誘惑
ミケランジェロは、彫刻家だ。
彼自身も、それを自負している。
なのに、人類の宝ともいえる壁画を残した。
システィーナ礼拝堂における創世記と最後の審判が、それだ。
彫刻家の目と三次元的空間構成能力が、力強く明快な画面を生んだ。
このシスティーナ礼拝堂には、そのほかにもラファエロやボッティッチェリも壁画を描いている。
どちらもイタリアルネサンスを代表する画家なのだが、華麗さでは勝っているそれらの絵も、ミケランジェロの前には、霞んで見えてしまう。
ミケランジェロは、神に愛されすぎているのだ。
彼の壁画は、圧倒的なオーラを放っている。
壁画を製作中、愚痴ばかりこぼしていたミケランジェロ。
体の痛み、鑿を取り上げられ絵筆を握らなければならない不満、実に文句たらたらなのだ。
持たざる者からしてみれば、なんと奢ったことだろうと思うが、彼にしてみれば、限りある人生を無駄にしていると焦っていたのかもしれない。
それでも、こうして後世の人へ、人類の存在意義を肯定できる素晴しい芸術を残してくれたのだ。
彫刻ばかりでない絵画における巨人ぶりを。
万が一にも、この壁画が失われることがないように、人類としての良識を持ち続けてもらいたい。
いままでにも、素晴しい芸術が焼かれ壊されてきた愚行を繰り返さないように。
美しいものを創り出せる、人間の素晴しい特性に祝福あれ!
ボッティッチェリ:モーゼと羊飼い
ラファエロ:アテネの学堂