大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・374『ショック!』

2022-12-29 16:22:22 | ノベル

・375

『ショック!』さくら    

 

 

 ちょっとショック!

 

 夜回りのコースの下見を終わって帰ってみると、山門入ったとこでテイ兄ちゃんに呼び止められた。

「未成年の夜回りはやんぺになるかもや」

「え、なんで!?」

「夕べ、よその町内で夜回り中に事故があって二人亡くなってなあ、それでやと思う。今から町会長さんと市役所に事情聞きに行くとこやねんけどな」

 そこまで言うと、テイ兄ちゃんは町会長さんを車に乗せて市役所に走って行った。

「さくらぁ」

 留美ちゃんがビッコ曳きながらこっちに来る。

「あ、うちの方が行くよって!」

 留美ちゃんは本堂の大掃除で足をグネってしもてるんや。

「やっぱり中止って言ってた?」

「うん、いま、町会長さんと市役所行きやったとこ」

「だったら、まだ決まったわけじゃないんだね?」

 留美ちゃんはええ子や。

 足グネて、自分は行かれんくなってしもたけど、みんな楽しみにしてるのん知ってるから、自分の事のように心配してるんや。

「うん、テイ兄ちゃん帰ってこんと分からへんと思う」

 

 コンコン

 

 リビングのガラスが鳴って、振り返るとお祖父ちゃんが右手でオイデオイデして、左手でメモをガラスに貼り付けてる。

―― 善哉食べにおいで ――

「「わ、善哉!」」

 脊髄反射で玄関に向かう。

「ちょ、さくら!」

「あ、ごめんごめん(^_^;)」

 留美ちゃんに肩を貸してキッチンへ。

「本堂の方に出そうと思ったんだけど、ちょっとごたついてるから、お祖父ちゃんと先に食べて」

 伯母ちゃんがお椀によそってくれる。

 ドン

 伯母ちゃんが乱暴なんとちゃうんです。丼鉢みたいなお椀にドッチャリ入ってるんで、テーブルに置いただけで充実した音がするんです(^〇^;)。

 お寺で言う小餅、世間的には中餅が二個も入って、塩こんぶまで付いて、もう世間の憂さなんか飛んでしまいそう!

「諦一が町会長と行きよったんは、みんなの顔たてるための……優しさや」

「……いま、方便て言いそうになりました?」

 留美ちゃんは鋭い。

「まあ、あけすけに言うたらな。役所の方でも『慎重にやってください』くらいの言い回しやねんやろけどな。まあ、町会の判断いうことになるねんやろなあ」

 ずっこい!……中学生やったら、そない思たやろね。

「頼子さん、楽しみにしてたのにね」

 せや、頼子さんは日本で最後の冬休みやったんや……。

「頼ちゃんは、警護のこともあるやろから、もう連絡してあげた方がええかもしれんで」

「せやねえ……」

 

 うちは、ポケットからスマホを取り出して頼子さんの番号をクリックした。

 

『ちょっと、さくら!』

 ワンコールで出た頼子さんは、もう機嫌が悪い。

「ちょ、怒らんと聞いてくださいよ(;'∀')」

『あ、ごめん』

「…………というわけで、中止みたいなんですわ」

『ああ…………そうだったんだ。うちは、ソフィーがさ「領事からお控えくださいと要請されました」って、それだけなんだもん。そうか、そういう事情だったんだね』

「正式に決まったら、また電話しますから」

『あ、うん、待ってるね……ひょっとして、さくら、お善哉とか食べてるぅ?』

「え、なんで分かったんですか!?」

 いっしゅん、ソフィーかソニーに隠しカメラを仕掛けられたかと思た!

『いや、匂いがね』

 え、こないだアップグレードしたかと思たら匂いを送る機能が付いたか!?

『え、そっちもリアルお善哉?』

―― 殿下、冷めないうちに召し上がってください ――

 ソフィーの声がしてる。

「なんや、そっちもお善哉やったんですかぁ!」

『アハハ、偶然の一致だね。そうだ、お善哉の見せあいっこしようよ、写真送って! こっちも送るから!』

「ラジャー(^^ゞ!」

 

 一度電話を切って、まだ手を付けていない留美ちゃんのを撮って送る。

 同時に、向こうの写真も着信。

―― そっちの方が大きい! そっちの食べたいぞ! ――

 子どもみたいなメールも来る。

 分かってんねん、こうやって子どもっぽくすることで、お互いに残念なことを吹き飛ばそうという心遣い。

 頼子さんが日本に居てるのは、あと二か月あるかどうか。

 楽しい思い出作ってあげなら……さ、とりあえずは食べよ。

「え、お餅無い(⊙▃⊙)!」

「え、電話する前に食べたじゃない」

「え、ウソお!?」

 あたしのんは、ホンマのボケです(-_-;)。

 ワハハハハハハハ!

 お祖父ちゃんが、入れ歯が飛び出しそうなくらい笑って、お餅を一個分けてくれました。

 

 そのあと、テイ兄ちゃんが帰ってきて、正式に未成年の夜回り中止を宣言。

 

 せやけど、とっても、むっちゃステキな提案もしてくれて、みんなへのメールも楽しく送れたぜ(≧∇≦)!

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・68『部活の帰り道 乃木坂にて』

2022-12-29 07:08:19 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

68『部活の帰り道 乃木坂にて』 

 

 

 話しは前後するんだけど、『風と共に去りぬ』を観た部活の帰り道。乃木坂に立ったわたしは夕陽を浴びてスカーレットオハラみたく背筋を伸ばして歩いていた。

 ヴィヴィアンリーがパン屋さんのウィンドウに映って……やっぱりジュディーガーランド(-_-;)。

 どうも、この鼻がね……と、凹みながら思い出した。

 もうい~くつ寝ると、お正月……は、とっくに過ぎちゃったけど、わたしの誕生日!

 そんでもって、わたしの記憶に間違いがなければ……。

「ねえ、潤香先輩の誕生日って?」

 さっさと前を歩いている里沙に声をかけた。

「今月の十七日」

「やっぱし……」

「そうよ、まどかの誕生日と重なってんの」

 そのとき、坂の下の方から夏鈴が、スマホを握って走ってきた。

「ねえ、話しついたわよ!」

「夏鈴て、普通に歩くとトロイのに、スマホで話しながらだと速いんだね」

 里沙が冷やかした。夏鈴はおかまいなしに喋り続けた。

「半額でいいって、お父さんが話しつけてくれてさ。そんかわり、あさって、自分でとりに行かなきゃなんないんだけどね、部活終わってからにするね。お誕生日も大事だけど部活もね。なんたって三人ぽっきりなんだからさ」

「あ……なんだか、気を遣わせちゃって。ハハ、もうしわけないね」

「「なにが……?」」

「え……わたしのお誕生祝いのことじゃ……アハハ、ないんだよね」

「あたりまえでしょ、わたしも夏鈴も去年だったけど、なんにもしてもらってないわよ」

「だって、そんときゃ、まだ知らなかったんだからさ」

「そんなこと言う?」

「入部の自己紹介で言ったわよ」

「え、ええ……そうだっけ?」

「ちゃんと記録してあるわよ。わたしってアドリブきかないからさ」

「夏鈴は覚えてないわよね?」

「そんなことないわよ。わたしって継続的な努力は苦手だけど、最初だけはきちんとしてんだから」

 この自慢だか自虐だか分からない夏鈴。こやつにさえ対抗できないまどかでありました。


 はるかちゃんは他にもいろいろ教えてくれた。


 基本的に、ウソつきになるテクニック……といっても、ドロボウさんの始まりではない。

 役者の基本なんだよ。

 マリ先生は、型とイマジネーションを大事にしていた。だから、知らず知らずのうちに、貴崎流というか、乃木坂節というのが身に付いていく。

 良く言えば、それが乃木高の魅力だった。

 悪く言えばクセ。

 むろん悪く言う人なんてめったにいない。コンクールのときの高橋っていう審査員ぐらいのもの。

 もっと後になって分かったことなんだけど、大学の演劇科にいった先輩たちは、そのクセから抜け出すのに苦労したみたい。

 いずれにせよ、その型を教えてくれる先生がいないのだから、自分たちでメソードを持たざるを得ない。


 で、その最初がウソつきになるテクニック。


 だれにウソをつくかというと、自分に対して。

 まあ百聞は一見にしかず。ということで、はるかちゃんが演ってくれたことを録画して再生。

 はるかちゃんが針に糸を通しハンカチを縫った……ように見えた。

 でも不思議、アップにしてみると針も糸もない。マジック見てるみたいなのよ。

「簡単なことよ。両手の人差し指と親指をくっつけるの。で、じっとそこを見つめて、左手が針、右手が糸と思うわけ……するとこうなっちゃう」

 三人でやってみる……ナルホドナルホドと納得。

 こういうのを無対象演技というらしい。

 日を追う事にむつかしく、でも面白くなってくる。

 卵を割ったり、コーヒーを飲んでみたり。

 何日か目には、五人で集団縄跳びをやって見せてくれた。むろん縄は無対象。

 わたしたちは三人しかいないので、隣の文芸部を誘ってグラウンドで六人でやってみた。

 なんという不思議! 簡単にできちゃった!

 六人とも見えない縄を見ている。体でリズムをとって縄に入るタイミングを計っている。縄が足にひっかかると「アチャー」 ぎりぎりセーフだと「オオー」ということになる。縄を回す方も、最後は四人が縄の中に入っているので、中の人の頭や足が引っかからないように自然と大きく回す。

 野球部やテニス部が、感心して見ているのが嬉しかった(^▽^)。

 チャットでそれを言うと、はるかちゃんは我がことのように喜んでくれて、こう言った。

「それが演劇の基本なのよ。縄跳びが戯曲、演ったまどかたちが役者、で、感心して見ていた野球部とテニス部が観客。この、戯曲、役者、観客のことを演劇の三要素っていうんだよ」

「これ、やっぱり白羽さんのNOZOMIプロで習ったの?」

「ううん、うちのクラブのコーチに教わったの」

「いいなあ」

 で、詳しくは、はるかちゃんの『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』を読んでくださいってことでした。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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