大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・300『クマさんの名前の秘密』

2022-12-13 10:55:18 | 小説

魔法少女マヂカ・300

『クマさんの名前の秘密語り手:マヂカ 

 

 

 御維新までは美濃の国っていったんですよね。いかにも実り豊かなお国という響きで素敵です。

 

 眼下の濃尾平野を愛でながら、クマさんは地理の先生のような感想を言う。

「ああ、戦国の昔は、ここを扼すれば、天下が取れると言われたものだ」

「斎藤道三が主家の土岐を追い、織田信長が奪い……信長は、周の文王が岐山に拠って天下を窺った故事にちなんで岐阜と改め、それをもって岐阜県とされましたが、美濃の方が似合います」

「クマさん、なんだか学者のような感想だな」

「祖父の代までは、奥多摩の村で神主をやりながら本草学の学者をやっていました」

「そうなのか」

「村の山には悪い神さまがいると言われて、それを祀って封じるのが家代々の役目でした」

「過去形だな……ひょっとして、明治になって離散した?」

「はい、水害があったり、地租改正で苦しくなったりで、おまつりもろくにできないほど寂れてしまって。父の代になってうちも村を離れたんです。山の神さまは『村をたたむなら儂も連れていけ』と父に迫りました」

「寂しがりの神さまなのだなあ」

「父は、別の神社にお祀りするからと言ったんですが、神さまは聞きません」

「わがままな奴だなあ」

「交渉の末に、神さまは父に言いました『お前たち夫婦に子を授ける。その生まれてくる子の魂に間借りする。構えて悪さはせんから、それで手をうて』と。父は、母と寝たきりになっていた祖父と相談しました……」

 ウワア! キャ!

 ちょっと面白くなってきたと思ったら、オートマルタがグラッと揺れて高度が下がった。

「ああ、すみません。ボクも聞きいっちゃって(^_^;)」

「聞いていてもいいが、ちゃんと真っ直ぐ飛べ」

「ハーイ!」

「で……どこまで話しましたっけ?」

「えと……」

「お母さんと寝たきりのお祖父さんに相談するとこです!」

「あ、そうそう……それで、祖父はご先祖さまにもお伺いをたてて、生まれてくる子に強い名前を付けて神さまを封じることにしたんです」

「クマさん、兄妹がいるのか?」

「いえ、一人っ子です」

「「え!?」」

「はい、わたしのクマという名前は神さま封じの名前なんです」

「そうだったのか……テディ、また高度が落ちてるぞ」

「すみませ~ん」

「ファントムが目を付けたのは、クマさんの、そういうところを見抜いてのことだったのかもしれないなあ」

「はい、おそらくは……」

 明治大正のころは、まだまだ江戸時代の風を残していて、女の子の名前に『クマ』『トラ』『カメ』『ツル』とかの動物の名前を付けることが多かった。

 それは、子どもが強く長生きできることを託して付けられた名前だ。

 身のうちの悪鬼を封じるためという例は聞いたことが無い。

「まあ、名前はともかく、無事に戻れてなにより……ほら、海が見えてきたよ、トラさん」

「うわあ…………日本海と違ってキラキラと明るいですね!」

 目を細めて、海の輝きを愛でるトラさんは可愛い……早く箕作巡査の待つ大正時代に戻してやらなければな……

 

 その気持ちが通じたのか、オートマルタは駿河湾の上空で速度を増した。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・52『繋ぎの仕事』

2022-12-13 06:34:08 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

52『繋ぎの仕事』  

 

 


 折良く繋ぎの仕事が見つかった。

 二乃丸学園高校の先生が急病になり、二学期末の今になって常勤講師が必要になった。小田さんのプロダクションが、新聞社を相手にさらなる訂正記事と謝罪を要求。訴訟も辞さない意気を見せ。新聞社も一面で、謝罪記事を載せ、編集長も更迭。

 そこへわたしが(匿名ではあるけども)学校をいさぎよく辞めたことも世間の知ることとなり、二乃丸学園は即決でわたしを常勤講師に雇ってくれた。

 一応学年末までの契約であるけども、来年度から正規職員として勤めて欲しいと非公式な打診があった。

 しかし、やっぱ乃木坂の貴崎マリの名前はダテじゃない……と自惚れてもいた。

 着任したその日に、実質的な演劇部の顧問になった。

 二乃丸学園は、城南地区の所属であり、乃木坂とぶつからないのも気が楽だった。コンクールで、乃木坂と争うのはさすがに気が引ける……ってことは、自分が指導すれば、この欠点も無ければ、取り柄もない平凡な部員十名の二乃丸学園高校演劇部をイッチョマエの演劇部にする自信はあったのよ。

 

 初日から、わたしの指導は厳しかった。

 

 まず、発声練習をやらせてみた。満足に声が出る者が一人もいない。エロキューション(発声に関わるすべての技能)がまるでなっていない。鼻濁音ができないくらいは仕方がないとしても、腹式呼吸ができていないことは許せなかった。

 聞けば、都の連盟の講習会にも出ているとのこと。わたしは、その講習会でエロキューションの担当だった。

「講習会で、何を聞いてたのよ!?」

 つい乃木坂のノリになってしまう。

「まずは腹式呼吸だけども、あんたたち腹筋と横隔膜弱すぎ!」

 ちなみに、呼吸法は三通りある。

 一番ダメなのが肩式呼吸(俗に、肩で息をするというもので。息が浅く、発声器官である声帯にも影響を与えやすく。また、呼吸が観ている者に丸見えで、エキストラを演っても死体の役ができない……って、分かるわよね。息をしている死体なんてないでしょうが)

 次に、胃底部呼吸。これを腹式呼吸と間違えている者は、プロの役者の中にもいる。腹筋が弱く、横隔膜だけに負担をかけ、長時間やっていると胃が痛くなる(だからイテー部呼吸というものでもないけどね)。これも、息が浅く。長丁場な芝居や、長台詞には耐えられない。

 三番目が、大正解の腹式呼吸。横隔膜と腹筋の両方を使い、イメージとしてはお腹に空気が入ってくる感じ。目安としては、おへその指三本分下(古い言葉で丹田と言います)がペコペコする呼吸法。吸い込める空気の量が多く、また声帯からも遠く影響を与えにくい。

 まず、できていないことを自覚させる。

 廊下の窓に向かって一列に並ばせ、窓ガラスにティッシュペーパーをあてがわせる。そして、口を尖らせ「フー」って感じでティッシュに息を吹きかけガラスに貼り付けさせる。最低十秒……できる子は一人もいなかった。

 で、腹筋の訓練。初心者なので五十回にしてやるが、これもできたのは二人だけ。

「あんたたち、体力無さすぎ!」

 で、グラウンドを十周させたところで時間切れ。

 クタクタになって、着替えている部員たちに宣告した。

「演劇部を文化部だと思ってる子は気持ち入れ替えて、演劇部は体育会系なんだからね」

 そして、集合時間の厳守(五分前集合)を言い渡し、こう命じた。

「明日は、トンカチとノコギリを持ってくること。いいね!」

 そして、解散するときにする挨拶を教えた。

「貴崎先生ありがとうございました。みなさんお疲れ様でした!」

 ヤケクソで十人が合唱した。

 明くる日は、一通りの腹式呼吸の練習を終えたあと、三六(さぶろく=三尺、六尺……つまりベニヤ板一枚分)の平台作りをやらせた。芝居の基本道具で、なにかと便利なのだ。

 案の定、まともにノコも引けなければ、釘も打てない。

「いい、ノコギリは体の正中線のとこに持ってきて……」

 各自一本ずつの木を切らせ、釘を一本打たせたところでおしまい。

「貴崎先生ありがとうございました。みなさんお疲れ様でした!」

 これを一週間続けたところで、期末テスト一週間前。部活はテスト終了まで休止期間に入る。

 期末テストは、前任者に教えてもらっていた生徒のノートをざっとみて見当をつけて問題をつくり、内規通りの平均点(五十五点~六十五点)にピタリと収め、無事完了。


 テスト後の短縮授業になった。


「さあ、クラブがんばるぞ!」

 と、意気軒昂……だったのは、わたし一人だった。

 十人の部員の半分がほかのクラブとの兼業だった。乃木坂では許されないことだ。

「どっちかにしなさい!」

 言ったとたんに、三人が辞めていった。

 なんとか、腹式呼吸のなんたるかが分かり、平台一枚ができあがった時には、部員は半分の五人に減って、終業式兼クリスマスイブである十二月二十四日がやってきた。

 この日ばかりは、部活は休み。

 平台一枚の完成を祝し、五人の結束を高めるため、身銭をきって宅配ピザをサービスして、忘年会をしてやった。

 一人空回りした忘年会が終わったあと、わたしは降りしきる雪の中、潤香の見舞いに行ったのだった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母

 

 

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