大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・367『真鈴の誘いを断る』

2022-12-08 16:53:08 | ノベル

・367

『真鈴の誘いを断る』さくら    

 

 

 十二月の頭という時期に「ごめん、試験が近いから(^_^;)」と断られたら、たいていの場合ウソ。

 

 泊りがけの旅行とかだったら、さすがにNGだろうけど、気の置けない仲間が集まって二三時間、長くても四五時間のパーティー。ノープロブレム、問題なし。

 だのに、その言い訳を、わたしはしてしまった。

『そっか、来春は正式に王女就任だもんね……うん、じゃ、また今度ね(^▽^)』

 百武真鈴は、好意的な深読みをして察してくれた。

 

 日本がドイツのみならず、スペインまで破ったことを日本人の90%くらいは喜んでいると思う。

 残りの10%は――ロッカールームや観客席の掃除をやっていい気になって、ほんとは呆れられてる――掃除を職業にしている人たちの仕事を奪ってる――なんて、根性の曲がってる人。あるいは、凡人には想いも付かない理由で、サッカーを嫌いな人。

 

「殿下、これを見てください」

 そう言ってスマホを見せたのは、ほんの三十秒前「リッチ、遅いぞ!」と眉間にしわを寄せていたソフィー。

 彼女は、学校の中ではご学友モードだから、平気でタメ口をきく。校門を出たら本来のガードにスイッチが切り替わるから、扱いが180度変わって、呼び方も「殿下」ですよ。

 校門を出ると、いつも筋向いに停まっている青色ナンバーの車が見えない。

 ガードモードに切り替わったソフィーは、ただちに運転手のジョン・スミスに連絡をとる。

 すると――渋滞に巻き込まれた、5分程度遅れる模様――と連絡が入ったところ。

 ガードモードのソフィーは無駄口をきかない。

 かと言って、サングラスかけて、あちこちガンをとばすような無粋な真似もしない。こういうエマージェンシ―とも言えないイレギュラーな時は、妹のソニーがカバーに入る…………居た。いつの間にか電柱の向こう、自販機の陰で待機してる。

 で、ソフィーはスマホを見続けている。寸暇を惜しんで情報をとっているんだ。

 学食のメニュー改定の噂から天気予報や国際情勢まで。将来、ヤマセンブルグ情報局を背負って立つソフィーの関心の幅は広い。

 そのソフィーが「殿下、これを見てください」と差し出したスマホには、この二月から世界中が心配しまくっているウクライナの戦場写真が映っている。

「この女性です」

 ウクライナの兵士がなにやら相談をぶっている静止画。

 兵士たちの後ろに外国人と思われる四五人の戦闘服が居て、ズームされた女性はキャップを被っているけど、どうやらアジア人。

「この人が、なにか?」

「さくらのお母さんです」

「え…………」

「警備の必要から、殿下と付き合いの深い人たちは、全員調査してあります。さくらは、お父さんに続いて、お母さんも失踪。ちょっと力を入れてフォローしていました」

「これって……」

「あとは、車の中で」

 ソフィーの目の焦点が変わったと思ったら、通りの向こうから車が来るところだ。

 

「さくらのご両親は、日本の特務機関員です」

「え、日本に、そんなものがあるの?」

「レベル1からレベル5の特務機関員が居て、さくらの父はレベル4、母はレベル3の指導特務員です。3以上は戸籍を捨て、4以上は死亡の扱いになります」

「じゃ、お父さんの失踪宣告って……」

「レベル4になった時です」

「でも、特務機関員が、こんな易々と動画に撮られる?」

「これは、遠まわしのメッセージです」

「メッセージ?」

「はい――さくらのことをよろしく――というメッセージです。この写真はユーチューブでもインスタグラムでもありません。イギリスの情報部がヤマセンブルグの情報部に送ってきたものです」

「そうなんだ……」

「さくらは、素質的には両親の血を引いています」

「……なにが言いたいの?」

「ご両親は、さくらが小さいころから野球やサッカーなどの競技に関心を示さないように気を付けていました」

「それって?」

「はい、ご両親以上に向いているんです、諜報部員に」

「ああ…………でも、さくらって、おっちょこちょいで、お調子者で、世話好きで、涙もろくて……そういうのに向いてないと思うよ」

「日本の特務は、そういった者をリクルートするんです。むろん、任務に就くようになると、そういう心は殺します。だから、常日頃は、他国の諜報部員と変わりがありません」 

 すると、ハンドルを握ったまま、ジョン・スミスが口を挟んできた。

「しかし、最後の最後は、そういう心がモノを言うんです。日本の指導者は三流ですが、特務は超一流です」

「そうなの……」

 それ以上は、ソフィーもジョン・スミスも言わなかった。

 

 そして、百武真鈴に電話した。

 

 ワールドカップ祝勝パーティー開いたら、さくらを呼ばないわけにはいかないからね。

 今日、日本チームが成田空港に帰ってきた。

 動画を見たら、真鈴たちがキャーキャー言いながらお出迎えに参加していた。

 きっと、パーティーやってるうちに「出迎えに行こう!」と話しが大きくなったんだ。

 こういうノリは好きなんだけどね(^_^;)

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・47『匂いの正体』

2022-12-08 07:48:18 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

47『匂いの正体』  

 

 

 茶の間に入って、匂いの正体が分かった。

 真ん中の座卓の上で二鍋のすき焼きが頃合いに煮たっている。

 その横の小さいお膳の上でタコ焼きが焼かれている……そして、かいがいしくタコ焼きを焼いているその人は……。

「はるかちゃん……!」

「……まどかちゃん!」

 ハッシと抱き合う幼なじみ。わたしは危うくタコ焼きをデングリガエシする千枚通しみたいなので刺されるとこだった……これは、感激の瞬間を撮っていたお父さんのデジカメを再生して分かったこと。

 みんなの笑顔、拍手……千枚通しみたいなのが、わたしが半身になって寄っていく胸のとこをスレスレで通っていく。お父さんたら、そこをアップにしてスローで三回も再生した!

 半身になったのは、いっぱい人が集まって茶の間が狭いから。思わず我を忘れて抱き合ったのは、お父さんがわたしにも、はるかちゃんにもナイショにして劇的な再会にしたから。

 これ見て喜んでるオヤジもオヤジ。

「まどかの胸が、潤香先輩ほどあったら刺さってた」

 しつこいんだよ夏鈴!

 もし刺さっていたら、この物語は、ここでジ・エンドだわよ!

 すき焼きの本体は一時間もしないうちに無くなちゃった。鍋一つは、わたし達食べ盛り四人組でいただきました。

「さて、シメにうどん入れてくれろや」

 おじいちゃんが呟く。

「おまいさんは、日頃は『うどんなんて、ナマッチロイものが食えるか』って言うのに、すき焼きだけはべつなんだよね」

 おばあちゃんが、うどんを入れながら冷やかす。

「バーロー、すき焼きは横浜で御維新のころに発明されてから、シメはうどんと決まったもんなんだい。何年オイラの女房やってんだ。なあ、恭子さん」

 振られたお母さんは、にこやかに笑っているだけ。

「お袋は、そうやってオヤジがボケてないか確かめてんだよ」

「てやんでい、やっと八十路の坂にさしかかったとこだい。ボケてたまるかい。だいたい甚一、おめえが還暦も近いってのに、ボンヤリしてっから、オイラいつまでも気が抜けねえのよ」

「おお、やぶへび、やぶへび……」

「なあ、サブ……あ、もう成仏してやがる」

 サブっていうのは従業員の柳井のおいちゃん。ずっとうちにいてくれている最後の集団就職組。

「はい、焼けました」

 ドン

 はるかちゃんが八皿目のタコ焼きを置いた。

「はるかちゃんのタコ焼きおいしいね」

 お母さんが真っ先に手を出す。

「ハハ、芋、蛸、南京だ」

 おじいちゃんの合いの手。

「なんですか、それ?」

 夏鈴が聞く。

「昔から、女の好物ってことになってんの。でも、あたしは芋と南京はどうもね……」

 おばあちゃんの解説。里沙が口まで持ってきたタコ焼きを止めて聞く。

「どうしてですか。わたし達、お芋は好きですよ」

「そりゃ、あんた、戦時中は芋と南京ばっかだったもの」

「ポテトとピーナツですか?」

 ワハハハハ(^O^)(^Д^)(≧▽≦)

「え? え?」

 ひとしきり賑やかにタコ焼きを頂きました。

 はるかちゃんが一番食べるのが早い。さすがに、タコ焼きの本場大阪で鍛えただけのことはある。

 そうこうしてるうちに、おうどんが煮上がって最後のシメとなりました。

「じゃ、ひとっ風呂入ってくるわ。若え女が三人も入ったあとの二番風呂。お肌もツヤツヤってなもんだい。どうだいバアサン、何十年かぶりで一緒に入んねえか?」

「よしとくれよ。あたしゃこれからこの子たちと一緒に健さん観るんだよ」

 おばあちゃんが水を向けてくれた。

「え、茶の間のテレビで観てもいいの?」

 それまで、食後は、わたしの部屋の22型のちっこいので観ようと思っていた。それが茶の間の52型5・1チャンネルサラウンド……だったと思う。ちょっとした映画館の雰囲気で観られるのだ!

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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