大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・31『潜入・3・爆ぜる』

2022-12-18 15:26:54 | 小説3

くノ一その一今のうち

31『潜入・3・爆ぜる』 

 

 

『申し訳ございません、竈(かまど)に松ぼっくりが入ってしまいました』『人騒がせな!』『気をつけよ!』

 

 食堂(じきどう)の役僧と警備の僧のやり取りが聞こえたのは、嫁持ちさんに続いて経堂の破風から忍び込もうとしている時だ。

―― 社長も古い手を使う ――

 たしかに、松ぼっくりを爆ぜさせて人の注意を引くのは超古い。お祖母ちゃんも「役小角(えんのおづね)の前からあった」と言っていた。しかし、爆ぜるタイミングを操るのが難しく、ご先祖の風魔小太郎も、めったにやらなかったという。凄い、さすがは百地流総帥。

 ムギュ

―― わたしに化けるのはいいですけど、そんなにお尻大きくないです ――

 破風から潜り込む、一瞬、わたしに化けた嫁持ちさんのお尻がつかえた。

 それには応えずに、先を進む嫁持ちさん。

 ウ(⊙ꇴ⊙)?

 自分のお尻もつかえたが、黙って嫁持ちさんの後に続く。

 

 梁から下を覗くと、王子の前には……まずい、警備の僧が蹲踞している。

―― あれは社長だよ ――

―― え、いつの間に? ――

―― 早い うまい 安くない……社長のモットーだよ ――

 なんだか、某牛丼屋のようなことを言う。

―― まだ行かないんですか? ――

―― 王子が怪しんでいる ――

「……待ってくれよ、今の今まで怖い顔をして僕を閉じ込めておいて、松ぼっくりがパンパン鳴ったと思ったら『お助けします』って。外に出たとたんに脱走を図ったとかで殺されたんじゃたまらない」

「いえ、けして怪しいものでは……」

「怪しいよ、しっかり怪しいよ! この国は、昔から権謀術数が絶えない。うちのご初代様も、前王朝を『お助けします』って言って城門を開かせて皆殺しにして滅ぼしたんだからね!」

「それは、前の王朝が悪逆非道であったので、ご初代様が謀をめぐらされたのでございます」

「黙れ、もともと城から誘拐したのは、お前たちの親分の大僧正じゃないか。その手下の坊主が、今の今まで経蔵の前で見張っていた人相の悪い坊主が『助けてやる』と言って、誰が信じる!」

「これはしたり、変装を解くのを忘れておりました(;'∀')」

 

 クルリ

 

 エフェクトを付けたら、まさにクルリという感じで、社長は僧の変装を解いた。

 ウ……(*゚O゚*)

 変装を解いて一つ前のわたしの姿。それはいいんだけど、どうして三秒間の素っ裸!?

―― 社長ズボラだから、変態術の更新が遅れてるんだ ――

「我らは日本の忍者です、さる筋のお方から殿下を救出するように仰せつかってまいりました」

「日本の忍者!?」

 王子の声が弾んだ。

―― 日本製は信用が高い ――

「身に寸鉄も帯びておらぬことは、たった今、お見せした通りでございます」

―― よく言うよ、更新してないからフリーズしただけじゃん! ――

「あ、ああ。確かに、若い女子が全裸になってまでの身の証、感動したぞ……待て、いま『我ら』と申したな? 他にも仲間が居るのか?」

「いかにも」

 

 スタン

 

「わ!?」

 嫁持ちさんと揃って梁から飛び降りる。無音でも下りられるんだけど、これ以上王子さまを驚かせてはいけないので、子ネコが下りてきたほどの音を、わざとたてる。

 パン パパパパーン

―― え、なに!? ――

「また松ぼっくりか?」

「いえ、あれは門の蝶番に仕掛けておいた爆薬が爆ぜたのでございます。いくぞ!」

「「おお!」」

 嫁持ちさんが王子の手を引き、その前と後ろを社長とわたしで固めて走る。

 ドン

 門は、一見なんともないんだけど、社長が体当たりをかけると、あっさり外側に倒れた。

 また松ぼっくりかと思ったのはわたしと王子様だけではなく、警備の者たちも出足が遅れている。

 でも、街を出るには、もうちょっと時間を稼がなくっちゃ。

 

 ドドオオオオン!

 

 お寺を挟んだ反対側で大きな爆発音。

 街中の関心がそこに集まる。

 数秒間だけ路地裏に隠れ、警備兵たちが爆発地点に走るのをやり過ごして、易々と街を抜けだした。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・57『今朝のNOZOMIスタジオでした』

2022-12-18 06:50:06 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

57『今朝のNOZOMIスタジオでした』 

 

 


「はるか先輩、テレビに出てたんですか……!」

 忠クンが、やっと声をあげた。

「ハーーもともと綺麗な子だったけど、こんなになっちゃったのね……」

 奥さんが、ため息ついた。

「ほんとにキレイだ……」

 忠クンも正直にため息。チラっと顔を見てやる。

「で、でも、スタジオで撮るとこんな感じになっちゃうんですよね」

 と、自分で自分をフォロー。いいのよ気をつかわなくっても。だれが見ても、このはるかちゃんはイケテルもん。

「はるかのやつ、大阪に行っていろいろあったんだろうなあ……これは、スタジオの小細工なんかで出るもんじゃないよ」

 そこでサプライズ。スタジオにスモップのメンバーが現れた。

―― うそ…… ――

 はるかちゃんは口を押さえて、立ちすくんでいる。

 それから、二三分スモップに取り囲まれて会話。

―― 今日のNOZOMIスタジオでした ――

 ナレーションが入り、熟女のアイドルと言われる司会のオジサンの顔になって録画が切れた。

「二人とも、冬休みになって朝寝坊だろうから見てないだろう」

「うちは、朝はラジオだから……」

 と、我が家の習慣を持ちだして生返事。

「うちは婆さんが、毎朝観てるもんでなあ」

「いつもは、ノゾミプロの役者の出てる映画とかドラマ紹介のコーナーなんだけどね、昨日は『ノゾミのお客さん』て、タイトルで、特別だったの。最初は、どこかで見た子だなあって思ってたんだけど、『坂東はるかさん』て、テロップが出て、わたし魂げて録画したの。ね、あなたも歯ブラシくわえて見てたもんね」

「ああ、最初プロデュサーのおっさんと二人だけの対談だったんだけどな。頬笑み絶やさずホンワカと包み込むような受け答え。それで目の底には、しっかりした自我が感じられた。あれはいい女優になるよ」

―― 本人にその気があればね ――

 わたしは、クリスマスイブのはるかちゃんとの会話を思い出した。

 はるかちゃんは高校演劇が楽しくなってきたところ。プロの道へ行くことにはためらいがあった。

 ただ、白羽さんてプロデュ-サーが、とてもいい人で。この人の期待をありがたく感じながらも持て余している。

 で、一度里帰りを兼ねてプロダクションを訪れたら、いきなりスタジオ見学……かと思ったら、しっかりカメラに撮られている。

 そして、クリスマスの夜、工場でみかん剥きながらの女子会。

 あの時のスマホの電話。

 きっとこの収録をオンエアーするための確認だったに違いない。

 どうしようかなあ……というのが、はるかちゃんの話しのテーマだった。

 でも、オンエアーのことも、スモップに会ったことも、はるかちゃんは言わなかった。そこが、はるかちゃんのオクユカシイとこでもあるんだけど、幼なじみのまどかとしては、チョッチ寂しい……それにスモップに会うんだったら、サインとかも欲しかったしね(^_^;)。

 ヨウカンを一ついただいて、お茶を一口飲んだところで思い出した。

「なんで、忠クンここに居るのよ!?」

「それは、こっちが聞きたいよ。まどかのお兄さんから電話があって、ここに来てくれって」

「二人でいるの嫌か?」

 先生が、右のお尻を上げながら言った。で、一発カマされました。

「そう言うわけじゃ……」

 言いよどんで、お茶に手を伸ばす。

 アチ

 いつの間にか奥さんが淹れ替えてくれている。

「ほんとは、まどかの兄貴を彼女ごと呼ぶつもりだったんだけどな、なんかこじれとるのか、鬱陶しいのか、二人を代理に指名してきよった」

 なるほどねぇ……分かった(^_^;)

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする