とても丁寧に作られてあり、芝居を作るということを大切にしていることがしっかり伝わってくるから、見ていて気持ちがいい。自分が作ろうとする世界には何が必要で、それをどんなふうに提示したならいいのかに心砕いている。真面目で一生懸命だ。まぁ、そんなこと当然のことで、誰だってそんなふうに作るよ、と言われそうだが、こんな当然のことが出来ていない芝居も多い。基本を忘れて暴走する。基本すらないのに理屈ばかりは一 . . . 本文を読む
光州事件を描いた映画だが、事件の全貌を捉えることがテーマではない。80年代の韓国民主化運動を背景にしたラブ・ストーリーという骨格を持っている。しかし、イム・サンスである。甘いだけのラブ・ストーリーなんかにはならない。
だが、『浮気な家族』『ユゴ 大統領有故』に続く韓国現代史3部作の完結編でもあるこの作品は、今までの奇を衒ったタッチとは全く違い、叙情的なパッケージングを持ちながらも、シリアスな . . . 本文を読む
こんなにも個人的なものを、ここまで断片的なイメージのままで1本の芝居として作り上げてしまっていいのだろうか。わかるとか、わからないとか言う次元ではなく、ここまで極私的な世界を演劇として提示するという行為に対して、ためらいがある。
主人公である私(松田本人を役者が演じる)が長崎の街をさすらう。同じようにフランツ・カフカ!もこの街をさすらう。父が生き、やがて死んでいくことになるこの街。父はこの町 . . . 本文を読む
とうとう3週目に突入した。今回は少し軽めのテイストの作品になっている。起承転結で言うと『転』にあたるパートだ。ここは今までの流れから少し逸れるほうがよい。そういう意味でも今回のこの展開は悪くない。
『100年トランク』ではサブ・キャラクターである分別子(村上桜子)を主人公にして、彼女が仕事を終えて家に帰ってから、翌朝までの物語というのもいい。彼女の私生活を描いて、それがトランクとほんの少し関 . . . 本文を読む
木下恵介監督、高嶺秀子主演の傑作である。僕が今更何を言うまでもない。映画史に残るこの映画の素晴らしさをここで繰り返してもしかたない。
偶然に、見る機会があり少しだけ見た。分校時代を描く1年生の部分と、本校に移ってからの6年生のところのほんの少しまで、見た。松ちゃんのお母さんが入院することになるエピソードまでだ。ここからはつらい話ばかりが続く。
僕がこの映画を初めて見たのは、中学生の頃だ。 . . . 本文を読む
九人の作家たちが自ら選んだ段を使ってリライトするもうひとつの『源氏物語』である。かなり融通がきいて自由度が高い。そのまま現代語訳しただけのようなものから現代を舞台にして原作のエッセンスだけを残したオリジナルまで、アプローチはみんな違っている。『帚木』から『浮舟』まで9編が原典の順に並んでいるので、一応源氏物語のダイジェストにもなっている。ただ短編連作とはいえ個々のエピソードは完全に独立しているし . . . 本文を読む
作・演出を担当した橋本匡のイメージが全開した大作。今までの実在の事件を題材にした作品から、進化して今回はオリジナルで、世界を作ろうとした。奔放なイメージの飛躍が作品世界を広げた。それをサカイヒロトの美術が見事に支える。乱暴な展開はこの際目を瞑ろう。イメージ優先の芝居作りは一部の反感を買う恐れもあるが、そんなことは気にしない。外野の声には耳を傾けるな。自分のひとりよがりでいいのだ。これはかって石井 . . . 本文を読む
これは酷い映画だ。これと同じスタイルでこの映画のプロデューサー岩井俊二監督が以前撮った『花とアリス』は傑作だったのに、この映画は表面だけ真似をしてその実、まるで中身のない映画に仕上がっている。これでは映画とも言えない。人気脚本家、北川悦吏子が脚本監督を担当したこの春一番の期待作だったのに。どうしてこんなことになったのか。
誰もいないグランド。放課後の教室。土手の横の小道。自転車で風を切って走 . . . 本文を読む