なんだかわからないまま話は進み、最後まで来たのに、やはりよくわからないまま終わる。なのに、なんだか面白い。久しぶりに普通のはずなのに不思議な小説を読んだ気がする。まるで傾向の違う作品なのに2篇とも同じような冷たさと暖かさがある。
「君の六月は凍った。」というひと言から始まる。30年前の記憶をたどる。そこには同い年の女の子がいた。彼女はみんなから鼻つまみにされているが、彼は気になる。そんなふたりの . . . 本文を読む
マーゴット・ロビー&ライアン・ゴズリングの共演でバービー人形の世界を実写で映画化。アメリカでは今大ヒット中の大作映画。しかも、それをあの『レディ・バード』や『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』を撮ったグレタ・ガーウィグが監督。『マリッジ・ストーリー』のノア・バームバックがガーウィグ監督と共同で脚本を手がけたのだから、期待しないではいられない。前半部分(冒頭の『2001年宇宙の旅』のパ . . . 本文を読む
芥川賞受賞後第1作。どうでもいいこと(歩いていて、道を避け合わないまま、ぶつかる)にこだわり執拗にあらゆるケースを検証する女性が主人公。彼女の抱える問題は世の中の不条理だけど、これは彼女自身の不条理でもある。彼女は真面目過ぎて心を病んだ。スマホを見ながら歩いているから前が見えてない人にぶつかられる。普段は自分が気をつけて避けるが、どうして自分ばかりが避けなくてはならないのか。歩きスマホをしている人 . . . 本文を読む
前作『#マンホール』が少しがっかりだった熊切和嘉監督の新作。久しぶりに菊地凛子を呼び寄せて、(なんと初期作の『空の穴』に出ている!)彼女を主演に迎えたロードムービー。コミュ障の42歳、恋人も友人もいないひとり暮らしの女。夢を抱いて青森から東京に出てきて24年。あれから一切故郷に戻っていない。今の生活に煮詰まっている。そんなある日、いきなり従兄(竹原ピストル)が訪ねてくる。彼女の父親が死んだ。明日葬 . . . 本文を読む
『三千円の使いかた』で最近大人気になった原田ひ香の新作。だからなかなか図書館では借りられない。ようやく順番が回ってきた。
「東北の書店に勤めるもののうまく行かず、書店の仕事を辞めようかと思っていた樋口乙葉は、SNSで知った、東京の郊外にある「夜の図書館」で働くことになる。そこは普通の図書館と異なり、開館時間が夕方7時(4時から勤務するが)~12時までで、そして亡くなった作家の蔵書が集められた、い . . . 本文を読む
フランスの女優シャルロット・ゲンズブールが初監督を務め、母ジェーン・バーキンの真実に迫ったドキュメンタリー。有名な大女優であり、歌手でもある母は近くにいるはずなのに遠い。一緒に暮らしていなかった時間が長い。だから憧れの存在でもある。父親であるセルジュ・ゲンズブールの元で育ち、小さな頃から女優として活躍したシャルロットは40代になり、子どもを育てながら仕事も精力的にこなしてきた。今初めて真正面から母 . . . 本文を読む
コロナ禍ど真ん中の2020年春から秋をスタートとして始まる帰国子女中学生たちの日常を描く4話からなる短編連作スタイルの長編小説。玲奈ちゃんを主人公にしたなかよし3人。コロナをものともせずに大変な時代を生きる。まず、冒頭のタイトル作のスピード感に圧倒される。その後を描く2作目以降も同じだ。圧倒的な熱量で元気な中学生の日々が描かれる。1作目が中2で、2作目は中3。コロナ元年の2020年から21年へと時 . . . 本文を読む
これは香港映画の巨匠アン・ホイの映画人生を追ったドキュメンタリー。僕が彼女の映画を始めて見たのはデビュー直後の第2作である82年作品『望郷 ボートピープル』。ドキュメンタリータッチで描かれる世界は新鮮で、それは今までの香港映画にはなかったものだ。その後も精力的にどんどん様々な映画(いかにもの香港映画である、ヤクザ映画やアクションも)を作り続けてきて昨年の香港を描くオムニバス『七人樂隊』にも参加して . . . 本文を読む
これは台湾のドキュメンタリー映画。というより、これはまず父と息子の物語。原題は『紅盒子 Father』。そちらが今の僕には確実に興味深い。明日、ジェーン・バーキンとシャルロット・ゲンズブール母娘を描くドキュメンタリー映画を見るからその前哨戦としてこの作品を見ることにした。
2019年公開の映画で、ホゥ・シャオシェン監督の最高傑作である『恋恋風塵』の祖父役で異彩を放ち『戯夢人生』で . . . 本文を読む
「オリンピックに一緒に出ようね」と無邪気に言う幼馴染みの神崎未来。でも陣内茜は自分の実力に限界を感じ、しかも骨折してしばらくは泳げない。アーティスティック・スイミング(シンクロ)に青春を賭ける高校二年のふたりに無口な同級生西島由愛が絡んできて過ごす17歳の夏休み。今まで「頑張りすぎる生活しか送ったこなかった少女の悩みと決断を、三人の友情、確執、邂逅を巧みに絡めて瑞々しく描いた感動青春小説」と解説に . . . 本文を読む
久しぶりの吉本ばななの新作だ。デビュー作『キッチン』からほぼ欠かさず読んでいるけど、スカスカの文体が時には感動的で、時にはつまらなくて、子どもの作文レベルに映る時もある。かなり微妙で、まるで無邪気。だからいつもドキドキさせられる。今回も一見重い話。両親と共に宗教団体に入った(入れられた)少女が幼なじみの友人に助けられて脱会するまでの話だし。なのに軽い文体でサラサラ綴られていく。深く突っ込まない。し . . . 本文を読む
なんと不穏な薄さ。濃厚なストーリーではない。淡いような、でも決定的な断絶感を抱かせる仄暗い世界がそこには漂っている。冒頭の『叩く』はまるで芥川の『羅生門』ではないか。あの下人が現代に甦ってきたように、善と悪に引き裂かれる。もちろん彼は悪だ。生きるためなら仕方なくする。だが、まだ逡巡している。絶対的な悪にはなりきらない。彼には老婆を殺すことはできないだろう。
ふたつ目の『アジサイ』 . . . 本文を読む
「かみかい」と読むらしい。知らなかった。チケット買う時、「しんかい」と言うと理解してもらえなくて、「カミマワシ」と言っても無理で困った。監督・脚本はこれが長編初となる中村貴一朗。ほぼふたり芝居。しかも5分を永遠に繰り返す。一体何回繰り返すのか、最初数えていたが不可能。それくらいに5分が続く。単純に20回で100分。だけどこの映画は上映時間が88分と短い。だから、5分は途中から巻いて描かれる。それに . . . 本文を読む
映画館でジャッキー・チェンを見なくなった。引退したわけではない。興行的の成り立たなくなったから公開されなくなったのだろう。一時はアクションはもういい、と引退をほのめかしたけど、すぐに撤回して、復帰するが、さすがにもう以前のような無茶はできない。もうジャッキーの時代は終わったのだろう。体を張ったアクションは今の時代もう古い。CGでなんでもリアルにできる時代に、命がけのアクション映画はいらない、のだろ . . . 本文を読む
こんなお話が展開するなんて、まさか、である。ミステリだけど、ホラーじゃない。とてもリアルだ。昨日読んだ『踏切の幽霊』はもっとホラーにしてよ、と思ったし、まるで怖くなかったけど、こちらはホラーじゃないのに、ちゃんと怖い。中古のマンションを購入した独身40前の女性。先に住んでいた家族の子供たちが頻繁に訪れる。それを知った母親が子供たちを連れて帰るためにやってくる。タイトル通りに先の家族と今ここに住んで . . . 本文を読む