107分という上映時間がいい。そこは譲れないと思ったのだろう。これは戦争映画ではない。スパイ・アクション映画なのだ。一見すると、重いタッチに見せかけて、実はとても軽い映画だ。
冒頭の陸軍による過酷で不条理な訓練を見せるシーンの重いトーンに騙されてはならない。というか、別にそこで騙すとか、騙されるとか関係ないのだけど。でも、これは諜報戦のお話で、騙し騙されのお話なので、それはそれでいいかぁ、とも思 . . . 本文を読む
9年前に上演された作品を再演する。だから、この芝居の描く時代は、2006年を現代にする。そんなところまでなんだか真面目で、凄い。まず言いたいのはこの芝居があまりに真面目すぎて、堅いということなのだ。融通が利かない。頑な過ぎて、見ていて息苦しい。息が詰まる。でも、そこがこの作品の魅力でもある。
昭和10年代、やがて戦争に突入する直前から戦争が終わる直前までが描かれる。旧家の嫁を主人公にして、彼女の . . . 本文を読む
涙がとまらなかった。上下2巻700ページ強の大作である。男の子の一代記になっている。でも、立身出世伝とか、そんなのではない。普通じゃない家族のお話で、それがこの男の人生をいかに捻じ曲げたのかを、丹念に綴っていく。
ちょっとした大河小説で、でも、終盤で主人公が若ハゲに悩むなんていうエピソードが綴られるのだ。どんどん髪の毛が抜けていくのは、若い男子にとって衝撃的であろうけど、それが小説の重要な要素と . . . 本文を読む
中田永一の原作も素晴らしかったけど、この映画の感動はそれを遥かに凌駕している。これは現代の『二十四の瞳』であり、『サウンド・オブ・ミュージック』だ。ポスターや宣伝用のチラシの写真も明らかにその線を狙っている。ここまで大胆に歴史に残る大傑作の向こうを張って、全く怯むことはない。作品自体はその二本と似ているわけではないけど、そんな作品を引き合いに出したくなるほどに、これは素晴らしいということだ。
映 . . . 本文を読む
中西邦子さんは、ある劇団の最後をこんなにも自然体で見せてくれる。それは驚きだ。劇団の終わり、というドラマチックな(いささか自虐的でもある)ネタを仕込んで、こんなにもさわやかなお芝居として立ち上げてしまう。
これは重くて暗いお話にすることも充分可能だ。というか、本来ならそうなるような題材だろう。そして、その方がきっと作品としては面白くなるはずなのだ。だが、彼女は断固としてそうはしない。女性だけの小 . . . 本文を読む
三島有紀子監督が神戸を舞台にしてこんなにも素敵な作品を作ってくれた。北海道の自然を舞台にした先の2作品も好きだったけど、あまりにメルヘンすぎて、少し鼻につくという人もあったはず。でも、今回は同じメルヘンでも、舞台が神戸で、お話もファンタジーではない。日常を舞台にしたお話だ。でも、そこは三島作品。とても、きれいで、夢のような世界がそこには描かれる。神戸の街並みを舞台にしたある種のファンタジーなのだ。 . . . 本文を読む
今年も青い鳥がウイングフィールドにやってきた。とてもうれしい。彼女たちは毎年この時期にウイングで公演を打つようになった。この小さな小屋が気に行ってくれたようで、それもうれしい。青い鳥をここで見れる幸福を噛みしめて、今年もドキドキしながら、舞台と向き合う。こんなにも近い場所で彼女たちの芝居を見ることが出来る。そして、今も、昔と同じようにとても軽やかなフットワークで、老いの問題(それはもう確かな自分た . . . 本文を読む
帰る場所がある。ただそれだけでどんなに心が強くなれることだろうか。しかし、彼らは自分からそれを失おうとしている。愚かなことだ。でも、そのことに自分では気づかない。父を失い、本当はこんなにも不安なくせに、その不安を解消するために、敢えて棄てるという選択を選ぼうとしている。
母だけでなく、父もなくした。そんな主を失った家に留まり続ける次男。ここを離れて大阪で暮らす長男と、長女は、それぞれ自分の家庭 . . . 本文を読む
あまり期待しないで見た。でも、大好きな松岡錠司監督作品なので、つまらないはずはない、と信じた。6年振りの新作だということだ。確かにそれくらいになる。だから、これが松岡作品と知っただけで、見に行くことにした。でも、深夜に放送されたTVドラマの映画化だし、なんか、そういうのって安易で好きじゃないなぁ、とも思った。しかし、これが思いの外、(いや、思い通りに、だ!)すばらしい。
3話からなるオムニバスス . . . 本文を読む
これはなんと城崎温泉にて制作された芝居で、大阪経由東京行きとなる。カムヰヤッセンの北川大輔さんが、新しく立ち上げた個人ユニットで、城崎国際アートセンターが企画を募ってその審査に合格した作品。この現地滞在による制作上演というのって凄い。東京公演は来週18日からになる。東京より、一足お先にこの秀作を見ることが出来たことになる。うれしい。
ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』(僕たちの世代にとっては、とて . . . 本文を読む
とても真面目な芝居で、扱うテーマもまるで教科書のようだ。それが中川さんの特徴で、今回だけのことではない。前回は「自殺」、その前は「差別」。そして、今回は「いじめ」について、である。普通ならテレてしまって、もっとはぐらかすところだが、彼はそれを真正面から直球勝負でみせようとする。気恥ずかしくなるような、ありえないような、そんな設定だ。だが、彼は臆することなく武骨な手付きでそれに挑む。
しかも、彼 . . . 本文を読む
それにしても、どうしてこんなにも涙が溢れてくるのだろうか。
そこにある懐かしい風景に心動かされるからか。ただ、この時間を、この瞬間を大切にしたかった。それは人生で一番輝いていた時間かもしれない。この後に来る苦難の時代。あと、14年で日本による支配は終わる。自分たちの国が植民地になり、言葉を奪われて、生きること。でも、映画はその苦しみを描くのではなく、そんな時代にあっても、幸せだった青春時代を描 . . . 本文を読む
なんだ! この映画は。最初の淡い初恋パステルカラーの世界が、最後には狂気の愛に。しかも、それは予定調和ではなく、確信犯でもなく、まるで思いもしないいたずらのように、そこに至る。ありえないだろ、と思う。でも、実際にそうなってしまったのだから、仕方ない。主人公の少年はなんと『太陽を盗んだ男』のジュリーになろうとする。そこまで彼を「あぶない男」に仕立てた運命の女。
でも、これは高校1年生の水泳部男女の . . . 本文を読む