中島陸郎さんの没後10年をしのんで企画された今回の精華演劇祭の作品の中でも一際異彩を放つのがこの作品であろう。とても芝居のタイトルとは思えないこのタイトルに込められた想いがこの作品の要だ。
4人の劇作家(樋口美友喜、深津篤史、棚瀬美幸、内藤裕敬)が中島さんを題材にして短編を書下ろし、それを、遊劇体のキタモトマサヤさんが再構成し演出した。4人のそれぞれの個性が良く出た作品になっている。それをき . . . 本文を読む
ナツメオトコとユキタロウが廃墟と化したビルに忍び込む。2人の子供たちのドキドキするような冒険からこの芝居は始まる。まだきっと現役大学生である新人の荒田洋子と岡崎由紀子の2人組がとてもいい。この子たちの初々しさがこの芝居に命を吹き込んだのだ。小さくてかわいい2人のちびっこが、ささやかな冒険を始める。ビルの5階のわけのわからないスペースまでやってきた彼らはここで不思議なおじさんたちと出逢う。無人の廃 . . . 本文を読む
『トランク』の第4作。今回はきちんとしたセットを(前回もそうだったが、それ以上に、という意味だ)作り、カフェを完全に劇場仕様にした1篇。シリーズ最高傑作となった。
舞台中央の暗幕によるスクリーン(オープニングは例によって、そこに『100年トランク』の今回のエピソードにまつわるダイジェストが投影される)が取り外されると、そこには狭くて奥行きのある部屋が現れる。そしてその部屋を含むこの空間全体が . . . 本文を読む
『県庁の星』の、というよりも、僕にとっては『ボーイズ・ビー』の桂望実さんの新作。内容的にはこの2作品を足して2で割った感じだ。
友人を自殺に追い込んでしまった男が、売れっ子コーピーライターの仕事を投げ出して、田舎で隠居生活をする。まだ30代なのに。世間から離れ、人知れず、田舎の村で、ひっそりひとりで生きるつもりだったのに、村の人たちに巻き込まれ、村おこしのお先棒を担がされる。最初はいいかげん . . . 本文を読む
評判が評判を呼んだこの映画をようやく見た。噂に違わぬ凄まじい映画だ。いいかげんもここまで行くと立派だ。くだらなさもここまでいってこそくだらないと脱帽する。何事も中途半端はいけない。やるならとことん極めなくては!どこまでも際限なくやり尽くすのだ。そうすれば道は開ける。
冒頭からおバカパワー全開である。大体、今時「セーラー服にマシンガン」というありきたりなイメージを、半端にされると見る気もしない . . . 本文を読む
ホクテンザのジェイ・チョウ特集である。2本立上映なんて今時めずらしい。ホクテンザでも最近あまりしない。なんだかお得感に誘われて見に行く。もちろんおめあては『言えない秘密』だった。昨年8月の公開時見れなくて、DVDを待ってたら、こんなふうにいきなり再公開してくれてなんだかラッキーだ。
ということで、絶対見るつもりもなかった『カンフーダンク』も見た。正直言ってあまりの酷さに何も書けない気分だ。だ . . . 本文を読む
これは、2007年台湾で№1ヒットを記録した作品だ。わかる気がする。こういう優しいラブ・ストーリーをみんなが支持する気分が。甘いだけの映画ではない。ここに描かれる寂しさは誰もが抱える気分だろう。だからみんなこの映画が好きになったのだ。
台湾版『時をかける少女』である。懐かしい。タイムトラベルものなんて久しくなかった。昔は日本でも(もちろん原田知世ちゃんの『時をかける少女』)、アメリカ(『ある . . . 本文を読む
高校2年生。人生で一番輝いている時代。なのに、彼らはこんなにもつまらなさそうにしてる。実際少しも面白くない。出来ることならさっさとやり過ごしたい。だが、ここをやり過ごしたからといって、その先にバラ色の未来なんかない。ここと同じようなどんよりとしたつまらない時間しかない。そんなことわからないじゃないか、なんて言わないこと。だってこの小説はその先の彼らの姿がしっかりと描かれている。あの頃と変わらない . . . 本文を読む
竹内銃一郎の演出である。あの竹内さんが学生劇団の演出をする。まぁ、大学で教鞭を執る傍ら彼らを応援する意味で協力する、というのはままある。近大生はいい指導者に恵まれて今関西の小劇場界を席捲せんばかりだ。とてもいいことだと思う。だが、今回の竹内さんの関わり方は従来の先生として学外で公演しる、というパターンとは少し色合いが違う、気もする。
それにしても竹内さんは若い子たちとこの集団を旗揚げして何を . . . 本文を読む
とても丁寧に作られてあり、芝居を作るということを大切にしていることがしっかり伝わってくるから、見ていて気持ちがいい。自分が作ろうとする世界には何が必要で、それをどんなふうに提示したならいいのかに心砕いている。真面目で一生懸命だ。まぁ、そんなこと当然のことで、誰だってそんなふうに作るよ、と言われそうだが、こんな当然のことが出来ていない芝居も多い。基本を忘れて暴走する。基本すらないのに理屈ばかりは一 . . . 本文を読む
光州事件を描いた映画だが、事件の全貌を捉えることがテーマではない。80年代の韓国民主化運動を背景にしたラブ・ストーリーという骨格を持っている。しかし、イム・サンスである。甘いだけのラブ・ストーリーなんかにはならない。
だが、『浮気な家族』『ユゴ 大統領有故』に続く韓国現代史3部作の完結編でもあるこの作品は、今までの奇を衒ったタッチとは全く違い、叙情的なパッケージングを持ちながらも、シリアスな . . . 本文を読む
こんなにも個人的なものを、ここまで断片的なイメージのままで1本の芝居として作り上げてしまっていいのだろうか。わかるとか、わからないとか言う次元ではなく、ここまで極私的な世界を演劇として提示するという行為に対して、ためらいがある。
主人公である私(松田本人を役者が演じる)が長崎の街をさすらう。同じようにフランツ・カフカ!もこの街をさすらう。父が生き、やがて死んでいくことになるこの街。父はこの町 . . . 本文を読む
とうとう3週目に突入した。今回は少し軽めのテイストの作品になっている。起承転結で言うと『転』にあたるパートだ。ここは今までの流れから少し逸れるほうがよい。そういう意味でも今回のこの展開は悪くない。
『100年トランク』ではサブ・キャラクターである分別子(村上桜子)を主人公にして、彼女が仕事を終えて家に帰ってから、翌朝までの物語というのもいい。彼女の私生活を描いて、それがトランクとほんの少し関 . . . 本文を読む
木下恵介監督、高嶺秀子主演の傑作である。僕が今更何を言うまでもない。映画史に残るこの映画の素晴らしさをここで繰り返してもしかたない。
偶然に、見る機会があり少しだけ見た。分校時代を描く1年生の部分と、本校に移ってからの6年生のところのほんの少しまで、見た。松ちゃんのお母さんが入院することになるエピソードまでだ。ここからはつらい話ばかりが続く。
僕がこの映画を初めて見たのは、中学生の頃だ。 . . . 本文を読む
九人の作家たちが自ら選んだ段を使ってリライトするもうひとつの『源氏物語』である。かなり融通がきいて自由度が高い。そのまま現代語訳しただけのようなものから現代を舞台にして原作のエッセンスだけを残したオリジナルまで、アプローチはみんな違っている。『帚木』から『浮舟』まで9編が原典の順に並んでいるので、一応源氏物語のダイジェストにもなっている。ただ短編連作とはいえ個々のエピソードは完全に独立しているし . . . 本文を読む