大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・299『テディ―が飛行石を持ってきてくれる』

2022-12-07 10:17:54 | 小説

魔法少女マヂカ・299

『テディ―が飛行石を持ってきてくれる語り手:マヂカ 

 

 

 さて、関東大震災からの百年余りをどう説明したものか……腕組みして空を仰ぐ。

 

 ん?

 

 クマさんの頭の上、舞鶴の空に小さなクマが探し物をするようにクルクル回っているのに気が付いた。

「まあ、クマのぬいぐるみが空を飛んでる!」

「あ、テディ―!?」

 

 あ、マジカさーーーん!

 

 テディ―の方でも気が付いて、不細工な弧を描きながら桟橋に下りてくる。

「慣れないもんで、ちょっと迷いました(^_^;)」

「オートマルタが無くても空を飛べるのか?」

「バージョンアップしたんで、短距離なら。オートマルタはまだ山の向こうです」

「クマのぬいぐるみが喋るんですか!?」

「こいつは特別でね、運転手の松本さんのようなものなんだ」

「まあ、クマのお抱え運転手!」

 お屋敷の使用人に例えると分かりやすいようだ。

「で、急な連絡なのか?」

「はい、新しい飛行石を司令から預かってきました」

 背中に背負っているのは、いざという時のパラシュートかと思ったらリュックで、そこから待ち望んだ飛行石を取り出した。

「おお、待っていたぞ! これで電車を使わずに東京に戻れる!」

「はい、マジカさんがこれを持ってオートマルタに乗れば、そのメイドさんも乗せて空を飛べます」

 そうなのだ、オートマルタは空飛ぶ電動自転車のようなもので、定員は運転のテディ―を除けば一人しか乗れない。

 

 さあ、出発しましょう!

 

 オートマルタが到着すると、テディ―は自分の体を平たく伸ばしてクッションと言おうか、二人分のシートになってわたしとクマさんを乗せてくれた。頭だけはクッションにならずにマルタの先にあるので、大人二人が遊園地の遊具に乗っているようだ。

「ニ十一世紀では、こんな便利なことができるようになっているんですね!」

「いや、これは魔法少女をこき使う陸軍の特務師団というのがあって……」

 クマさんに事情を説明し、魔法少女やタイムリープ、ファントムたち悪党の事を説明し終わったころには琵琶湖の上空に達していた。

「そうか……そうだったんですね」

 クマさんは、もともと聡明なメイドさんで、わたしの説明よりも眼下に見えるニ十一世紀の日本の姿を眺めて、事情が理解できたようだ。

「それで、わたしは、元の大正十二年に戻れるんでしょうか?」

「そうだな、大正十二年の原宿で箕作巡査が待っているんだものな」

 大正時代に戻ると、18年後には大東亜戦争が始まり、その四年後には関東大震災が可愛く見えてしまうような東京大空襲がある。もし、箕作巡査との間に男の子が生まれれば……いや、遠まわしにではあるが、戦争の事は話した。

 その上での「戻れるんでしょうか?」なのだ、正直に答えよう。

 息を呑んで答えようとすると、テディ―に先を越される。

「あのう……その件につきましては、来栖司令が位相変換と時空変換を調整しておられます、このまま原宿に飛べば行けると思います……というか、位相と時空の針を同期させておくのは、この半日ぐらいが限度ですので、それしかないと思います(^_^;)」

「……そうか、段取りは組まれているんだな」

 日ごろ迫力の無い司令だが、ここ一番だと奮励努力の真っ最中なのか。

「よかった……」

 静かに、でも、しっかりとクマさんは答えた。

 この令和の日本に戻って、久々に肩の荷が下りる。久々の飛行石の自由飛行と相まって、ゆるゆると体中のこわばりが解れていくのを感じた。

 

「でも……」

「ん?」

 

 関が原を過ぎ、眼下に濃尾平野が広がると、一安心したわたしに、クマさんは凄いことを言い出した……。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・46『雪の三丁目』

2022-12-07 06:28:43 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

46『雪の三丁目』  

 

 

 家についたらまた雪だるま。

 

 駅でビニール傘を買おうかと思ったんだけど、里沙も夏鈴も両手に荷物。女の子のお泊まりって大変なんだ。

 で、わたし一人傘ってのも気が引けるので、三人そろって「エイヤ!」ってノリで駅から駆け出した。

 大ざっぱに言って、駅から四つ角を曲がると我が家。再開発の進んだ南千住の中でこの一角だけが、昭和の下町の匂いを残している。

 キャーキャー言いながら四つ目の角を曲がった。

 すぐそこが家なんだけど、立ち止まってしまう。

「わあ、三丁目の夕日だ!」

 里沙と夏鈴が感動して立ち止まる。

 で、わたしも二人の感動がむず痒くって立ち止まる。

 ちなみに、ここも三丁目なんだよ~。フンイキ~!

「何やってんだ、そこの雪だるま。さっさと入れよ」

 兄貴が顔を出した。

「はーい!」

 小学生みたく返事して、三人揃って工場の入り口兼玄関前の庇の下に。

「あれ、兄ちゃんお出かけ……あ、クリスマスイブだもんね。香里さんとデート!」

「わあ、クリスマスデート!?」

 夏鈴が正直に驚く。

「雪はらってから入ってね。うち工場だから湿気嫌うの。機械多いから」

「そっちは年に一度の機会だから。がんばれ、兄ちゃん!」

「ばか」

 と、一言残し、ダッフルコートの肩を揺すっていく兄貴。

 ドサドサっと、玄関前で雪を落として家の中に入った。

「ただいま~」

「「おじゃましま~す」」

 トリオで挨拶すると――ハハハハと、みんなに笑われた。

 カシャッ……とデジカメの音。あとでその写真を五十二型のテレビで映してみた。

 ホッペと鼻の頭を赤くして、体中から湯気をたてているタヨリナ三人組が真抜けた顔で突っ立ている。

「そのまんまじゃ風邪ひいちゃうぞ、早く風呂入っちまいな」

 お父さんがデジカメを構えながら言った。

「もうー」

 と、わたしは牛のような返事をした。

 

「フー、ゴクラク、ゴクラク……」

 夏鈴が幸せそうに、お湯につかっている。

「こんな~に、キミを好きでいるのに……♪」

 その横で、里沙が、やっと覚えた曲を口ずさんでいる。

 里沙は、たいていのことは一度で覚えてしまうのに、こと音楽に関しては例外。

 そんな二人がおかしくて、つい含み笑いしながら、わたしは体を洗っている。

「なにがおかしいのよ?」

 里沙が、あやしくなった歌詞の途中で振り返る。

「ううん、なんでも……」

 シャワーでボディーソープを流してごまかす。

「でも、まどかんちのお風呂すごいね……」

「うん。昔は従業員の人とか多かったからね」

「それに……この湯船、ヒノキじゃないの……いい香り」

「うん、家ボロだけど、お風呂だけはね。おじいちゃんのこだわり……ごめん、詰めて」

 タオルを絞って、湯船に漬かろうとした……視線を感じる。

「やっぱ……」

「寄せて、上げたのかなあ……」

「こらあ、どこ見てんのよ!」

 楽しく、賑やかで、少し……ハラダタシイ三人のお風呂でした。


 脱衣所で服を着ていると、いい匂いがしてきた。


「すき焼き……だね」

「ん……なんだか、もう一つ別の匂いが……」

 ん、これは……?

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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