大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・376『四回目の大晦日』

2022-12-31 14:26:35 | ノベル

・376

『四回目の大晦日』さくら    

 

 

 

「みなさん、大晦日の夜をいかがお過ごしでしょうか? わたしは、日本最大の湖である琵琶湖の近くのお寺に学校の友だちと来ています。日本では、大晦日の夜から新年にかけて、お寺の鐘を108回鳴らす習慣があります。ヤマセンブルグでも年明けと同時に新年を祝って教会の鐘が鳴りますが、日本の108回の鐘は意味が違うんですよ。人間には煩悩という108の良くない心があると言われています。キリスト教でも『七つの大罪』というのがありますが、それに近いものでしょう、それを打ち払うために鳴らすのが元々の意味だと言われています。でも、じっさいに鐘を撞く人たちは――ゆく年を惜しみ、来たるべき新年良かれ――と願うんだそうです。わたしは、18年間、わたしを育ててくれた人たちと日本に感謝して愛しみながら鐘を突きたいと思います。そして、来年はセントヤマセン大聖堂の新年の鐘をみなさんと聞くことをお約束します。それでは、ヤマセンブルグに幸あれ、日本に幸あれ、そして、世界に平和と幸あれかしと祈ります……」

 そう締めくくると、頼子さんは胸の前で指を組んで、静かに瞑目するのでありました……。

「う~~ん…………まあいいでしょう」

「だあああ、やっと解放されたあ!」

 それまで真っ直ぐ背筋を伸ばして座ってた頼子さんは、足を投げ出し、電車の中でやったら絶対ヒンシュクやいう姿勢になって、一気にダレた(^_^;)

 年末の夜回りは、他の町内で夜回りの人が車にはねられるという事件のために、未成年は中止。

 それで、テイ兄ちゃんが話を付けてくれて、大晦日の今日は四年前にお世話になった東近江市のお寺に来てます。

『除夜の鐘お助け隊!』

 頼子さんは、領事館で新年の挨拶をヤマセンブルグの国民にライブで流す予定やった。

 それを行った先のお寺からやるということで、やっと許可が下りて、五回目のリハーサルでOKが出たというわけです。ちなみに、実際は次のように英語でやらはりました。

「How are you all doing on New Year's Eve? I am visiting a temple near Lake Biwa, Japan's largest lake, with my school friends. In Japan, there is a custom of ringing temple bells 108 times from New Year's Eve through the New Year. Even in Yamasenburg, church bells ring to celebrate the New Year at the same time as the beginning of the year, but the meaning of the 108 bells in Japan is different. It is said that human beings have 108 bad thoughts called earthly desires. Even in Christianity, there is "The Seven Deadly Sins", but it is similar to that, and it is said that the original meaning was to ring to drive away them. However, it is said that the people who ring the bell actually wish for the coming year and wish them a happy new year. I would like to ring the bell while appreciating and loving Japan and the people who raised me for 18 years. And I promise that next year we will all hear the New Year's bells of St. Yamasen's Cathedral. Well then, I pray for Yamasenburg, Japan, and peace and happiness in the world...」

「こら、さくら! そんなの見せなくていいからあ!」

 怒られてしまいました(^_^;) ちなみに、うちらはオーディエンス。

「みんな、お餅つくぞぉ! リッチも、へたってないで! 餅つきしなさい!」

 ソフィーが腕組みして、本堂のうちらを睨んでる。

 あ、リッチいうのは頼子っち⇒ヨリッチ⇒リッチです。

「ソフィー怖いよぉ」

「友だちモードでやれって言ったのは殿下の方じゃなかったですかぁ」

 カメラを片付けながらジョン・スミス。

 

 えい! ペッタン ほ! えい! ペッタン ほ! えい! ペッタン ほ! えい! ペッタン ほ!

 

 境内の臼を囲んで、湯気と歓声が木霊します。

 ちなみに「えい!」はめぐりん、「ほ!」は留美ちゃん、残りのもんは臼の周りで待機。

 つきあがったら、総勢でお餅を丸めたり伸ばしたり。つき手と合いの手は交代。

「あ、ごえんさん、うちが持ちますよって!」

「ありがとう如来寺さん」

 蒸し終わったもち米を抱えてくるごえんさん、年が明けたら七十の大台やそうです。

 うちの倍の規模のお寺を一人で切り盛りしてはります。四年近いお寺生活で、うちも手伝いの呼吸がちょっとは分かってきた。

「ごえんさんてなに?」

 お姉ちゃんに負けず劣らず日本語ペラペラのソニーやけど、さすがに『ごえんさん』は分からへん。

「お寺の住職」

「ジューショク?」

「えと、神父さんとか牧師さん的な?」

「ああ、なるほど」

 

「ウァッチლ(‘꒪д꒪’)ლ!!」

 

 ジョン・スミスが丸めようとしたお餅を落としてしまう。 

「これ、めちゃくちゃ熱いよ!」

「 部長、修業が足りません」

 ソフィーが冷やかす。ソフィーはポーカーフェイスちゅうかジト目やから、ちょっと怖い。

 

 キャーキャー ワハハと笑って、はしゃいで早くも夕方。

 

『おお! いいなあ! わたしも行きたかったあ!』

 頼子先輩に真鈴先輩から電話。

「どうだ、羨ましいだろ!」

 イチビリの頼子さんは、スマホをカメラに切り替えて、うちらを写す。

 真鈴先輩は、年明けに始まる新作アニメのアフレコで東京のスタジオ。

 なんでも、監督の絵コンテがなかなか上がってこなくて、予定よりも十日も遅れてるらしい。

『え、あ、ちょ……ちょっと監督!』

 なんかゴチャゴチャ、なんか揉めてる?

 と、急にオッサンの声になった!

『頼子さん、いる?』

「あ、はい、頼子ですが」

『マネキンではお世話になりました!』

「あ、わたしの方こそ」

『そっち、さくらさん居ます?』

「あ、はい、いま写します」

 え、なんでうち!?

『ども、文化祭の動画見ました。いちどご挨拶と思って、真鈴がいろいろ引っ張りまわして、ごめんなさいね』

「いえいえ、うち、いえ、わたしも楽しかったですから。あ、えと、監督さんのお声聞けて嬉しかったです」

『アハハ、それは何より……え、もう時間? それじゃ、頼子さん、みなさん、よいお年を!』

 後ろの方で――かんとく!――と――あ、ちょ!――の声が重なって切れてしもた。

 

 日が西に傾いて、年越しそばの下準備にかかり始めると、境内に見慣れた車。

「え?」

「あの車動くんや!」

 留美ちゃんと二人びっくり。

 その車は、この四年で二回ほどしか動いてるとこを見たことが無いミニクーパ。

「まさか!?」

 車から出てきたんは、お祖父ちゃんと詩(ことは)ちゃん。

「お祖父ちゃんが運転してきたん!?」

 たしか詩ちゃんは免許持ってへん。

「あはは、午後から空いちゃったら、お祖父ちゃんが『連れてってやる!』って」

 よかった! いや、よくない!

 詩ちゃんが来たんはええけど、うちが如来寺に来て、一回も運転してるとこ見たことないお祖父ちゃんが堺から車運転してきたのはめちゃくちゃよくない!

 折り返し帰るいうお祖父ちゃんを引き留めて、こっちで年越しさせるのは一苦労でした(^_^;)

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

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宇宙戦艦三笠17[クレアの役割]

2022-12-31 09:33:42 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

17[クレアの役割]   

 

 


 宇宙戦艦三笠は4人で十分コントロールできるようになっている。

 艦長:東郷修一  副長兼航海長:秋野樟葉  砲術長:山本天音  機関長:秋山昭利

 これで十分だった。そこにボイジャーから変態したクレアが加わった。アナライズの補助ということになっているが、三笠にはAIの立派なアナライザーが付いていて、クレアにはやることがない。


 クレアは、一見どうでもいいことをやりだした。


 艦内のあちこちに、小ぶりな一輪挿しを付けて、コスモスのような小さな花を活けたりした。

「あら、コスモス」

 樟葉が二日目に気づいて、それっきりで、なんの効果もないようだったが「あれクレアが活けてくれたの?」「はい……」それだけで、三笠の何かが温まった。

 でも、三笠のどこにコスモスが咲いていたんだろう?

 ちょっとだけ不思議になった。

 樟葉が航路の確認をしようと宇宙海図を広げると、直ぐ上の戦闘指揮所でなにやら気配。

 あら?

 ラッタルを上がると、ネコメイドたちがしゃがんで何かを見ている。

 邪魔しちゃ悪いと待っていると、反対側のラッタルを下りていく。

 なんだろ……上がってみると東郷提督の標の前にフラワーポッド。いくつもの花が芽を出したり蕾を膨らませていたよって、目をへの字にしていた。

 その話を聞いて、小学校で生き物係だったのを思い出した。ウサギとか飼いたかったんだけど、先生にダメだと言われて、樟葉は花の世話を始めた。あれ、すみれだったかな? 見に行こうかと思ったら、トシが叫んだ。


「おれグリンピース食っちゃった!」


 夕食の肉じゃがにグリンピースが入っていた。トシはグリンピースが苦手だ。だから三笠のアナライザーはメニューの中にグリンピースは入れなかった。クレアは、それに干渉してグリンピースを入れたんだ。クレアと目が合うと、クレアは「え?」という顔をしている。

 トシは考えた……というより思い出した。

 トシは妹を亡くしてからグリンピースを食べなくなった。トシの母は、トシの食べるものにグリンピースを入れなくなった。

―― よかったね、一つ克服できた ――

 クレアの小さな声が、直接心に響いてきた。

―― 克服……そうだ。グリンピースは由美が好きだったんだ ――

 妹が死んでから、トシはグリンピースを食べなくなったことを思い出した。


「0・2パーセクの座標に船の残骸。モニターに出すわね」


 樟葉がモニターに出した映像には、定遠の残骸が映し出されていた。テネシーの時とは違って、船の形を留めないほどに壊されていた。

「生命反応は?」

「ない……」

「全滅か……?」

「いや、痕跡もないから、元々無人の船だったようね」

「もともとハリボテのレプリカだったからね」

「贅沢なドローンだ」

 天音が、無感動に締めくくった。

「じゃ、記録だけして、先を急ごう」

 三笠のアナライザーは数秒で記憶し終えると、乗組員たちといっしょに定遠のことは忘れてしまった。三笠は絶えず前を向いている船なのだ。

「定遠から光子魚雷」

 クレアが短く言った。

「え!?」

 樟葉の手が反応した。後部バリアーを張り、フレアーを放ち、船を面舵に切った。その間0・2秒。

 連携が良くなった。


 ドーーン!


 艦尾の方で大きな衝撃があった。

 フレアーと艦尾のバリアーに光子魚雷が命中した。三笠自体には損傷はない。

「危ないところだった……」

「定遠の残骸をダミーにして、光子魚雷を仕込んでいたんです。シュトルフハーヘンの得意技です」

「クレア、よく知ってたわね」

「ボイジャーでいたころに、いろんなことを経験しましたから……」

 チョコレートのような香りがしているのに気付いた。

 調べてみるとコスモスの香りだった。コスモスはチョコレートのような香りを放つ。その香りには鎮静作用があることも分かった。クレアに目をやると、少しニコリとした。


 トシは気づいた。


 グリンピースが嫌いだったのは、妹が死んだのは親が新しくても身に合わない自転車を買ってやったから……トシは、妹の死は自分にあると思って引きこもりになってしまったと思っていた。

 だけど意識の底で、妹が死んだのは、半分は親のせいだとも思っていた。

 臆病と裏表のトシの優しさは、それを押し殺して、グリンピースが嫌いということで現していたのかもしれない。

 でも、知らずにグリンピースを食べてしまった。

 アハハハ

 士官食堂のみんなが笑った。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・70『誕生日』

2022-12-31 07:04:46 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

70『誕生日』 

 

 

 それからの潤香先輩は回復の兆し。

 病室は胡蝶蘭の造花と貴崎イエローの洗い観音さまを洗ったハンカチでいっぱいになった。

 その日の夕方、忠クンからメールが来た。


―― 誕生日おめでとう。誕生日のお祝いをしたいので、よかったら返事ください ――


 で、わたしたちは定期で行けるTAKEYONAの一番奥の席に収まっている。

 テーブルの上には、とりあえず「海の幸ホワイトソ-スのパスタ」ジンジャエールで乾杯したところに、サラダとチーズのセットがやってきた。

「やっと同い年だな」

「うん。四捨五入したら二十歳だぞ!」

 自分で言ってドッキリした。

 二十歳って重たくて嬉しい年齢……実際にはもう少しかかるけど、あっという間なんだろうなあ……忠クンの顔が眩しく見えた。

 十六歳というのもなかなかの歳だ。ゲンチャの免許もとれるし、その気になれば、ウフフ……結婚だってできちゃうぞ。目の前の糸の切れた凧は、まだ二年しなきゃ……ジンジャエールってノンアルコールだったわよね?

「これ、ささやかな誕生日のお祝い」

「え、こんなにご馳走になってんのに」

「大したもんじゃないから」

 ……大した物じゃなかったけど、心のこもったものだった。折り紙の胡蝶蘭。

「今日の誕生花なんだよな。本物は高くて手が出ないけど。オレ必死で折ったから」

「ううん……本物より、こっちがずっといい。だって、これだったら枯れることないもん」

「そか……そう言われると嬉しいな。なんだか、まどか十六になったとたん口が上手くなったな」

「心から、そう思ってるんだよ」

 クチバシッテしまった。目が潤んできた……いけません。フライングはしません!

 封筒に、まだなにか入っている……これは!?

 リングでもラブレターでもありません。念のため。

 それは自衛隊体験入隊のパンフレットだった。

「忠クン……これは?」

「高等少年工科学校は反対されてあきらめた。で、一回体験入隊だけでもって思って……あ、まどかを誘ってるわけじゃないんだぜ。一応知っておいてもらいたかったから」

「そうなんだ……」

 そのとき、観葉植物を挟んだカウンター席から、聞き覚えのある声がしてきた。

「え、マリちゃん、本気かよ……」

 この品のいいバリトンは、忘れもしないわ。

 コンクールで乃木坂を落とした高橋誠司……!

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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