大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 98『馬車に乗って酉盃へ』

2022-12-17 11:02:07 | ノベル2

ら 信長転生記

98『馬車に乗って酉盃へ』織部 

 

 

 殺気は無いが怪しいやつだ。

 

 アーケードの屋根から下りてきた劉度(リュドミラ)の目はまだ三角だ。

「アハハ、カメラ構えると、つい夢中になってしまって。ぼく、コウちゃん……あ、大橋義姉さんの義弟の孫権です。さっきは、いい写真が撮れました、ありがとうございます(^▽^)」

「写真を見せろ」

「あ、いいですけど、消さないでくださいね」

 それには返事せずに、モニターの写真をスクロールさせる劉度ことリュドミラ。

「どの写真も虚を突かれている……カメラをアサルトライフルに持ち替えたらいいスナイパーになるぞ」

「ああ、ダメダメですよ。お祭りの射的でも満足に景品取れたことないのに(^_^;)」

「そうか、惜しいな」

 警戒してるのか親近感を持ったのか分からん奴だ。

「孫権、そろそろ目的を言いなさい。写真を撮りに来ただけじゃないでしょ。今日のイベントは予定していたのがキャンセルが入って臨時に入れたものよ。あらかじめ知ってるわけがない」

「面白い店員さんが入ったと聞いたのはほんとだよ。それで、いい被写体になりそうだったら写真撮らせてもらおうと思ってた」

「それで?」

「実は、酉盃(ゆうはい)に、いいロケーションを見つけたんです。そこで撮影とかできないかなって」

「撮影なら、自分で行けばいいでしょ、わたしにも付き合えってこと?」

「うん、このパサージュのコンセプトにも合ってるし、それに……魏の不動産屋が目を付けてるみたいで、放っておくと再開発されそうなんだ」

「孫権、いくらわたしが呉王の妃でも、そうおいそれと不動産は買えないわよ。皆虎に家を建てたし、このパサージュだって造ったところなんだから」

「まあ、騙されたと思って来てよ。ロケーションの一画を三月ほど借りてくれるだけでいいんだから」

「もう、言い出したら聞かない人なんだからあ」

 

 フフフフ

 つい微笑んでしまう。血の通わない義姉弟なんだろうが、呼吸の合い方が小気味いい。

「サザエさんとカツオくん……」

 リュドミラが方頬で笑った。

 

 酉盃は、豊盃や卯盃、皆虎と並んで扶桑(転生国)との国境線に並ぶ街だ。

 豊盃ほどの賑わいも規模も無いが、卯盃よりは大きい。信長と市の二人が最初に潜入した街でもある。

 豊盃羽沙壽のロゴの入った馬車は、わたしたち四人を乗せて酉盃(ゆうはい)の東門を潜った。

 

 街の勢いが違う……

 

 思わず呟いてしまう。

 我ながら古田織部という人間は、新しいもの、珍しいものには目が無い。取りあえずは見てしまう。

 見ることに臆したりはしない。遠慮なく正面から見る。

 見ること自身が喜びなので、ついつい笑顔になってしまう。

 この笑顔に、もう少し可愛さや美しさはあれば、世間の男は放っておかないだろう。

 扶桑の国に転生して、一応の美少女には生まれかわっている。女に生まれ変わっているのは、来世では再び男として生まれて、バージョンアップした古田織部として生きるためだ。

 そういう奴は、洩れなく学院(転生学院)に通っている。

 武田信玄、上杉謙信、織田信長……懇意にしている者はいずれも錚々たるメンツだ。

 こいつらは、ひとかどの審美眼を持っている(わたしほどではないけど)が、それ以上に天下をとりたい、作り変えたいという、次元の違う欲を持っている。

 どうも、天下に関わる欲を持っている奴は……まあいい、わたしは古田織部なんだからな。

「ふふ、越後屋さん、ちょっと興奮気味かしら?」

 う……大橋に見られてしまっていた。

 三国志を動かしているベクトルは、よく分からないが、大橋の美しさは学院の猛者たちの上を行くかもしれない。

「酉盃は、豊盃と卯盃の間くらいの規模ですが、元来の街として持っている力は卯盃や皆虎の方に勢いが感じられます」

「さすがは越後屋さん。わたしも酉盃にパサージュを作ろうとは思いませんね」

「写真に撮るには良い街ですよ。街としての年輪は、豊盃よりも厚みがあります。それに、ここに置くと、いっそう引き立つ被写体もあるんです」

「フフ、孫権は、すっかり芸術家ね。あ、後光がさしているようで眩しいわ」

「もう、からかわないでよ、コウちゃん。本命は、ここからなんだから」

「そう言えば、街の中心を通り過ぎてしまいましたね」

 馬車は、とっくに酉盃の大路を過ぎて、西の外れに向かっているようだ。

 

 やがて、くたびれた築地に囲まれたブロックにさしかかった。

 

 屋根の傾いた門には『指南街』の額が掛かっていた。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・56『……忠クンがいた』

2022-12-17 06:50:54 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

56『……忠クンがいた』 

 

 

「いつまで、つっ立ってんだ」

 先生にそう言われて、わたしは座卓の長い方の端っこに座った。つまり、床の間を背にした先生からは右、三時の方向。
 で、先生の正面、十二時の方向に座卓を挟んで……忠クンがいる。

「……うっす」

「ども……」

 たがいにぎこちない挨拶をする。

「ハハ……青春とは照れくさいもんだな」

 そう言いながら、先生は右のお尻を上げた。カマされてはたまらないので、思わずのけ反った。

「あのなあ、まどか。人を、屁こき大王みたいに見るんじゃねえよ。俺はリモコン取ろうと思っただけなんだから」

 忠クンが笑いをこらえている。

「あのなあ、忠友。こういう状況で笑いをこらえるのは、かえって失礼だぞ」

 で、忠クンが笑い出し、先生もわたしもいっしょになって爆笑になった。

「あ、これ、父から預かってきました。どうぞお納めください、本年もいろいろお世話になりました、来年もどうぞ宜しく。とのことでした。また、今日は兄が伺うことになっていましたが、折悪しく……」

「いいって、いいって、そんな裃(かみしも)着たみたいな挨拶。それより、せっかくの剣菱の角樽なんだ、三人でぐっと。おい、婆さん……!」

「あの……わたしたち未成年ですから」

「あ……そうだっけ。惜しいなあ……剣菱って、赤穂浪士が討ち入りの前にも飲んだって縁起のいい……」

「あと五年待っていただければ。ね、忠クン」

「オレは、あと四年だよ」

「あ、ごめん。今年の誕生日忘れてた……」

「いいよ、こないだのコンクールまでは疎遠だったし、まどかも、そのころ忙しかっただろうし」

「ハハ、そうやって、誕生日の祝いっこしてるうちが華なんだぜ。この歳になっちまうと、カミサンの歳も怪しくなっちまう」

「女の歳なんて、六十超えたら怪しいままでいいんですよ。いらっしゃい、お二人さん」

 奥さんが、お茶とヨウカンを持ってきてくださった。

「なんだい、羊羹かい。この子たち若いんだからさ、ポテチにコーラとかさ」

「忠君もまどかちゃんも甘い物好きなんですよ。まどかちゃんは炭酸だめだし。ね」

「よく覚えてますね」

「二人とも赤ちゃんのころから、うちがかかりつけだから……あなた、なにしようってんですか?」

「いや、この二人に昨日録画したの見せてやろうと思ってさ……」

「もう、昨日あんなに教えたじゃありませんか……」

「ひとの体ってのは変わらないけど、こういうのは、どうしてこうも買い換えのたんびに……」

 医者らしく愚痴りながら、先生はリモコンをいじるが、ラチがあかない。

「もう……こうやるんですよ」

 奥さんは、リモコンをひったくり、チョイチョイと操作した。

「……なんだ、なんにも映らないじゃないか」

「レコーダーは立ち上がるのに時間がかかるんですよ」

 先生はつまらなさそうに、ヨウカンを口に運んだ。

 それが合図だったかのように、大画面テレビに……はるかちゃんが映った!


 スタジオの中を物珍しげに歩くはるかちゃん。

 急にライトが点いて驚く。その一瞬の姿がアップになる。画面の端にレフ板、上の方には大きな毛虫みたいなマイクがチラリと映った。

 その度に、はるかちゃんは小さな歓声をあげる。わたしが知っているはるかちゃんなんだけど、そうじゃなかった……って、分かんないよね。

 はるかちゃんは、どちらかというと大人しい感じの子だったのよね。

 それが、控えめではあるけども、こんな表情で驚くはるかちゃんを見るのは初めてだ。

――はるかちゃん、ちょっとその本抱えてくれる?

――はい……これでいいですか?

――はるかちゃん、カメラの方向いてくれる?

――はい……やだ、ほんとに撮ってるんですか!?

 はるかちゃんが驚いて、持っていた本で顔を隠す。すぐにカメラがロングになり、はるかちゃんの全身像。そして、別のカメラの横からバストアップに切り替わる。

 カワユイ……だけじゃない。なんての……せいそ(清楚……こんな字だっけ?)。


 こんなはるかちゃんを見るのは初めてだ。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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