大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

漆黒のブリュンヒルデQ・098『三千世界のカラスを殺して』

2022-12-04 17:17:24 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

098『三千世界のカラスを殺して』   

 

 

「……三千世界ちゅうたぁね、ありとあらゆっ世界全部ちゅう意味じゃ」

 

 お風呂を上がって部屋に上がると「電気はつけじ」と言って、ベッドに仰向けになりなったままの玉ちゃんが言う。

「というのは、世界中のカラスという意味ね? 三千世界のカラスを殺し……」

 カラスというのは北欧でも不吉の象徴だ。それを殺そうというんだから、なにか悪魔的なものをやっつけたいという、言ってみれば魔王退治を志して、フルコンプを目指す勇者のようなもの。晋作が言っていたのはそういうことか?

「神社ん神さぁやっちょっとね、大勢んしが祈願に来っ。中には、神社ん朱印押した誓紙を持って帰っせぇ、人と誓約をきびっときに使う者もおっ」

「きびっとき?」

「ああ、えと……誓約を結ぶときじゃな」

「ああ、神の御名に誓ってというような意味だな」

「色町んおなごは、よう誓約書を書いたもんじゃ」

「遊女がか?」

「ああ、客にな『ほんのこて愛しちょるんなあただけ』てか『年季が開けたや、きっとあたと結婚すっで』てか起請文を書っど」

「ほう、純情な遊女もいるもんなんだな」

「アハハハハハ(* ´艸`)」

「何がおかしい(`_´)?」

「噓に決まっちょっじゃろうが」

「嘘なのか!?」

「客へんサービスや。中には本気にして野暮な奴じゃと笑わるっ者もおっどんな」

「それが、どうしてカラスを殺すんだ?」

「色町んおなごは、たいてい熊野権現ん誓紙を使うたんじゃがな、熊野権現ん誓紙にはカラスがよかひこ刷り込んや。熊野権現で、カラスは神ん使いじゃっでな」

「そうか、カラスを殺すとは誓いを破るということなんだな!」

「そうさ、そして……ぬしと朝寝がしてみよごたっ……と続っど」

「朝寝?」

「にび姫騎士さぁだ、夜通しよかことをしっせぇ、そんまま朝寝をしよごたっちゅう意味や」

「よかこと……え、ええ! そういう意味なのか(゚ロ゚;)!?」

 さすがのわたしにも分かった!

「電気つけようか、姫騎士はどげん顔をしちょっか見もんやなあ(ω)」

「つ、点けんなあ!」

「あはは、ひっでは純情なんじゃなぁ( ´艸`)!」

「玉ちゃんこそ、ひっでえぞ!」

 

『もう、暴れてないで、早く寝なさいよぉ!』

 

 階下から声、お祖母ちゃんに怒られた(^_^;)。

 窓のカーテンを閉めようとしたら、向かいの窓から――何やってんの?――とねね子が覗いているが、こいつは無視。

 おやすみなさい。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・43『そのボール拾って!』

2022-12-04 07:11:03 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

43『そのボール拾って!』  

 

 

 ここらへんまでが、竜頭蛇尾の竜の部分。

 考えてもみて、たった三人の演劇部(^_^;)。

 それもついこないだまでは、三十人に近い威容を誇っていた乃木坂学院高等学校演劇部だよ。

 発声練習やったって迫力が違う。グラウンドで声出してると、ついこないだまでの勢いがないもんだから、他のクラブが拍子抜けしたような目で見てる。最初はアカラサマに「あれー……」って感じだったけど、三日もたつと雀が鳴いているほどの関心も示さない。

 わたし達は、もとの倉庫が恋しくて、ついその更地で発声練習。ここって、野球部の練習場所の対角線方向、ネット越しの南側にはテニス部のコート。両方のこぼれ球が転がってくる。

「おーい、ボール投げてくれよ!」

 と、野球部。

「ねえ、ごめん、ボール投げて!」

 と、テニス部。

 最初のうちこそ「いくわよ!」って感じで投げ返していたけど、十日もしたころ……。

「ねえ、そのボール拾ってくれる!?」

 と、テニス部……投げ返そうとしたら、こないだまで演劇部にいたA子。黙ってボ-ルを投げ返してやったら、怒ったような顔して受け取って、回れ右。

「なに、あれ……」

「態度ワル~……」

「部室戻って、本読みしよう」

 フテった夏鈴と里沙を連れて部室に戻る。

 わたしたちは、とりあえず部室にある昔の本を読み返していた。

「ねえ、そのボール拾って!」

「またぁ……違うよ、それ夏鈴のルリの台詞」

 里沙の三度目のチェック。

「あ、ごめん。じゃ、夏鈴」

「……」

 夏鈴が、うつむいて沈黙してしまった。

「どうかした……ね、夏鈴?」

 夏鈴の顔をのぞき込む。

「……この台詞、やだ」

 夏鈴がポツリと言った。

「あ、そか。この台詞、さっきのA子の言葉のまんまだもんね」

「じゃ、ルリわたし演るから、夏鈴は……」

「もう、こんなのやだ(┯_┯)」

「夏鈴……」

 演劇部のロッカーにある本は、当然だけど昔の栄光の台本。つまり、先代の山阪先生とマリ先生の創作劇ばっかし。いま読み合わせてたのも『こぼれ球』って創作劇で、十年前、全国大会に進出した時の台本。
 どの本も登場人物は十人以上。三人でやると一人が最低三役はやらなければならない……どうしても混乱してしまう。

 じゃあ、登場人物三人の本を読めばいいんだけど、これがなかなか無い……。

 よその学校の本にそういうのが何本かあったけど、面白くないし……抵抗を感じる。

 竜頭蛇尾の尾になってきた……。

「ね、みんなで潤香先輩のお見舞いに行かない。明日で年内の部活もおしまいだしさ」

「そうね、あれ以来お見舞い行ってないもんね」

 里沙がのってきた。

「行く行く、わたしも行くわよ」

 夏鈴がくっついて話はできあがり。

 そしてささやかな作業に取りかかった……。

 三人のクラブって淋しいけど、ものを決めることや行動することは早い。数少ない利点。


 そして一ヶ月ぶりの病院……なんだか、ここだけ時間が止まったみたい。


 いや、逆なんだ。この一カ月、あまりにもいろんなことが有りすぎた。泣いたり笑ったり、死にかけたり……忙しい一カ月だった。

 病室の前に立つ。

 …………

 一瞬ノックするのがためらわれた。ドアを通して人の気配が感じられる。

 おそらく付き添いのお姉さん。そして静かに自分の病気と闘っている潤香先輩。その静かだけど重い気配がわたしをたじろがせる。

「どうした……まどか?」

 花束を抱えた里沙がささやく。その横で、夏鈴がキョトンとしている。

「ううん、なんでも……いくよ」

 トントン

 静かにノックした。

『はーい』

 ドアの向こうで声がした、やっぱりお姉さんのようだ。

 

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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