大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・29『潜入・2・忍者の臆病虫』

2022-12-06 16:42:34 | 小説3

くノ一その一今のうち

29『潜入・2・忍者の臆病虫』 

 

 

 草原と言っても見渡すかぎりが草に覆われているわけではない。

 

 製作途中で投げ出されたジオラマのように、所どころに木が生え、場所によっては小さな林のようになっているところがある。平らな草原のように見えても微妙な高低差があって、短い雨期や雪融けなどの時に水が流れたり溜まったりして、恒常的な川や池を形成するほどでは無くとも、比較的水分に恵まれたところがあって、そこに木が生えているんだろう。

 そういう小さな林の木に登って街の様子を観察する。

 百歳の老人の歯茎のような土塁の崩れが街を取り囲んでいる。

 土塁の幅は山手線のホームの幅ほど……所どころに教室一つ分ほどに大きくなっているところがあって、おそらくは防塁が建っていたんだろう。相応の規模だから、その昔、シルクロード的なものが通っていたころは、いっぱしの交易都市で、それなりに栄えていたのかもしれない。でも、シルクロードがどこを通っていたかなんて知らないし。

 土塁は自然に崩壊したのが半分。残りは人の手で崩されているように見える。

 世界史の知識が無いから想像するしかない。

 ソビエトか中国か、そういう化け物みたいな国家に隷属するときに、隷属の証に破壊されたんだろうか。

 このご時世だから監視カメラは覚悟しなければならない。

 それでも、北京やモスクワのど真ん中ではないので、映った映像がただちに解析されて警察や軍隊に追われることもないだろう。

 まあ、常識的に仕掛けられているであろう監視カメラを避けるのは、それほど難しくはないけどね。

 

―― よし、あれが例の寺院だな ――

 

 目標を発見すると、五秒で、おおよその侵入経路を確定。

 木を飛び降りると、道を避けて草叢を拾いながら土塁の裂け目を目指す。そこからは水路の暗渠、住宅地の裏路地を縫って、洗濯物の外套、トーガとかヒジャブとか名前は分からないけど、それをひっかぶって、大胆にもバザールの真ん中を悠然と歩いて、寺院の隣のブロックへ。

 そうやって、大胆と慎重を使い分け、寺院の壁が見える路地にさしかかった。

 

 !?

 

 寺院の内外に剣呑な気配。おそらくは、警備のプロたちだ。

 ここに来るまでにも、優れたのやボンクラなのやら、警備の兵隊や制服私服の警察官が居て、そういうのは、そう苦も無く避けてきたけど、こいつらはグレードが違う。訓練された警備犬も連れているようだし、五割の確率で発見されてしまう。

 臆病の虫が這い出てきて、わたしの足を止める。

 忍者の臆病虫は武器だ。優れた忍者は、臆病虫をなだめて、成功の確率を八割ほどに上げなければ、次の行動には出ない。

 臭いと気配……隣の路地に脱糞中の犬がいる。

 これだ!

 思いついたわたしは、姿勢を五十センチの高さに保持したまま走って、隣の路地の犬の背後にまわる。

 グフ

 僅かに声を上げさせてしまったけど、何とか成功。

 犬の四肢と口を掴んで、寺院の壁が見えるところまで走って、犬を投げ飛ばす。

 キャイン!

 犬は、ぶざまに最後の一ちぎりをぶら下げたまま、塀の際で腹ばいの姿勢で落ちる。

 ワンワンワン! ワンワンワン!

 警備犬が寺院の内外で吠え始めて、警備のプロたちが走り出す。

 

 よし、今のうち!

 

 その三分後、無事に什器倉庫の屋根裏にたどり着くことができた。

 あれ?

 わたしが一番?

 風魔流忍法免許皆伝とは云え、駆け出しのわたしが一番とは、微妙に意外。

 嫁持ちさん、ノホホンとしてるけど、技量はわたしより上だ。

 社長……普段は、いぎたない初老の親父だけど、わたしに化けた腕の良さや、街はずれまでの行動を見ると、やっぱり風魔流忍術の総帥というだけのことはある。

 九割五分の確率で、わたしに後れを取るようなことはない。

 

 なにかあったか……?

 

 一分もたつと、またまた臆病虫が這い出てくる。

 今度は脱糞中の犬を投げるわけにもいかない……

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

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宇宙戦艦三笠13[小惑星ヘラクレア]

2022-12-06 14:02:45 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

13[小惑星ヘラクレア]   

 

 

 テキサスの修理は大変、いや不可能だった。

 なんせ艦体の1/4を失っている。修理というレベルではなくて、艦尾を新造して接合するという大工事になる。とても備蓄の修理用資材では足りない。

 

 それに、一口で艦尾を新造すると言っても簡単なことじゃない。

 戦前、扶桑級戦艦の速度を上げようとして艦尾を七メートル延長する工事をやった。改装後に公試をやると、速力は上がったものの急制動を掛けると、左に旋回して、停止した時には180度艦体が回ってしまうという事態になって、修正に苦労するということがあった……って、なんで、こんなマニアックな知識が頭にあるんだ? やっぱ、ミカさんにインストールされたんだろうな。ま、いいけどな。

 困うじ果てていると、ヘラクレアという未確認の小惑星から連絡があった。

 ―― よかったら、うちで直せよ ――という内容だった。


 ズゥイーーーン


 警戒してアナライズしようとしたら、なんとヘラクレア自身がワープして三笠の前に現れた。


 ガチャガチャ キュイン トントン コンコン ガガガ グガガガ パチパチ

 長径30キロ短径10キロほど、様々な宇宙船のパーツがめり込むように一体化した変な星だ。なにか工事か建造しているような音をまき散らし、あちこちで溶接やリベット打ちの火花が散って、絶えず星のどこかが姿を変えている。
 
「やあ、ようこそ。わたしが星のオーナーのヘラクレアだ。趣味が高じて気に入った宇宙船のスクラップの引取りやら、修理をやっとる。ああ、みなまで言わんでもいいよ。目的地はピレウスだろ。あれは宇宙でも数少ない希望の星だからね。ここにあるスクラップのほとんども、ピレウスを目指して目的を果たせなかった船たちだ。中にはグリンヘルドやシュトルハーヘンの船もある」

「おじさん、どっちの味方なの!?」

 アメリカ人らしく白黒を付けたそうに、ジェーンが指を立てる。

 俺たちは、ただ、星のグロテスクさに圧倒され、みかさん一人ニコニコしている。

「自分の星を守ろうとするやつの味方……と言えば聞こえはいいが、その気持ちや修理できた時の喜びを糧にして宇宙を漂っている、ケッタイな惑星さ」

「あの、惑星とおっしゃる割には、恒星はないんですね?」

 天音が、素朴な質問をした。

「君らが思うような恒星は無い。だが、ちゃんと恒星の周りを不規則だが周回している。みかさんは分かるようだね?」

「フフ、なんとなくですけど」

「それは全て知っているのと同じことだね」

「なんのことだか、分かんねえよ!」

 トシが子供のようなことを言うが、樟葉も天音も、船霊であるジェーンも聞きたそうな顔をしている。


「ここに、点があるとしよう。仮に座標はX=1 Y=1 Z=1としよう……」


 ヘラクレアのオッサンが耳に挟んだ鉛筆で、虚空をさすと、座標軸とともに、座標が示す点が現れた。

「これが、なにを……」

「この光る点は暗示にすぎない。そうだろ……点というのは面積も体積も無いものだ。目に見えるわけがない。君らは、この暗示を通して、頭の中で点の存在位置を想像しているのに過ぎない。だろう……世の中には、概念でしか分からないものがある。それが答えだ……ひどくやられたねぇテキサスは」

「直る、おじいちゃん?」

 ジェーンが、心配げに答えた。

「直すのは、この三笠の乗組員たちだ。材料は山ほどある。好きなものを使えばいいさ」

「遠慮なく」

「うん……トシと天音くんは、自分のことを分かっているようだが、修一と樟葉は半分も分かっていないようだなあ」

 俺も天音も驚いた。

 こないだ、みんなで自分のことを思い出したとき、二人は肝心なことを思い出していないような気がしていたからだ。

「ヒントだけ見せてあげよう」

 ヘラクレアのオッサンが、鉛筆を一振りすると、0・5秒ほど激しく爆発する振動と閃光が見えた。ハッと閃くものがあったが、それは小さな夢の断片のように、直ぐに意識の底に沈んでしまった。

 気づくとすぐ近くを、定遠と遼寧が先を越して行ってしまった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・45『四本のミサンガ』

2022-12-06 06:36:55 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

45『四本のミサンガ』  

 

 

「あの、これ持ってきたんです!」

 やっと紙袋を差し出した。

「これは?」

「潤夏先輩が、コンクールで着るはずだった衣装です」

「あ!? まどかちゃんが火事の中、命がけで取りに行ってくれてた……!」

「エヘヘ、まあ。本番じゃわたしが着たんで、丈を少し詰めてありますけど」

「丈だけ?」

 夏鈴が、また混ぜっ返す。

「丈だけよ!」

「ああ、寄せて上げたんだ。イトちゃんがそんなこと言ってた」

 里沙までも……。

「あんた達ね……!」

「アハハハ……」

 お姉さんは楽しそうに笑った。それはそれでいいんだけどね……。

「こんなのも持ってきました……」

 里沙が写真を出した。


「……まあ、これって『幸せの黄色いハンカチ』ね!」


 勘のいいお姉さんは、一発で分かってくれた。

 部室にぶら下がった三枚の黄色いハンカチ。その下にタヨリナ三人娘。それが往年の名作映画『幸せの黄色いハンカチ』のオマージュだってことを。

 わたしは理事長先生の言葉に閃くものがあったけど、ネットで調べるまで分からなかった。

 伍代のおじさんが大の映画ファンだと知っていたので、当たりを付けて聞いてみた。大当たり。おじさんは、そのDVDを持っていた。はるかちゃんもお気に入りだったそうだ。

 深夜、自分の部屋で一人で観た……ティッシュの箱が一つ空になった。

 それを、お姉さんは一発で理解。さすがだ(*・ω・)。

「ティッシュ一箱使いました?」

 と聞きたい衝動はおさえました。

「これ、ちゃんと写真が入るように、写真立てです」

 里沙が写真立てを出した。あいかわらずダンドリのいい子だ。

 写真は、すぐにお姉さんが写真立てに入れ、部員一同の集合写真と並べられた。

「あ、雪……」


 写真立てを置いたお姉さんがつぶやくように言った。

 窓から見える景色は一変していた。

 スカイツリーはおろか、向かいのビルも見えないくらいの大雪になっていた。

「これ、交通機関にも影響でるかもしれないよ……」

 里沙が気象予報士のように言う。

「いけない。じゃ、これで失礼します」

「そうね、この雪じゃね」

「また、年が明けたら、お伺いします」

「ありがとう、潤香も喜ぶわ」

「では、良いお年を……」

 ドアまで行きかけると……。

「あ、忘れるとこだった!」

 夏鈴、声が大きいってば……カバンから、何かごそごそ取り出した。

「ミサンガ作り直したんです」

 夏鈴の手には四本のミサンガが乗っていた。

「先輩のにはゴールドを混ぜときました。演劇部の最上級生ですから」

「……ありがとう、ありがとう!」

 お姉さんが、初めて涙声で言った。

「わたしたちこそ……ありがとうございました」

「あなたたちも良いお年を……そして、メリークリスマス」


 ナースステーションの角を曲がって見えなくなるまで、お姉さんは見送ってくださった。


 結局トンチンカンの夏鈴が一番いいとこを持ってちゃった。ま、心温まるトンチンカン。芝居なら、ちょっとした中盤のヤマ。

 こういうのをお芝居ではチョイサラっていうんだ。ちょこっと出て、いいとこさらっていくって意味。


 わたし達は地下鉄の駅に向かった。


 そのわずか二三百メートルを歩いただけで、雪だるまになりかけた。駅の階段のところでキャーキャー言いながら雪の落としっこ。

 こんなことでじゃれ合えるのは、今のうちの女子高生特権なんだろうな。

 里沙と夏鈴は、駅のコインロッカーから荷物を出した。

 今夜は、わたしんちで、クリスマスパーティーを兼ねて、あるタクラミがある。

 それは、合宿みたいなものなんだけど、タヨリナ三人組の……潤香先輩も入れて四人の演劇部のささやかな第二歩目。

 第一歩は部室の片づけをやって、黄色いハンカチ三枚の下で写真を撮ったこと。

 心温まる第二歩は、次の章でホカホカと湯気をたてて待っておりますよ~(*´ω`*)。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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