■ 豊洲市場の建物の地下に盛り土が無いのは当然では? ■
都議会の共産党が豊洲市場の「地下ピット」の写真を提示して、「汚染土対策として予定されていた4.5mの盛り土が無く、コンクリートの空洞になっていた」と指摘しています。
これに便乗して小池知事が「全都庁の職員にこの点について、改めて粛正をしていきたい」と発言しています。「粛清」かと思いました・・・怖い怖い・・・。
ところで、皆さんは大きな建物の地下には「地下ピット」と呼ばれるコンクリートで囲まれた「空洞」が在るのをご存じでしょうか?マンションの建築設計図などを見れば地下に「地下ピット」が存在します。
これは、地下に設置されている排水管などを検査する為の構造です。地下ピットを設置しなかた場合、配管に穴が開いたり、配管が詰まったなどのトラブルが生じた場合、地下を掘り進んで問題箇所に到達する必要が有ります。そもそも、地下ピットが無かったら配管類の点検にも行く事が出来ません。
「盛土が無く、コンクリートの空洞でした」と意気揚々と追求した共産党の議員は、大きな建物の下には「地下ピット」が必ず存在する事を知らなかったのです。
これに小池知事が便乗してしまったから「さあ大変」。
■ ガス工場って何? ■
豊洲市場は東京ガスの工場跡地に建設されました。東京ガスの工場は都市ガスを供給する為に原油やナフサからガスを改質して作り出す施設で昭和31年から昭和63年まで操業していました。これらの改質ガスには一酸化炭素が含まれ、以前はガス漏れ事故の一酸化炭素中毒で死亡事故が起きていました。「ガス自殺」も、一酸化炭素を含んだガスだから可能でした。
しかし、その後、都市ガスは「天然ガス」に転換されて行きます。天然ガスが原油採掘の副産物として噴出しますが、以前は燃やして処理していました。それを液体の「液化天然ガス(LNG)」にする技術が出来たので、都市ガスは天然ガスに1970年代から徐々に転換されて行きました。メタンが主成分で一酸化炭素を含まない天然ガスが安全性が高く、コスト的にも石油を改質するLPガスなどに比べて安いという利点があります。東京ガスの豊洲工場も、天然ガスの転換によってその使命を終えています。
■ 土壌汚染と盛土 ■
ところが、工場跡地を再開発する際に土壌汚染が問題になりました。工場跡地は多かれ少なかれ土壌が汚染されていますが、ガス工場は石油化学プラントなので、石油由来のベンゼンなど様々な化学物質で高濃度の土壌が汚染されています。
豊洲市場への移転で一番問題視されたのは、生鮮食品を扱う市場の土壌が汚染されていたという事です。これには市民団体も早くから問題視しており、これに対して都は放送大学の平田健正特任教授を座長にした「土壌対策の専門家会議」を招集し、会議は08年に2mの深さあmで汚染土を除去し、キレイな土で4.5mの盛土するの必要性を提言しています。
平田氏は土壌汚染と地下水汚染のスペシャリストだそうです。
① 豊洲では荒川工費基準面「AP.+2.0」(ほぼ海面)まで汚染土を除去。
これは用地の地下水の上昇上限が「AP.+1.8]なので、それよりも上のレベル。
② 掘り下げた地面の上の「砕石」を敷きます。
これは毛管現象で地下水が土壌の中を上昇して来る事を防ぐ為。
「砕石」の隙間は大きいので、地下水はこの層でブロックされます。
③ 砕石の上に2mのキレイな土を埋戻して東京ガスの工場敷地のレベルを回復
④ その上にさらに2.5mの盛土をして、これを市場の地盤レベルとする
■ 建物の下には地下ピットが存在するから当然盛土が無い ■
上の図では、建物の下も盛土されていますが、当然建物の下には「地下ピット」が存在していますから、その部分に盛土は在りません。
上の図が豊洲の汚染地下水処理システムの分かり易い図です。
① 汚染土を除去したAP.+2.0よりも下の滞水層まで揚水井戸を堀る
② そこから汚染地下水をくみ上げて浄化施設でキレイにする。
③ AP.+2.0には砕石層が在る
④ 道路や緑地などは4.5mの盛土層の上に作られる
⑤ 建屋は砕石層の上に地下ピットを建造し、その上の構築される
砕石層の上の地下ピットを含むコンクリートの空洞層を直接乗せるのは、地盤沈下を考えれば合理的は方法です。地下水は砕石層でブロックされていますから、地下ピットの底に溜まっている水は雨水と考えるのが妥当でしょう。
都が発注した工事ですから、地下ピットの構造は建築基準法を順守している事は言うまでも有りません。むしろ過剰強度で設計して建設コストを水増しされる事を都は警戒したハズです。
■ 「土壌対策の専門家会議」解散後に「技術会議」が地下ピット構造に決定 ■
実は「土壌対策の専門家会議」が2008年に4.5mの盛土を提言して解散。その後、
それを引き継いだ「技術会議」が施工方法などを検討して、建屋地下を空洞のピットとする案が採用されています。
私個人的には、素人ながら建屋地下をコンクリートの重量物の箱構造で支える案は、地震などの液状化対策的にも優れた工法だと考えます。
ただ、この計画変更の公開がされていなかった事に問題が在ります。都民、特に豊洲の環境問題を危険視した人達は、4.5mの盛土が敷地全体で施工されると思っていますから、建屋の下に盛土されない事を「約束反故」だと受け取ります。技術的な問題は彼らにとっては二の次です。
尤も、民主主義の手順として、情報公開を怠った都の責任は免れ得ないでしょう。計画変更を行うのであれば、きちんとその内容と安全性の実証をアナウンスすべきでした。
小池知事が激怒しているのも、都のこの杜撰な対応に対してだと思います。都民に使える公僕でありながら、官僚意識が強く、「どうせ専門的な事は説明しても分からないだろう」という雰囲気が都庁の中には在るのかも知れません。
■ 振り上げた拳を上手に下す事が出来るのか見物だ ■
何でも反対、何でも問題と騒ぐ共産党や市民団体はどうでも良いとして、小池知事が「粛正」などという強い言葉を使って振り上げた拳を、どうやって下すのかが見ものです。
建築の専門家からすれば、建屋の下部に盛土せずに地下ピットを構築する事は「疑問」の余地も無く「普通」の事だったのでしょうが、「素人」にこれを納得させるのは難しいかも知れません。
小池知事も今頃は専門家から上記の様な説明を受けて、内心では「しまった!!」と思っているかも知れませんが、「では、どうして建物の下がコンクリートの空洞と事前に都民に説明しなかったの!!」と担当者を尋問していそうで・・・ああ、担当者がカワイソウ。
スミマセン、妄想が暴走し始めました。
■ 専門家に確認もせずに条件反射で報道するメディア ■
今回の問題は「メディアの責任」も大きい。ちょっと建築の専門家に確認すれば「地下ピット」の存在に何ら問題の無い事は直ぐに分かるのに、その手順をすっ飛ばして「そら不正が発覚したぞ」と騒ぎたてる。ほとんど「脊髄反射」みたいな連中です。
尤も、メディアに責任を求めるのはナンセンスで、彼らは「豊洲は不正の巣窟。都議会と都政は伏魔殿」とプロパガンダする事を目的としていますから(現場はその目的も分からずに上からの指示で、自分の正義を疑いもせずに・・・)誰かが「これ、地下ピットじゃね」と社内で言った所で、無視されるでしょう。
「バカの壁」と言う言葉はあまり好きではありませんが、今回の一連の騒動には「バカの壁」という言葉が一番ピッタリと当てはまります。
メディアの記者にも、TVの視聴者や新聞の読者にも、「都議会と都政は不正の巣窟」という思い込が在るので、自分のマンションの地下にも普通の存在する「地下ピット」が「不正の巣窟」に見えてしまうのでしょう。
尤も、地下ピットの高さが4.5mも必要なのかは不明ですが、電気室や空調機械室が地下に在るのなら、その位の高さは必要です。都心のビルやデパートの地下には、この位の高さの空間はザラに在りますから・・・。
■ 根本的な問題は、土壌が汚染された豊洲に市場を移転する計画自体 ■
実は豊洲市場の根本的な問題は、土壌が汚染されている東京がスの工場跡地に市場を移転する計画自体に在ります。そして、汚染された土地を周辺市価に近い額で都が買い取った事。
民間で汚染土対策をして再開発したら採算性が悪くなります。本来なら東京ガスが汚染対策をするか、或いは、汚染された土地を安い価格で売却する事が妥当でした。
都にしても、これだけの面積を利用する施設としては、「市場」が必要だったから市場を誘致した感が在ります。
「豊洲都民の森」でも良かったのかも知れませんが・・・それこそ「腐海を浄化する森林」みたいで宮崎ファンは大喜び。ついでに「トトロの森」でも作って、ジブリワールドのテーマパーク化すれば・・・。
あっ・・・、公園は「ゴミの埋め立て地」に計画中でした・・・。ここも汚染、凄いのでしょうね・・・。
【追記】
高さ4.5mの地下ピットというのも・・・ちょっと不自然ですが・・・
① この地下構造全体が「基礎」となっている
② 硬い地盤まで撃ち込まれた杭に地下の基礎部は支えられている
③ 盛土はそもそも構造的に過重を受ける役割を持っていない
④ むしろ盛土すると、地下水面が砕石層を超えて上昇した場合、盛土の毛管現象で建物床近くに上昇してしまう
⑤ そもそも土壌汚染法では砕石層の上の盛土の厚さは50cm(コンクリートなら10cm)
⑥ 4.5mもの盛土を提言した事で無駄に土壌汚染対策費が跳ね上がった
⑦ 実際に建物部分まで4.5mの盛土で覆うのは土の搬入量を考えても無理だった
⑧ 建築の設計段階では2011年当時から、建物の下には盛土は想定していない
問題は青果棟の地下ピットの床が砕石層のままで捨コンが打っていなかった点ですが、本来ならば捨コンで被覆するのが一般的でしょう。共産党議員に見せたくなかったのはこの場所で、何故砕石層がむき出しなのかは調査が必要でしょう。
もっとも建築的には1Fのコンクリート床が被覆の役割を担うので、この暑さが45cmもある豊洲新市場では、ピット床が砕石もままだろうが、コンクリートだろうが、全然問題は在りません。(多分)
むしろ、汚染土を徹底的に取り除く事をアピールするために、AP.+2.0まで汚染度を掘削し、そこに砕石層を設けた事の方が問題では無いか?
① 砕石層が低いレベルに在る事により、大雨などによる地下水位の上昇が砕石層を超えやすくなる。(青果棟の砕石層の水溜りが気掛かりです)
② 建物下に無題に4.5mの空洞が出来る事で、基礎部分の建築コストが無駄に掛かる
尤も、各建屋に電気室やポンプ室などの地下構造物が在るので、砕石層の位置は地下構造物の高さから決まってしまうのかも知れません。尤も、これらの地下建造物に漏出する地下水をその下のピットで汲み上げるというのが一般的な考え方だとは思うのですが・・・。
ちなみに、室内のベンゼンなど有害物質の測定値は環境基準を満たしており、実は築地市場は豊洲の2倍の数値を示しているとか・・・・。
この問題は「原発問題」と類似しており、「4.5mの盛土が安全」という思い込みによて、合理的判断が麻痺している様に感じられます。(今に始まった事では在りませんが・・・)
そもそも、「絶対の安全」を求めたが故に、土壌汚染対策法で求める50cmの9倍もの盛土が無意味に必要になり、それによって都民の血税が無題に浪費されている。これ、安全を検討した委員が土建業者と結託して過剰な対策を要求したとすれば、それこそが問題なのでは無いでしょうか。・・・おっと妄想が・・・。
「誰が本当の悪者なのか」、皆さん自らがじっくりと観察したい事件ですね。