クアトロの自宅の玄関を入ると正面に「WINE ROOM」と札のかけられたドアがある。クアトロの父自慢のワインセラーだ。ならばワインセラーと書けば良かったのだが、切り文字を買うときにセラーの綴りが解らなかったのでルームになってしまった。それでも立派なワインセラーなのである。階段下の半地下のスペースを使っている。畳一枚ほどのスペースだ。防音防湿の扉に、倉庫用のエアコンを付け、床には砂利を敷いてある。ここに水を撒いておくと湿度を保てる。ワインには直接エアコンの風があたらないようにしたり、このセラーの設計にはクアトロの父のこだわりが多い。200本以上の収納が可能だ。しかし今大きな問題がある。それは収納してあるワインが少ないことだ。一時はかなり在庫していたのだが、今はかなり手放したり飲んでしまったりした。
クアトロの父が死んで、セラーを覗いた家族が、時を経て飲み頃になったワインを見つけた時、父を思い出してもらえるかもしれない。そんな男のロマンのワインセラーなのだ。しかし、息子(クアトロのシェフ)はこっそりとワインを抜き出して友達と飲んでいるらしい。男のロマンは危機を迎えている。
在庫の寂しいこのセラーは遂にカラスミの乾燥室となってしまった。男のロマンへの道のりはまだ遠い。