りきる徒然草。

のんびり。ゆっくり。
「なるようになるさ」で生きてる男の徒然日記。

観光ポスター。

2011-01-14 | Weblog
仕事の話。

毎年、この時期になると、とある自治体の観光ポスターをデザインしていた。
そのポスターは、数社によるコンペ形式で、見積書とデザインの双方を
先方に提出して、その中から採用されるという仕事だった。
つまり、相応の金額と秀でたデザインの作品が採用されるわけである。

僕がこの仕事を初めて担当にしたのは、今から13年前だった。
やる気満々で臨んだが、まだまだ力量不足だった僕は、見事に落選した。

その後も毎年チャレンジし、2001年、やっと初めて採用された。
その報告を担当の営業社員から受けた時、僕は飛び上がるほど歓喜した。
その自治体にとって、21世紀最初の観光ポスターが僕のデザインになったことが、
僕にとって、大きな誇りになったし、これからこの仕事を続けてゆく上での強い励みにあった。

手前みそながら、そこから僕の怒濤の快進撃がはじまった。

2001年の初採用以降、2000年代のその自治体の観光ポスターを延べ4回、勝ち獲った。
その中でも2003年にデザインしたポスターは、僕にとっても印象深く、今でも気に入っている一枚だ。
その自治体のシンボルである国蝶オオムラサキに人々が乗って、光の中へ突き進む様子を描いた。
発想、構図、カラーバランス、レイアウト・・・デザインが完成した時、まだ先方へ提出前
だったにも関わらず、直感的に「絶対に勝てる」と確信したことを今でもよく覚えている。
実際、僕の直感は的中した。
先方の選考会議で、満票一致で当社の作品が採用された。
後に伝え聞いた話では、各社から提出された見積書だけを見れば、当社が最も高額だったそうだ。
普通ならばこの段階で落選必至のところなのだが、あまりにもデザインが飛び抜けてよかったので、
有無もなく採用された・・・ということだった。

デザイナーとして、これほど名誉ある経験は、他にないだろう。

そして、昨日。
担当の営業社員から、今年も観光ポスターのコンペの知らせが届いた、との知らせを受けた。
しかし今年は、その内容が違っていた。
デザインは提出しなくてもよい、とのことだった。
見積書だけの提出で、それでどの会社に発注するか決めるという。

つまり、コンペではなく、入札になったのだ。

営業社員は、僕に相談してきた。
僕も悩んだ。
毎年この時期は、忙しい。
他にも、複雑で大きな仕事がひしめきあっている。
その中で、獲れるか獲れないか分からないコンペ形式のポスターのデザインを毎年制作するのは、
正直に言って、キツかった。
締め切りまでにアイデアを考え、コンセプトをまとめ、それをビジュアルとキャッチコピーに
創り上げてゆく。
それは、精神的に相当な労力を費やす仕事だった。
だからこの仕事が終わった後、僕はいつも半分抜け殻のような状態になっていた。

しかし、それでも僕がこの自治体の観光ポスターを毎年引き受けて来たのは、その労力に相当する
モノを得ることができたからに他ならない。
上述した2003年のポスターの一件は、その中でも最も象徴的な出来事だったが、それ以外にも、
この仕事を通じて様々なことを教えられたからだ。

この10年間、僕はこのポスターのデザインを通して成長させてもらった、と言っても過言ではない。

長い間、営業社員と話し合った結果、一応見積書を出すことにした。
獲れるかどうか分からないが、このご時世、少しでも仕事になりそうな“種”があるのなら、それを
指をくわえて見過ごすことはできない。金を稼がなければ、会社は維持できない。

それが、現実なのだ。

振り返って、先方の自治体のことを考えれば、今年から見積書のみの入札になったのも、立場は違えど、
きっと当社と同じような理由なのだろう。

時代は、変わる。
僕も、変わる。
どんなものも、変わり続ける。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする