大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・372『モデル! モデル!! モデル!!!』

2022-12-26 16:04:36 | ノベル

・373

『モデル! モデル!! モデル!!!』さくら    

 

 

 登校風景は普通に撮った。

 

 普通と言うてもスケールアップ。

 なんせ、高校生声優で前生徒会長の百武真鈴! ヤマセンブルグ王女の頼子先輩!

 後輩やら取り巻きやらファンやら、その場に居てた者が三十人ほど、最初は観てるだけやったんやけど「登校風景だから、いっぱいいた方がいいよ!」と真鈴先輩の呼びかけで、五分後には百人ぐらいに増えた。

「う~ん、百人じゃ途切れてしまうなあ」

 頼子さんが言うと真鈴先輩が手を叩く。

「昇降口まで行ったら、通用門から出て正門に戻って、OK出るまで通ってくれる? カメラ目線にだけはならないようにね!」

 ということで、リアルの登校風景みたいな迫力になってきた。

 みんな、撮影とあって、日ごろ以上に丁寧で、急きょ職員室から出てきた先生らも登校指導いう感じで正門の両脇に居並ぶ。

「カットカット!」

 真鈴先輩がNGを叫ぶ。

「ダメですよ、そんなに先生が並んじゃったら、めちゃくちゃ指導のキツイ学校に見えますから! 長瀬先生と校長先生だけにしてください。他の先生方は……」

 生徒と一緒に出勤する先生、授業の準備風に遠くを歩く先生、職員室の窓を開ける先生、開けた窓の中で一瞬だけ見える先生……と、完全にモブ配置。

 いつもやったら、十人に一人ぐらいは服装やらマリア様への礼の仕方で注意されるんやけど、注意されたんはうち一人。

「さくら! 芝居のやり過ぎ!」

 マリア様のありがたさに立ち眩む 涙ぐむ 投げキッス 最敬礼……全部NG

 

 昇降口では真鈴先輩の演出が滑った(^_^;)

 下足ロッカー開けたら……ゴキブリが出てきた! 手紙が入ってた! 人の上履きが入ってたと思たら隣のロッカー開けてた! ノブを曳いたら蓋ごと取れた! 

「ぜんぶ、実際にあったことなんですけど(^0^;)」

 みんな喜んだんやけど、長瀬先生の「NG!」には逆らえません。

 

「餌場に行くサルみたい!」

 学食へ行くシーンでは、またうち一人怒られる(;'∀')

 

 保健室のシーンでは、ソニーが軍隊式に負傷者を運んできて(負傷者の襟首掴んで匍匐前進で引っ張って来る)NG

 それではと、体育の授業風景……創作ダンスをやったら、真鈴先輩は決まり過ぎてNG

「じゃ、さくら組が真似してやってみなさい」

 うちらが真似してやったら、一発でOK。うちらの普通っぽいとこがええのやそうです。

 

 百メートル走をヒギンズ姉妹(ソフィーとソニー)でやったら日本新記録でNG

「では、世界新で走ります」

「いや、そういう話じゃないから(-_-;)」

 

 チャペルのシーンでは頼子さんの祈りを捧げるシーンが真に迫って、ついつい見とれる。

 やっぱり本物はちゃいます。

 

 休み時間のシーンでは、あえて脚だけ撮りました。

「全身の演技は難しいけど、脚だけだったら、わりと普通に撮れるし、いい表情出るかも」

 これも真鈴さん。

 で、やってみたら、なるほど足は口ほどにものを言いです。

「京アニが、足とか手とかだけの描写がいいですよね」

 留美ちゃんの指摘。

「アハハ、京アニのパクリ、やっぱバレたぁ?」

 と頭を掻く真鈴先輩。

 

 と、いろいろ撮った最後に校長先生の談話をチャペルで撮ります。

 

「ご覧になったように、我が校の生徒も先生方も、ほんとうに多士済々。みんな、自然な環境と云うか校風の中で教え教えられ、楽しくやっています。みなさんも、どうぞ、この聖真理愛学院の輪の中に加わってみてください。マリア様と共にお待ち申し上げております」

 めちゃくちゃ自然な微笑みになって、見ていたうちらも―― 校長先生に全部持っていかれてしもた ――と思いました。

 せやけどね、校長先生は、こうおっしゃるんです。

「いえいえ、みなさんが楽しそうにやっているところを見せてもらって、本当に嬉しくって、楽しくって、幸せな気分になって、自然に喋っただけです。わたしこそ、ほんとうにありがとう」

 そう言って、にっこり微笑まはって、期せずして、みんなで拍手してしまいました。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

 

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くノ一その一今のうち・32『王子を逃がす』

2022-12-26 13:27:47 | 小説3

くノ一その一今のうち

32『王子を逃がす』 

 

 

 街を出てからどうするんだろう?

 

 敵の大方を撒いて、あとは街を抜け出すばかりになった。

 社長は、ざっくりとした指示しかしない。

 敵の出方で、戦術を変えなければならないこともあるし、一人が捕まった場合、全てが敵に知られてしまう恐れもある。

 そのために、頭の忍者は、いくつもの手立てを組んでおく。松ぼっくりの他にも、社長は手立てをしているはずだ。

 だから、一瞬頭に浮かんだ―― どうするんだろう? ――は胸の底に沈める。

―― 間もなく、ラクダが走り出して追跡の車が出る。その一台を奪う ――

「「「承知」」」

 わざわざ声に出したのは、王子に聞かせるためだ。素人の王子は先が読めなければ不安に思って混乱する。混乱した人間を無事に逃がすのは難しい。だから声に出した。闇語りした社長も含めて。

「わたしはラクダで」

「「承知」」

 わたしのアドリブに、社長も嫁持ちさんが返事。

 

 ンゴオオオオオオ!

 

 グロテスクな声をあげてラクダたちが駆けだす。社長がなにか仕掛けていたんだろう、あれは、人間で言えば「イテエ!」と悲鳴をあげたみたいだった。

「「「散!」」」 

 一頭残ったラクダの背に跨って腹を蹴る。

 ンゴオ!

 ラクダに乗るのは初めてだけど、馬の要領と変わらない。わたしに御せている、社長は一番穏やかな奴を残してくれたんだ。

 シュッ シュッ

 空気を裂くような音。

 パンパン 

 一秒遅れて銃声。

 ……300メートルは離れている。草原のわずかな高低差を読みながら走る。

 ブオーーー 

 車の追跡も始まった、月明かりもある。姿をくらますのが肝要だ。

 ブオー

 車の音があさっての方角に外れる。よし、あの稜線を超えたら、もう一度方向を変えよう。

 セイ!

 勢いをつけて稜線を超える。

 ズサッ!!

 ラクダの着地にしては音が大きいと思ったら、社長たちの車が目の前で停車。

 運転席から嫁持ちさんが飛び出す。

 目線で分かる―― 交代 ――のサインだ。

 ラクダの背中に王子を乗せ、嫁持ちさんが鞭を当てて先に進む。

「あのグリーン手前のバンカーに車を落とす。そこから一打でオンしてパーセーブだ。キャディーを見失うな」

 ゴルフのような事を言う。要は、車を捨てて真っ直ぐ突き進み、嫁持ちさんと合流のうえ、王子を城内に送り届けるということだ。

 

 ズザザザザ! ボン!

 

 バンカーを転がり落ちたと思ったら車はボンネット付近で爆発炎上してしまった。

 なるほど、これなら追跡者も城の者たちもバンカーに目を奪われる。

 90度回り込んで西門を目指す。

 嫁持ちさんが間に合って、西門は開いている。

 ギイイイ ガチャン!

 だが、今の爆発で警戒されて、あと50メートルというところで門が閉じられてしまう。

 社長が懐に手を突っ込む。コンマ二秒遅れて、社長に倣って鉤爪を出す。

 

 カラン

 

 鉤爪を投げる寸前に城壁の向こうから鉤爪が投げ出され、ガチッと胸壁を噛んだ。

 エ?

 ほんのコンマ2秒ゲシュタルト崩壊。コンマ3秒後には社長に倣って後方に飛び退る。

 トン

 かそけき音をさせて飛び入りてきたのは嫁持ちさんだ。

―― 罠だ! ――

 忍んだ叫び声で後ろざまに飛び退り逃走退散の姿勢!

 トン

 黒い影が城壁から飛んで、わたしたちの前に立ちふさがった!

 無言で立ち上がったそいつは…………嫁持ちさんが送り届けたばかりの王子だった!

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

 

 

 

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宇宙戦艦三笠16[ボイジャーが仲間に]

2022-12-26 08:58:11 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

16[ボイジャーが仲間に]   

 

 


 ボイジャーは回収されると、すぐに医務室に運ばれた。

 

 不思議だった。

 光子レーダーで確認した時は、お猪口にアンテナを付けたような古いタイプの人工衛星だった。

 それがモニターで女の子の姿になっていることは確認していたが、こうやって生で見ると、とても不思議になる。頬はほのかなバラ色で、胸は呼吸に合わせてゆっくり上下している。そして、まるで夢を見ているように瞼の下で目が動いているし。

「可愛い子だな……」

「うん、初めて見るのに、なんだか懐かしい」

 顔かたちに敏感なのは、やはり女子だ。天音と樟葉が最初に反応した。男子は、こういう時は驚きが直ぐには顔に出ない。ただ、目を丸くして見つめるだけだ。

「これ、ヘラクレアの娘さんの姿だよ……」

 みかさんが、しみじみと言った。

「どうして、あのオッサンの娘さんの姿に……ってか、あのオッサンの娘が、こんなに可愛いわけ?」

 引きこもりが長かった分、トシの反応は遠慮がない。

「ヘラクレアさん、娘さんのことは、ほとんど口にしなかったけど、それだけ印象としては強くわたしの心に残ったのね。だから、こんなに似ちゃったんだ。なんとなく懐かしく感じるのは、みんなも無意識にヘラクレアさんの影響を受けていたからかな」

 みかさんは、思いのこもったものに容を与える力があるようだ。

 みかさんは暖かい口調のまま続けた。

「人の心って、こんなに共鳴するものなのよ。ボイジャーも40年あまりの宇宙旅行で、いろんな宇宙人に空間や次元を超えて書き込みをされている。まだ未整理だけど」

「50年前のCPにそんなに記録容量はないんじゃない?」

「それは、あなたたちの概念よ。その気になれば、何もない空間にでも記録は残せるわ。わたしみたいな船霊も、いろんな人の思いの結晶だとも言えるかもしれない……さ、ボイジャーが目を覚ますのには、少し時間がかかるわ。あなたたちのむき出しの好奇心に、いきなりご対面しちゃ混乱する。わたしがいいというまでは面会謝絶です」

 四人のクルーは医務室を出された。

 分からないということは、想像力を刺激する。

 ブリッジで待っている間に、100通りぐらいのボイジャーのイメージが4人の頭に喚起された。美奈穂は中東で死んだ父への反発から母親の少女時代のイメージを。トシは、亡くした妹や、自分をストーカー扱いした美紀のイメージに。俺と樟葉は、ラノベかアニメのそれだろうか……自分でも覚えのない少女たちのイメージが浮かんだ。

 みかさんの言葉が思い出された。

「二人の心には、もっと奥があるわ」

 改めてみかさんの言葉が思い出された。

 ボイジャーは三日目に目覚めた。

「みんな医務室に来て」

 みかさんの声で、四人は心弾ませて医務室に向かった。

「みなさんよろしく。えと……あたしがボイジャーです」

 ボイジャーは、転校生のように硬い笑顔で挨拶した。ワンピースが黒の花柄から淡いグリーンの花柄に変わっていた。

「あ、その方が可愛い!」「黒は魔女っぽかったし」「ツインテールが似合いそう!」

「あ、ども……です(-o-;)」

「まだ、この子の心は整理ができてないの。だからちょっとぎこちないけど、少しずつ慣れていって。ボイジャー、あなたの呼び方、どうしようか?」

「……できたら、クレアって呼んでください。いろんな意味で、これが一番しっくりくるんです」

「じゃあ、ようこそクレア。君が三笠の最初のゲストだ」

「いえ、あたしはクルーです。役割はアナライザーです」

 みんな戸惑った顔になった。アナライズ機能は、すでに三笠には付いている。

「三笠については、補助的なアナライズをやります。本務は、あなたたちの心のアナライズです。修一さん、トシくん、天音さん、樟葉さん、よろしく」

「これからは、クレアさんが、わたしの代わりだと思って。わたしは本来の船霊の役割に戻ります」

 みかさんは、そう言うと、姿が朧になってホールの神棚の方に消えていった。

 ブリッジに戻ると、ネコメイドたちが模様替えを終えたところだ。

 俺の艦長席の横に一回り小さなアナライザーのシートが出来ている。

 シートに着いてポチポチとキーボドを操作するクレア。

 インタフェイスの光が柔らかくクレアを包んで、とてもしっくりいっている。

 見渡すと、他の四人も、それぞれのコンソールやらインタフェイスの光に柔らかく包まれている。

 視線を戻すと、クレアが上目遣いに微笑んでくれる。

 なんとなく、みかさんの筋書通りのような気がした……。

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

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宇宙戦艦三笠15[ボイジャーとの遭遇]

2022-12-26 08:30:55 | 真夏ダイアリー

 宇宙戦艦

15[ボイジャーとの遭遇]   

 

 

 フワァワァァ……………………プ

 

 三回目のアクビをしたら、いっしょにオナラが出てしまった。

 最初トシがクスっと笑い、ややあって天音、樟葉へと伝染するころには爆笑になってしまった。ただ船霊のみかさんはニコっとしただけだ。

 ヘラクレアを出てから一週間がたっていた。その間、三笠は、ただただ、星たちがきらめく宇宙を走っているだけだ。

 

 要するに退屈なんだ。

 

 三笠は21世紀の概念では、それほど大きな船ではないけど、たった四人、みかさんを入れて五人、ネコメイドも入れて九人の乗組員には広すぎた。各自自分のキャビンは持っているけど、ブリッジに集まることが多くなった。

 あ、ネコメイドたちのキャビンは分からない。艦内のどこかに居るんだろうけど、元々は横須賀の野良猫だとか、だったら簡単には見つからないだろうしな。
 時どき、デッキの端っことか内火艇やボートのキャンパスやマストの上で日向ぼっこ、いや星空ぼっこしてる。目が合うと律儀にお辞儀してくれるんだけど、すぐに居なくなる。気を遣わせてもいけないので、視界に入っても見つめないように気を付ける。

 みんないっしょなんだ。真っ暗な星空とはいえ、やっぱり外の景色が見えることは、単調な宇宙旅行の慰めなんだ。

「……東郷先輩のオナラ、初めて聞きました」

 やっと笑いの収まったトシが言った。

「そうね、あたしも小学校以来だな。保育所の頃はしょっちゅうだったけど」

「みんな退屈そうだから、一発かましたの!」

「ハハハ、でもオナラ一つで、ここまで笑えるんだ、アハハハ(≧艸≦)」

 天音が収まらない笑いのままで言った。

「みかさん、ヘラクレアを出てから亜光速でしか走ってないけど、みんなに先越されないないかなあ」

「早いだけが取り柄じゃないのよ。ゲームで言えばRPG、経験値を積んでおかないと、ゲームはクリアーできないわ」

「例えば、ヘラクレアみたいな?」

「そう、あそこでテキサスに出会えて、ヘラクレアさんにも会えたことは大きいわ」

「どんな意味で?」

 みかさんは、しばらく考えた。みかさんは神さまだから、考えている姿もさまになる。こういうことでは自信のある樟葉でも見とれてしまう。

「……悲しい思い出も、大事に守っていれば、美しいものになって、その人の心を高めてくれる」

「え、あのヘラクレアのオッサンが?」

「娘さんの魂を悲しませずに記憶し続けるのには、あんなオッサンの姿がいいのよ。辛い思い出も大事にしていれば、素敵な光になるわ」

「みかさんが言うと、なんだかとても良いことのように思えるわ」

「でも、修一さんのオナラには負けますぅ」

 アハハハハ(((^0^)))

 みんなが笑った。

「どうせ、オレは屁をかますぐらいしか能がねえよ!」

 ピピピ ピピピ ピピピピ

 光子レーダーが、アンノウン発見のアラームを発した。

 ブリッジは活気づいた。

「焦点を合わせて、解像度をあげて」

 指示するまでもなく樟葉がレーダーを操作。ボンヤリした画面がくっきりしてきた。

「え……あ、ボイジャー……!?」

 みかさんが感動の声を上げた。

「ボイジャーって?」

 天音が素朴な質問をした。

「1977年に打ち上げられた人工衛星です。太陽系を飛び出した、たった二つの人工物の一つです」

 ミカさんが応える前にトシが意外な知識を披歴した。

 ボイジャーは、三本のアンテナとテレビの衛星放送用のアンテナのようなものでできていた。

「あれは、一号ね。二号は……近くにはいないようね……」

「あ、解像度が落ちてきた」

 樟葉が慌ててキーボードをたたいてマウスをグルグル回す。

「……違うわ、変態し始めてるんだ」

「へ、変態!?」

「メタモルフォーゼのことよ……」

 ミカさんの言葉に、みんなはメインモニターに見入った。いつの間にかネコメイドたちも乗員の間から顔を出して注目している。

 そして。

 ボイジャーは5分ほどかけて変態した……その姿は栗色ショ-トヘアーの女の子だった。

「ちょっと男子は向こう向いててくれますぅ」

 みかさんが優しく言って、すぐに理解した。女の子は裸だった。

「……いいですよぉ」

 男子二人が振り返ると女の子は、黒字に赤い花柄のワンピに黒のスパッツ姿になっていた。意識はないようだ。

「面舵二十(ふたじゅう)、ボイジャーの回収に向かう」

 静かに命ずると、樟葉はレーダーを睨みながら、ゆっくりと舵を切ったのだった。
 

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・65『目付』

2022-12-26 06:25:11 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

65『目付』 

 

 


「……という訳で、ご両人がビデオを編集して理事会にかけ、貴崎先生のご決心が硬いと判断したわけなんです。理事の中に放送関係の方がおられましてな、編集の仕方が不自然だと申し出られ……むろん元のメモリーカードの情報は消去されておりましたが、パソコンにデータが残っておりました。このお二人がやったこととは言え、監督責任はわたしにあります。この通りです。この年寄りに免じて、許してやってもらえませんかな」

 理事長が頭を下げた。

「お二人には罪はありません。最初から罠……お考えは分かっていましたから」

「貴崎先生……」

 理事長は驚き、お祖父ちゃんは苦い顔。校長と教頭は鳩が豆鉄砲食らったような顔になった。

「こうでもしなきゃ、責任をとることもできませんでしたから……理事長先生が祖父の名前を口にされたときに予感はしたんです。祖父が介入してくると」

「そりゃ違うぞ、マリ。ワシは確かに乃木高の運営に関わってはおる。それは親友の高山が困っておったからじゃ」

「いや、恥を申すようですが。学院の経営は、いささか厳しいところにきておりました。文科省の指導に乗らんものですからなあ」

「いや、そこが彦君の偉いところだ。今の文科省の方針で学校を経営すれば、品数だけが多いコンビニのようになる。なんでも揃うが、本物が何一つない空疎な学校にな」

「しかし、貧すれば鈍す。倉庫の修繕一つできずに火事まで出してしまった」

「あれは、わたしの責任です。他にも責任をとらなければならないことが……これは、わたしの考えでやったことです。校長、教頭先生は、いわば逆にわたしが利用したんです」

「マリ、ワシはおまえが責任をとって辞めることに反対などせん。その点、彦君とは見解が違うがの」

「え……じゃあ、なんであんな見え透いたお目付つけたりしたの!?」

 その時、当のお目付がお茶を運んでやってきた。

「失礼します」

「史郎、ここに顔を出しちゃいかんと……」

 お祖父ちゃんがウロタエるのがおもしろかった。

「旦那さまには、内緒にしてきましたが。お嬢さまは、とっくに気づいておいででした」

「マリ……(꒪ȏ꒪)」

 お祖父ちゃんは目を剥いた。校長とバーコードは訳が分かっていない。理事長は気づいたようだ。

「君は、演劇部の部長をやっていた……峰岸君だな」

「はい。本名は佐田と申します。入学に際しては母方の苗字を使いましたが」

「顔はお母さん似なんだろうけど、雰囲気はお父さんにそっくりなんだもん」

「入部して、三日で見抜かれてしまいました」

 峰崎クンのお父さんは、佐田さんといって、お祖父ちゃんの個人秘書。

 元警視庁の名刑事。ある事件で捜査の強引さをマスコミに叩かれて辞職。その人柄に惚れ込んで、お祖父ちゃんが頼み込んで個人秘書になってもらった。峰岸君は、そのジュニアだ。

 お祖父ちゃんの周囲は、こういう峰岸くんのお父さんのような変わり種が多い。

 あの運転手の西田さんも……ま、それは、これからのお楽しみということで。

「峰岸クンの前任者は、卒業まで分からなかったから。ちょっと警戒してたしね」

 ちなみに、前任者は運転手の西田さんのお孫さん。堂々と西田の苗字で入学、演劇部じゃ、いいバイプレイヤーだった。

 卒業式の前日に首都高を百キロの大人しいスピードで走っていたら、うしろからパッシングされてカーチェイス。レインボーブリッジの手前で、一般道に降りてご挨拶。

「あんた、なかなかやるわね……」

「あんたのほうこそ……」

 サイドウィンドウを降ろして、こっちを向いたその顔が彼女……西田和子だった。

「なあマリ、こうして彦君も、校長教頭も来てくださったんだ。そろそろ曲げたヘソを戻しちゃくれんかね」

「乃木高に戻れってことですか……それをやったら、『明朗闊達、自主独立』乃木高建学の精神に反します」

「ごもっとも。しかし……」

 理事長の言葉をさえぎって、わたしは続けた。お祖父ちゃんがもっとも嫌がる言い方。

「校長先生、式日の度におっしゃいますね。『明朗闊達』であるためには後ろめたくあってはならない。『自主独立』であるためには、責任の持てる人間でなくてはならない。生徒にさえ、そう要求されるんです。教師には言わずもがなであると思います」

 校長と教頭はうなだれた。理事長は、じっと見つめている。お祖父ちゃんは顔が赤くなってきた。

「わたしは、これでもイッパシの教師なんです……」

「イッパシの教師だとぉ。つけあがるなマリ!」

「なんだってのよ。お祖父ちゃんの知ったこっちゃないわよ!」

「今度の二乃丸高校も自分の才覚で入ったと思っとるだろ。この彦九郎が、八方手を尽くしてお膳立てをしてくれたからこそのことなんだぞ!」
 
 (꒪ȏ꒪)エッ?……心臓が停まりそうになった。

「淳ちゃん……」

 理事長が、間に入ろうとした。

「ワシは、マリを木崎産業の三代目にしようとは思わん。社長の世襲は二代で十分だ。しかしマリにはイッパシの何かにはなって欲しい。その為に付けた目付じゃ……しかし、今のマリはイッパシという冠を付けるのには、何かが足りん」

「お祖父ちゃん、わたしだってね……」

「二乃丸じゃ、演劇部員を半分にしちまったってな。今は……」

「五人です。そのうち三人が年明けには辞めます」

 峰崎クンが答えた……わたしにはコタエた。

 しばらく問答が続いた。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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