流入
22) MBSやCDOなどの金融商品市場を日銀マネーが支え、米住宅バブルが膨らむ
21) 2006.3に日銀が量的緩和を停止
22) 2007年秋頃からサブプライム層のローンが破綻し始める
1985年以降、アメリカ経済は低金利によるバブルと、金利上昇によるバブル崩壊を繰り返して来ましした。
最初のバブルは住宅市場で発生していますが、これは有る程度は実需に裏打ちされたバブルと言えます。ただ、アメリカ国内での金融自由化と連動した形でバブルは拡大します。
ただ、1994年のS&L危機以降のアメリカは金利が低位で推移し、ほぼ10年周期でバブル生成とバブル崩壊を繰り返す様になります。
そして、バブル崩壊の規模はその都度増大し、サブプライム危機に連なるリーマンショックで金融市場が崩壊する手前にまで至るのです。
■ アメリカのバブルを支えた日銀マネー ■
興味深いのは、アメリカのバブル崩壊の前にFRBは利上げを実施しています。市場の過熱感を警戒しての事です。
しかし、ITバブルではFRBの利上げ後も日銀がゼロ金利政策を実施していたので、この資金がITバブルを支えていたと考えられます。日銀がゼロ金利を解除した後しばらくしてITバブルは崩壊します。
リーマンショックも同業で、アメリカは2004年には利上げに転じていますが、日銀が2006年まで量的緩和を実施していたので、サブプライムローンの破綻は2007年まで引き伸ばされました。
■ バブルとは「利上げによって維持不可能になる市場」の事である ■
株式市場などは利上げに敏感に反応する様ですが、債権市場などは利上げからしばらくして崩壊する様にも思えます。それは株式市場などから逃避した資金が債券市場などに流入する為とも考えられます。
しかし、債権市場の低金利を支えるだけの資金供給は減少しているので、ある時点で債権市場からも資金流出が発生して、バブルは完全に崩壊します。
この様にアメリカ経済をFRBの政策金利の推移と共に眺めていると、サマーズやクルーグマンが指摘している様に。1985年以降、バブルによって経済が成長している事が見てとれます。そして規模の大小は別として、金利上昇からしばらくしてバブルは終焉しています。
グリーンスパンは「バブルかどうかは弾けた時に分かる」と発言していますが、どうやらFRBを始めとする中央銀行は意図的にバブルを作り出して来た事が分かるかと思います。
■ バブル崩壊のスイッチはは中央銀行の手の中に有る ■
ゼロ金利の元、各中央銀行はインフレを作る事に苦心していますが、資産バブルは容易に作る事が出来る様です。
ただ、日本は「平成の大バブル崩壊」に記憶が生生しく、なかなかバブルが拡大しません。さらには少子高齢化が極端に進行する中で経済成長が抑制され、異次元緩和の様な極端な金融政策の元でも資産バブルはなかなか膨らみません。
結局、GPIFやゆうちょ、かんぽマネーで「官製バブル」を生み出そう必死ですが、個人投資家達は政府や日銀の手の内を呼んでいるので、日経平均が2万円を超えた辺りで利確してリスクを軽減し始めています。
その一方で、日本国債市場から締め出された資金は、アメリカに流出し、新興国市場やジャンク債市場で確実にバブルを膨らめています。ジャンク債市場や社債市場の金利の低下は、「自社株買い」というスキームによって、米株市場の高値を支えています。
この状況の中で、市場はFRBの利上げに恐怖しています。結局、現在の相場が利上げによって崩壊するバブル相場だと分かっているからです。
ただ、FRBの利上げの幅は微々たるものですし、日銀とECBが量的緩和を続ける限り、多少の利上げの影響は緩和され、市場が直ぐに崩壊に至る事は無いはずです。
ただ、日銀にしてもECBにしてもいつまでも量的緩和を継続する事は出来ませんので、どこかの時点で金利は上昇に転じ、今回のバブルは崩壊するのでしょう。
サマーズやクルーグマンが指摘する通り、先進国の経済は長期停滞に陥っており、中央銀行は意図的にバブルを作り出して成長を演出して来ました。
その結果、日本を除く先進国では有る程度のインフレを確保して来ましたが、徐々にインフレ達成のリスクの方が大きくなっています。
サマーズは「結局は将来的な大幅なインフレによって資産価格の差は解消される」と発言しています。彼は言葉をにごしていますが、これは「通貨の信用喪失によって高いインフレが達成される」事に他なりません。
インフレを神の様に崇める「一部のリフレ派」と違い、サマーズやクルーグマンや黒田総裁は、需要拡大を伴わないインフレのリスクを十分に理解しながらも、バブルを巧みに操って先進国経済を舵取りしていうるのでしょう。
バブル崩壊のスイッチはいつでも中央銀行の手の中に有り、好きなタイミングでそれをい押せる事は私達は忘れてはならないのです。