陰謀 1890年
嘆きの人
この2点は、アンソール展で展示してあったもの。
一昨日、新宿の高層ビル、42階の展望スペースがあるところに、アンソールはいた。
初期のアカデミックな画風のものから、アンソール固有の明るく鮮やかな色彩で描かれた辛辣で不気味な絵、デッサンなども含めて、影響を受けた画家の作品に、同時代の画家の作品と、アンソールの画業を辿る構成だ。
”首吊り死体を奪い合う骸骨たち”のオリジナル作品をこの目でしっかりと観る。
油絵の具の特性を存分に引き出したマチエルが、明るく鮮やかな画面に重みを与える。
描かれた不気味なモチーフに与えられた命は、あっけらかんと残酷な本性を誇張して演じるのだ。
アンソールが好むモチーフは、髑髏と仮面。
どちらも空虚さを表している。
それを、鮮やかで明るい色彩がいっそう際立たせ、空っぽの時代を予見する。
工業化が進んで、細分化された分業制は、富と余暇をもたらした。
オステンドで土産物屋を営んでいた生家の家業を横目で見、屋根裏部屋の仕事場から街の様子を伺っていた彼の目に、虚栄と虚構、虚無のじわじわと押し寄せるさまが見てたのかもしれない。
”嘆きの人”は、目を見開いたままただ悲嘆に暮れ涙を流すのだ。
彼の最良の創作時期は、1890年前後の10年間に集中している。
ヨーロッパの情勢も、大きく民主化へと転換される時期。
時代の機運が、屋根裏の住人であろう彼に与えた影響は、やはり看過できるものではなかったのか。
毎日何枚の絵を手がけたのかと思うほどの、質量ともにそろった創作活動。
版画やドローイングでは、皮肉屋のいじけ虫なアンソールがさらに顕著なっている。
今回の展覧会では、あまりダークなアンソール作品はなかったが、機会があったならご覧になるとよろしい。
”奇妙な虫”は、アンソール自身のカリカチュア。
知れば知るほど、アンソールの世界にずぶずぶと嵌っていくことと思われる。
美しく昇華された、人の負の部分。
アンソールの正直な目。
燻製ニシンを奪い合う骸骨たち 1891年
キリストのブリュッセル入城 1888年
キリストのブリュッセル入城
奇妙な虫 1888年