大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・136『氷室神社の賽銭箱』

2022-12-15 18:06:04 | 小説4

・136

『氷室神社の賽銭箱』お岩  

 

 

「こら、しっかり持たんかい!」

「ちょ、二人じゃ無理だって!」

「いい若いもんが情けねえぞ」

「ああ……やっぱりダメだ!」

 ドサ!

「この、バチアタリめ!」

「なんで、他の奴らにも手伝わせねーんだ!」

「『任しとけ』って、腕まくりしたのはおめえのほうだろが」

「とにかく、ちょっと休憩させろ」

「これで三回目だぞ」

「さっきのはノーカンだ、ジジイだって、足止めて見てたじゃねえか」

「じゃ、五分だけだ。ぐずぐずしてっと、みんな戻ってきちまう」

「ああ、了解……」

 

 手伝ってやろうと思ったけど、面白いので黙って見ている。

 

 氷室神社の神主に収まったシゲ爺が、鉱山技師時代の助手のサブを使って新しい賽銭箱を運んでいるところだ。

 神社を作ったのは、シゲ爺としては、いいところに目を付けたと思った。

 日本人は、やっぱり、みんなが手を合わせて、祈ったりお願いしたり感謝を捧げる場所が必要なんだ。

 そして、それは、西之島の他の島民たちからも尊崇されるようなものが望ましい。

 南の海を臨む岩の上にお地蔵様ほどの祠を載せて(シゲ爺は建てたというが)拝殿として、その前に拝殿と比べて全然不釣り合いなLサイズの鳥居が立っている。

「バランス悪くないか?」と聞いたら「いや、本殿は、この海と空だからいいんだ!」とうそぶいた。

 御祭神は、うちの社長のご先祖『秋宮空子内親王殿下』らしい。

 大仰なことや晴れがましいことが苦手な社長は「勘弁してください(^_^;)」だったらしいが「本殿は海と空じゃ」とかごまかした。

 じっさい、営業を始めると(「営業なんていうな!」と怒られたけどね)鳥居というのは、二百年前には世界的に認知されたホーリーシンボルだからね。関帝廟やトーテムポールなんかよりは、うんと集客力がある。

 最初はミカン箱ほどの賽銭箱だったけど、それでは間に合わないくらいの参拝客がありそうで、急きょ大きいのを作って、サブといっしょに運んでいるというわけさ。

 

 で、その集客、いや参拝客というのは、神社の先の岬の方に集まっている。

 

 この一か月、島を包囲していた漢明の艦隊が、故障艦の洛陽を残して消えてしまった。

 小型艦や輸送船も引き上げてしまったのだから、全面戦争を覚悟していた島のみんなは驚いた。

 市役所の及川市長からは「上陸していた陸戦隊も引き上げました!」と喜びの電話があった。

 島の食堂と銀行を預かる身としては、島の安寧が第一だ。

 状況を確認するには、自分の目に限る。食堂をハナ、銀行をパチパチの二人に任せ、こうやって電波塔の上から見ているわけさ。

 岬の野次馬は、納得するのに、もう少し時間がいるだろう。

 日本政府の救援は望み薄で、明日にでも全面戦争になりそうだったんだから無理もない。

 ほとんどの者が、望遠鏡を覗いたり視力そのものをズームして洛陽と、その周辺を窺っている。

 探査能力のあるロボットたちは海に半身を漬けてソナーで海の中まで探っている。

 納得したら、ほとんどの者は、この氷室神社の前を通る。鳥居が目に入れば、お礼参りに、けっこうな人数が押し寄せるだろう。

 

「お岩! そんなとこに居るなら、ちょっと手伝え!」

 

 やっと気が付いた。

 まあ、お賽銭は回りまわって銀行にやってくる、そろそろ手伝ってやるか。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・54『マクベスの首』

2022-12-15 06:37:56 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

54『マクベスの首』  

 


 マクベスの首が、旗竿の先に括りつけられて現れたところだった。

「薮さんのとこまで行ってきてくれないか?」

 頭の上から声が降ってきた……仰向けになって本を読んでいたわたしは、そのまま上目遣いに、十センチほど開けられた襖の隙間に目をやった。

 そこには、サンドイッチのパンみたく、端っこをちょん切った兄貴の顔が見えた。

 アンニュイも、端っこをちょん切って逆さになると、ひどく間が抜けて見えるもんだなあ……と思った。

「入れば……」

 間抜けの逆さ顔にそう言った。

 逆さのまま、その顔が大きくなった。

 つまり兄貴が部屋に入ってきて、しゃがみ込んで、わたしの顔を逆さに覗き込んだのよね……恋人同士なら、このシュチュエーション、フラグの一つも立つんだろうけど、兄貴じゃね。

「だからさ、薮さんのとこにさ……」

 薮……バーナムの森なら、なんて妄想が頭に浮かぶ

「なんだ、まどか、シェ-クスピアなんか読んでんのか。大雪が降るわけだ」

「兄ちゃん……鼻毛伸びてるよ」

 わたしの逆襲に、兄貴は素直に鼻毛を抜いた……と、思ったら。

「……ハーックション!」

 盛大なクシャミで反撃された。かろうじて身をかわして、鼻水とヨダレの実弾攻撃から逃れた。楯がわりになったシェークスピアに多少の被害。

 起きあがって、まっすぐ見た兄貴の顔は、やっぱ間抜け……というよりタソガレていた。


 事情を聞いたわたしは、兄貴への多少の同情と、我が家のシキタリのため角樽のお酒をぶら下げて、薮医院を目指した。

 いつもなら、自転車で行くんだけど、わたしの頭の中にはシェークスピアの四大悲劇の断片が、ポワポワ浮かんで、なかば夢遊病。

 危ないことと、この夢遊病状態でいたいため、あえて歩いて行くことにした。

 なんでシェ-クスピアなんか読んでるかと言うと、はるかちゃんのアドバイス。


 観ること、読むことから始めてみれば。ということだったので、とりあえず千住の図書館に行って、シェ-クスピアの四大悲劇を借りてきた。

『ハムレット』から始め『リア王』『オセロー』そして、夕べからトドメの『マクベス』になったわけ。

 マクベスの首が出てくるのは、最後のページ。

 わたしは四日間で四大悲劇を読破したわけ。

 しかしシェークスピアというのは、どの作品も、やたらに長くて、登場人物が多い。きちんと読もうと思ったら、登場人物の一覧片手に三回ぐらい読まなきゃ分からない。

 ラノベに毛の生えた程度のものしか読まないわたしには、至難の業……で、とりあえず読み飛ばしたわけ。

 だから、まとまったストーリーとしては頭に入ってなくて、断片だけがポワポワ浮かんでいるというわけ。

 しかし、さすがはシェークスピア。断片といっても、その煌めきが違う。

 こうやって素直にお使いに出たというのは、ちょっぴり兄貴に同情したからばかりじゃないんだ。

 悪逆非道なマクベスは、魔女たちからこう言われる。

「バーナムの森が攻め寄せぬかぎり、そなたは死なぬ。女の腹から産み落とされた人間に、そなたを殺すことはできない!」

 で、薮を森に見たててのお出かけ。

 そんでもって、マクベスを討ち果たしたのは、月足らずで母親の腹から引きずり出されたマクダフ。
 わたしも未熟児で、八ヶ月ちょっとで帝王切開でお母さんのお腹から引きずり出された。これには、当時の我が家の状況が影響してんだけど、それは後ほどってことで……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする