いつまで経っても『うさぎパン』の瀧羽麻子、と呼んでしまうのは、それくらいにあの作品のインパクトが強いからだ。確かに彼女はいろんなタイプの小説を書いている。でも、その核心部分はいつも同じだ。今回だってそう。ただ、だんだんそれはシンプルになって来た気がする。いちばん最初の『うさぎパン』に戻っていくようなのだ。
今回の姉妹のお話なんてまさにそうだ。だれかを好きになると人は寂しい。相手のことを思いすぎ . . . 本文を読む
唸り声が聞こえる。父の声だ。冒頭のこの場面で作品世界に引き込まれる。3重に白い布が渡された空間。それは波のようだ。だから、ここは海。その中央にある柱の前に(もちろん、その柱も白い)父が立つ。作家は、行き倒れになった父の病室に行く。
とても個人的な問題を扱う。内面を象徴的に描く。Plan Mにおける樋口さんのやり方は、変わらない。実に気持ちがいいくらいにストレートだ。象徴的で観念的なドラマが難し . . . 本文を読む
伊坂幸太郎の傑作小説を瀧本智行が見事に映画化した。2時間のとんでもない狂騒曲。今まで伊坂作品は中村義洋監督のほぼ独占市場だったのに、そこにようやく対抗馬が登場した、という気分だ。次はぜひ、『マリアビートル』をお願いしたい。
瀧本演出はそのワイルドさ、スピード感が素晴らしい。テンポのよさと重厚さ。ライト感覚の中村演出とは一線を画する。そのヘビーなタッチがいいのだ。あのハードアクション『脳男』でもタ . . . 本文を読む
先日、『それからはスープのことばかりを考えて暮らした』を読んだ。抱きしめたくなるような、とても素敵な小説だった。あの世界の中で、ずっととまどろんでいたいと心から望んだ。でも、そうはいかない。あれは、夢の世界のできごとで、僕たちは現実を生きている。
吉田篤弘の描くこだわりの世界は、時のとまった静かな世界だ。そこではゆっくりと時間が流れる。まるで「きのう」と同じ「きょう」が続くように。でも、それは . . . 本文を読む
なぜ、こんな映画を作ったのだろうか。不思議でならない。どういう意図で、何を目指したか。まるで、わからない。子供のための3Dアトラクション映画。冒険大活劇。まず、そこが狙いではないか、ということは明白だ。しかし、そうだとすれば、これは大失敗している。以上、終わり。と、いうことになるのだが、それはあんまりだし、監督のロビン・ライトは頼まれ仕事で、当たり障りのないものを無難に作ろうとした、なんて、思え . . . 本文を読む
若くして死んだ劇団員へのオマージュとして、彼の心を捉えた「芝居」って何なんだろうか、ということを、日本演劇史を紐解きながら描いていくという実験的な劇。普通のお話を期待した人には、幾分わかりにくいかもしれないけど、気にしないでいい。
だって、なんだかわからないけど、楽しめるはず。ダンスシーンもあるし、殺陣もある。そこそこ華やかで、でも、やはり少し間口は狭いかも。しかも、とても個人的なこと(太陽族の . . . 本文を読む
もうこのタイトルを見たら一目瞭然だけど、ヒットシリーズの第3作。毎回同じように楽しませてくれる。本公演とは違う肩の力を抜いたお気楽な作りがいい。ゲストたちが交わす会話を楽しむ。ほとんどアドリブじゃないか、と思わせるくらいに、軽い。でも、実はとてもしっかり書かれてある。歴女である(たぶん、)阿部さんの趣味を存分に生かした作劇で、歴史上の人物(もちろん、女)に、BIRで、お酒をがぶ飲みしながら、好き放 . . . 本文を読む
70分ほどの短い芝居なのだが、とてもよく出来ている。欲張ることなく、シンプル。でも、物凄く丁寧に作られてあるから満足度は高い。アトリエ「空白」という小スペースでの公演で、客席も20席ほど。よくあるカフェ公演に近いものなのだが、こんな贅沢な芝居はなかなかなかろう。アトリエをこの芝居用に改造したようなのだ。2階への階段もつけ直して、壁をぶち抜いたりもした。この芝居のためだけにアトリエ自身を改造している . . . 本文を読む
伊藤計劃プロジェクトの第2弾。3カ月で3本連続公開するというとんでもないプロジェクトだったのだが、本来この11月に公開予定だった『虐殺器官』が公開延期となり、12月のはずだった本作が繰り上げ上映されることになった。(その辺の事情は知らないけど、)
第1作の『屍者の帝国』が思いのほか(失礼!)面白かっただけに今回も期待した。映画化がとても困難を極める難解な原作を、しかもアニメ化するのは、不可能では . . . 本文を読む
もう3Dはいいよ、と思う。正直言って見世物映画としての3Dはもう食傷気味だ。だいたい3D映画は字幕が浮き出てきて見難いから、あまり好きじゃない。映画に集中できないし。アトラクションとしては2時間は長いし。
でも、圧倒的スケールで迫る3D超大作なら見たかった。3D映画であることの利点を十二分に生かしたスペクタクルだ。今までSF限定で展開してきた3D映画の枠を打ち破るもの。人間ドラマとしてもちゃんと . . . 本文を読む
『さよならオレンジ』の岩城けいの第2作。前作ほどの衝撃はないけど、オーストラリアで過ごすことになった12歳の少年の1年間を通して、異文化の中で適応することの困難、そこから見えてくる新しい風景が、リアルなものとして伝わってくる。
きれいごとにはならない。いじめられ、居場所を失い、もがき苦しみながら、少しずつ自分の存在意義を見出していく真人の姿が、現地と全く適応出来ず、心を壊していく母親との対比で . . . 本文を読む
今回は「羊」。毎回いろんな動物がモチーフになる。眠れない男のお話。それと、スパイの話。ふたつの話が同時進行してラストに至る。いつものようにたわいもない話なのだ。でも、だから、いい。
105分間、バカバカしいお話で楽しませてくれる。これもいつものようにだが、ニランジャンとそのダンスチームによるダンスシーンも満載で、狭い空間を縦横に使い、このくだらないお話を盛り上げて楽しませる。魔人ハンターミツル . . . 本文を読む
大阪弁で、現代を舞台にした作品で、大阪の遊郭を舞台にした作品を作る。神原さんの今回の冒険は、いつも以上に彼女の本気が前面に出た作品に結実する。もちろん、ハレンチキャラメルをしているときだって、いつだって彼女は本気で芝居と取り組んでいる。そんなことは重々わかった上で、そう書いている。
ここに描かれる切実さは、必ずしも、リアルとは言えない。だが、遊郭で働く女たちや男たちのドラマを確かな感触で、神原 . . . 本文を読む
また、少女コミックの映画化である。もう、いいよ、と思う人もいるだろう。そういう人はもう見なくていい。これが少女漫画であることよりも、この映画が目指すものをちゃんと見なくてはならないと思うのだ。
余談だが、キネマ旬報の短評で、この映画のことを腐している評論家の文章を読んで、うんざりした。嫌なら見るな! 最初から偏見の目で映画を見るような輩には文章を書く資格はない。たぶん別人のものだが、先日の号の『 . . . 本文を読む
このタイトルはピアノのことだ。主人公は調律師。彼がピアノに魅せられてこの道を進み、そこで出会った少女の音に魅せられる。それは森だ。実際の森の中で暮らしてきた彼が、そこを出て町で暮らし、再びそこに戻る。その、「そこ」とはピアノの、彼女の奏でる音だ。森で生きる、森で暮らす、そこに確かにある響きだ。森の放つ音。森の雰囲気。森の匂い。
少しずつ、彼は調律師として成長していく。周囲の優しい先輩たちの仕事 . . . 本文を読む