ツァイ・ミンリャンは『青春神話』(92)とカンヌでパルムドールを受賞した『愛情万歳』(94)のたった2作品で世界の頂点を極めた台湾を代表する監督のひとりだ。しかし、この2本の後、自家薬籠中に陥り迷走を続けることになる。
今回の2作品はともに、いったい何が言いたいのか、何がしたいのかすらわからない出来だ。特に台湾で大ヒットしたというこの『西瓜』は酷い。そのバランス感覚の欠如は痛々しいまでだ。
. . . 本文を読む
『メメント』のクリストファー・ノーランに見事に騙されてしまった。この手口を鮮やかというべきか、それとも「それはないんじゃないの」と呆れるべきかは、かなり微妙なラインだ。
ただ、『メメント』の時のようなあざとさはない。これは確信犯である。これで勝負をしてきた以上、しっかりこの禁じ手込みのカードを受け止めて評価するしかあるまい。(『メメント』に関して僕は、あれはスタイルに逃げた、と理解している。 . . . 本文を読む
1986年から87年SWITCHに連載されたこの文章が、20年の歳月を経て1冊の本となって甦る。あの時、細切れに読んだものをもう一度、順を追って一気に読んで見て、まず、感じたことは、沢木さんの変わる事のない誠実さである。『深夜特急』『馬車は走る』の仕上げから、『キャパ』の翻訳への着手、さらには蜂を追っての旅、という沢木さんにとって明らかに節目となる30代最後の1年間を背景に、熱っぽく語られる様々 . . . 本文を読む
こういう観念的な小説は確固とした世界観を読者に浸透させなくては途中からしらけてしまいついていけなくなる。18年前に書いたデビュー作の続編を、3部構成で見せていく本作は、作者の成熟と失われることのない瑞々しさが迸る佳作になっている。と、言いたいところだがかなり微妙なところでリアリティーの欠如から作者の独りよがりにしかならないものになっている。
学校の地下にあるもう一つの学校。そこは死者の世界で . . . 本文を読む
チェン・ポーリン、リウ・イーフェイ主演のアイドル映画。とても映像が美しい。映画自体が甘すぎて、せっかくの題材が台無しだが、これを全否定する気にはなれないのは、その美しい風景と、その中で生きる2人の男女の姿の瑞々しさゆえだ。
映画は、台北の夏、ハルピンの冬。2つの場所と季節を通して、遠く離れた2人の男女の淡い恋心を爽やかに描く。それに台湾の人気バンド、メイディを絡めたストーリーはとても単純で、 . . . 本文を読む
東京の下町、その静かな佇まいに心惹かれた。この映画が素敵なのはその一点に尽きる、と言っても過言ではない。八千草薫のお祖母ちゃんと、主人公である落語家三つ葉(国分太一)の住む家がまた素晴らしい。昔ながらの日本家屋が、ひっそりと町に溶け込んでいる。ここはちょっとした隠れ里だ。
だから、3人がここにやって来る気持ちがよくわかる。彼らは落語教室に通い、話し方を教わることが目的ではなく、この家に来て、 . . . 本文を読む
これには泣かされた。もちろんほんの少しだけれど。絲山秋子はこのバカバカしい恋愛物語をほんとにさりげなく書き上げてしまう。心憎いばかりだ。
ファンタジーなんていう名前の男だ出てくる。このへんで呆れてしまうが、平気でストーリーを展開する。彼は、実は神さまの一種らしく、見える人には見えるが、見えない人には見えない。(なんちゅうあほらしさ)初めて出会ったのに、ずっと以前から知っていたような気がする。 . . . 本文を読む
発想は面白いが、帰着点があまりに単純で、オチにもなっていない。コントならこれでもいいのかも知れないが、2時間の映画なのだから、これではかなりの観客は納得しないだろう。
松本人志が撮る映画なのだから、壮大なコントでいい、と本人は居直っているのだろうから、それ以上文句を言っても仕方ないことだろうが、少なくとも僕はがっかりした。
但しこのバカバカしい話を本気でバカバカしく撮ったということは、高 . . . 本文を読む
市川準が、学校でのいじめの問題に取り組んだ作品。「メールといじめ」というテーマはあまりに現代的で、ストレート過ぎて退いてしまう。教育映画ではないんだから、とは思うが、映画はいつもの市川準で、こういう社会問題を扱っても、全く変わる事はない。緊張感のある素晴らしい映画だ。メッセージ性云々よりも、与えられた題材をいつもの自分の世界で描いただけという印象が残る。だから素晴らしい。
小学校6年のシーン . . . 本文を読む
この小説には乗り切れなかった。主人公たちに全く共感できないからである。今まで江國香織の小説を全部読んできて、こんな感想を抱いたことって初めてではないか。少し動揺している。どんな作品でも、出来不出来はあっても、いつも共感できていたからだ。出てくる主人公は、たとえどんなに嫌な女だと思っても、なぜか受け入れてしまうことが出来ていた。
ある意味では、今回の2人も今までの作品の流れを踏んだ人物造形がな . . . 本文を読む
なんとなく見る前からよく似ている、と思っていたが、映画の後半に到り確信した。これはポン・ジュノの『殺人の追憶』にそっくりなのだ。ほんとによく似たテイストの映画である。それはストーリーだけの問題ではない。事件を追いかけていくうちに、どんどん迷宮に嵌りこんでしまい、抜け出せなくなる。事件はもう終わっているのに、いつまでもいつまでも拘り続け、精神的にも、肉体的にもボロボロになってしまい家庭すら崩壊させ . . . 本文を読む
三原光尋監督は『歌謡曲だよ、人生は』の第5話を担当しており、宮史郎本人を主人公にして、『女のみち』を映画化している。銭湯を舞台にした、懐かしくて、おバカな映画である。サウナで刺青の初老の男に絡まれる高校生の話。2人で忘れてしまった『女のみち』の歌詞を思い出すために必死になる、というそれだけの話だ。映画のラスト近くで一瞬スクエアのメンバーも顔を出したりする。
そんな彼の長編最新作『スキトモ』が . . . 本文を読む
こんなにもバカバカしくて、いい加減で、自由奔放な映画を作っていいのだろうか。無節操で、おふざけが過ぎるし、オリジナルの歌謡曲に対してのリスペクトがまるで感じられないものすらある。だけれども、少なくともこの12曲の提供者は誰も怒ることなく、この映画化作品を認めてくれたことは事実であろうから、作者たちの無謀な冒険が、広い心の持ち主であるオリジナル歌謡曲の作者たちの愛に支えられて、実現可能となったこと . . . 本文を読む
もう少し具体的にリアルな展開を見せるか、あるいは抽象的なドラマとして、象徴的な展開を見せていくのか、そのどちらかに作り手は立場を置くのかを明確にしなくては見ていてストーリーにも乗り切れない。台本(馬場千恵)はもちろんのこと、演出(猪岡千亮)も徹底しきれてないから、とりとめのない芝居になってしまった。何処を拠りどころにして演じたらいいのか分からないから、役者たちも戸惑っており、可哀想である。
. . . 本文を読む
ヨーロッパを代表する3監督が(キアロスタミはアジアかぁ!)オムニバスとはいえないくらいに自然なタッチで1本の映画に競演する。ローマに向かう列車の中で乗客である3組の主人公たちが、感じたことや、どうでもいいようなこと、更には出くわした事件などが綴られていく。エルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、そしてケン・ローチ。全くタッチが違う3人が1本の映画で出会う。
老教授のささやかな恋を描くオー . . . 本文を読む