大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・137『氷室神社賑わいて四海波静か』

2022-12-22 09:53:17 | 小説4

・137

『氷室神社賑わいて四海波静か』お岩  

 

 

 シゲ爺の狙いは当たった。

 

 岬から戻ってきた者たちは、沖の漢明艦が居なくなったことに人智を超えた力を感じた。

 冷静に考えれば、何者かの国際政治学的な力が働き、その働きによって漢明政府が艦隊に退去を命じた。その命令によって、漢明艦隊各艦の艦長は機関を始動させ、航海長が舵輪を握って、物理的に粛々と退去しただけのこと。

 しかし、折よく太陽は南中して南の空に輝いて日輪という呼称が相応しく。あたかも、神の意思が働いて邪悪な漢明艦隊を蒸発させたように見える。

 ほら、大雨の後に虹が出たりすると『虹の彼方に』とかを口ずさんで、生きててよかったとか思うあれだよ。

 二百年前、令和天皇が御即位された時、前夜からの雨は止む気配もなく、御即位には欠かせない舞楽が中止になったが、その直後、御即位の儀に移ったとたん。俄かに雨が上がり、皇居の上に盛大な虹がかかった。

 あの故事を思い出させるように、日輪は西之島の未来を寿いだ!

 

 その喜びを噛み締めて、一杯やろうかと道を戻ると、氷室神社の大鳥居の下に、白木の香りも清々しく大振りの賽銭箱。

 冷静に考えれば、漢明艦隊退散に当て込んだシゲ爺の企みと知れるのだが。そのシゲ爺も神主服に身を固め、幣などを捧げ持って拝殿の前に畏まり、「銀行も出張してこい!」の電話を受けてやってきたイッパチ、ニッパチに巫女服を着せて侍らせる。

 チャリン チャリン チャリチャリン チャチャチャチャチャチャチャ ヂャヂャヂャチャヂャヂャヂャチャ!

 賽銭を投げ込む音は、二世紀前のパチンコ屋のようだ。

「福をお授けしまーーす!」

 社務所とも言えないシゲ爺の掘っ立て小屋で聞き知った声があがる。

「ハナ、お前もか!?」

「ニシシ(*^^)v」

 ハナもにわか巫女になって福笹を売り出している。

 

「大した賑わいだ」

「あら、市長!」

「定点観測の画像を見ていたら、大変な賑わいになっているので見に来たんです」

 及川市長の後ろには、ナバホ村のマヌエリト村長、フートン主席の周温雷がニヤニヤして立っている。

 岩陰に隠れて、顔を赤くしているのは、うちの社長。

「グッズを作れば当たりますねえ……」

 シマイルカンパニーの越萌メイもやってきている。

「メディアミックスだね」

 水を向けてやると、目をキラキラさせて即答。

「ええ、まずはアニメとフィギュアですね!」

「さっそく、氷室神社物語(仮称)製作委員会を立ち上げよう!」

「そうだ、お岩さんもキャラにしましょう!」

「え、あたし!?」

「シゲ爺を裏から支える世話女房!」

「ちょ、その設定はないよ!」

「じゃ、陰の女フィクサー!」

「それならいいかも」

「うん、カウンターキャラも……そうだ、ラボのメグミさんがいいですね! ああ、そうなればココちゃんも……」

 シゲ爺の神さまは、様々に島の人間の電圧を上げていく。

 

 なにごとのおはしますか知らねども かたじけなさに涙こぼるる

 

 西行法師の歌が思い出される。

 

 融通無碍な神道は西之島に似つかわしい。

 しかし、この賑わいは、西之島のみんなが、漢明の出現に恐怖していたことの裏返しだ。

 企んだわけではないが、無為無策の日本国への当てこすりにもなっている。

「ムム……宗教法人にしていなければ、税金が取れたのですが……」

 及川市長の歯ぎしりは、ちょっと気の毒なんだが面白い。

 

 何を隠そう、氷室神社をいち早く宗教法人にしたのは、このお岩なんだけどな。

 

 これで四海波静かになればいいんだが……取りあえず、お御籤とお守りを追加しよう。

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

 

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・61『一人で初詣』

2022-12-22 06:19:13 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

61『一人で初詣』 

 

 

 考えこむのはヤバイ気がしてきて、年賀状の返事を書くことにした。


 半分以上は、あらかじめ出した人なんで、十人程への後出し年賀。後出しの分だけ、心をこめて書かなきゃ。

 はんぱなデジタル人間のわたしは、アナログな返事を書くのに昼前までかかってしまった。

 お昼は、はるかちゃんのマネをして関西風のお雑煮をこさえた……と言っても、お歳暮にもらった高級インスタントみそ汁の中に、チンしたお餅を入れただけ。

「なに食ってるんだ……まるで昔の犬のえさみてえだな」

「なに、それ?」

「昔の犬は、残り物にみそ汁のブッカケって決まったもんだ」

「ちがうよ、これは関西風のお雑煮。おいしいよ。おじいちゃんもこさえたげようか」

「よせやい。いくら戌年の生まれだからって、犬マンマは願い下げだぜ」

「おいしいのになあ……」

 わたしの強がりを屁とも思わずに、おじいちゃんは行ってしまった。


 昼から、年賀状を出すついでに初詣に行った。

 忠クンも誘おうかとも思って、スマホを手にしたんだけど……やっぱ止めた。


―― 厚かましいのにもほどがあるぞ! ――


 と、神さまに叱られそうなくらいのお願いをした。

 でも、お賽銭はピカピカの百円玉。使うのが惜しくて、ずっとひっそりと机の中にしまっておいたやつ。

 この百円玉は、去年の五月ごろ、気がついたらお財布の中に入っていた。

 なんだか不思議だった。前の日に食堂でおソバを食べようとして、お財布の中に一枚だけあった百円玉を券売機の中に入れた。確かに最後の百円玉だった。

 で、明くる日、コンビニで雑誌を買おうとしてお財布を開けたら、この百円玉が入っていた。

 造幣局でできたばかりみたいにピカピカの百円玉。でも、なんだか、とても懐かしい気持ちにさせてくれる百円玉だ。

 それを使ったんだから、わたし的にはとても大事な願い事。

 どんな願い事だって?……それは、この物語を最初から読んでいるあなたなら分かるわよね。

 おみくじを引いてみた。

 大吉だった!

 ―― 新しきことに挑みて吉。目上からの引き立てあり。波乱多きも末広。意外のことあるも臆する無かれ。努力と忍耐が肝要なり ――

 で、恋愛運は……

―― 気は未だ熟せずも、末吉。人の成長を気長に待たねば破綻の気配 ――

 正月のおみくじってたいがい大吉なんだけど、良く読むと、良いことは多いけど、なんだか半分脅かしみたい。波乱多きもとか、臆する事なかれとか、破綻の気配とか。

 要するに、努力し忍耐しなきゃ保証無しってことで、不幸になれば、おまえの努力と忍耐が足りないからだってこと。

 幸せになれなければ自己責任。なれたら、神さまのお陰ってこと。いい加減っちゃ、いい加減なんだけど、これも神さまのご託宣。ありがたく持ち帰ります。

 よく、境内の木の枝に結んで帰る人がいるけど、あれは悪いくじを引いたときにやるもんで、神さまのご託宣であるので、ありがたく持ち帰るのがセオリーだとおじいちゃんに教えてもらった。

 え?

 ありがたくお財布の中に収めると、ポンと肩を叩かれた。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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