初年兵哀歌 歩哨
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私にとっては幸いの、「トリコ」が特番でつぶれていた。
だから、滅多に見られない「日曜美術館」にチャンネルを合わせた。
そこでは、銅版画と彫刻の浜田知明を特集していた。
お粗末なことに、ここではじめて浜田知明を知る。
御年95歳になられ、地道な画業を積まれていつ方なのに、たいへん申し訳ないことだ。
人生において、もっとも苛烈な経験である戦争に従軍体験され、芸術の方向性を決定付けられたといっても過言ではない。
彼は、自分の中に蓄積された戦争の痛ましさと人間の正負を、直視しながら銅板に刻み込んだ。
誇張過ぎることもなく、さりとて上っ面の断罪をするでもなく、丁寧な仕事で表現する。
それは、人間のもろさもしぶとさもやさしさも全て包括しながらの絵作り。
だから、重いテーマを扱いつつもどこか突き抜けた感じがして、絵により深みを与えている。
なかなかこれと思う画像が見つからなかったから、彼の彫刻作品をここに載せることができなかったけれど、晩年に始めた彫刻作品は、飄々とした趣が強まってとてもいいものになっている。
この番組を一緒に見ていた小さい人も、彼の展覧会ならば行って見てみたいと言っていた。
そうだ、ユーモアなくしては、人生は厳しすぎる。
どんなことも笑いに変えてなどとはあまりにも高度であるが、おかしみをみいだせる能力は、人間に賜った宝物。
極限を生き抜いた浜田知明が到達した境地に、うそ偽りはなかろうと思う。
どうやら、私は浜田知明の作品を好きになったようだ。
アレレ
骨と猫
夜