大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

漆黒のブリュンヒルデQ・100『しっこくのブリュンヒルデ』

2022-12-16 11:53:59 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

100『しっこくのブリュンヒルデ』   

 

 

 さっきまで玉ちゃんが居たところで高杉晋作が寛いでいる。

 

「なんだ、あんたか」

「あんたはないじゃろ」

「『しっこく』と言ったか?」

「ああ、しっこくじゃ」

「漆黒なら、わたしの看板だ。何物にも左右されず、何色にも染まらない不退転の決意を示す色だ」

「そのしっこくじゃない、桎梏の方じゃ」

「……難しい字だな」

 晋作が空中に書いた字は初めて見る。

 この異世界に来るについてインストールされた辞書の中には無い言葉だ。

「桎は足枷、梏は手枷を現す。つまり、くだらんことでがんじがらめになっとるちゅう意味じゃ」

「そうなのか?」

「ああ、がんじがらめじゃ。救済するつもりで戦死者を選んじょったろ。『これが最後の戦いだ。この戦いで死ぬることになるが、これで楽になる。長かった戦いもこれまでだ。やっと、やっと、天国に行けるんじゃぞ』って人にも自分にも言い聞かせてな……ところが、そりゃラグナロクちゅう最終戦争を戦う兵隊を選ぶことじゃった。救済のつもりが、さらなる苦行を与えることになっちょった」

「知っていたのか?」

「ああ、あんたも言うていたじゃろう、野村の尼さんが、いちど松陰神社に顔を出せって」

「ああ、行ってくれたのか!?」

「嬉しそうな顔をするなあ」

「ああ、人が約束を守るのはいいことだからな」

「寅次郎さんは勉強家じゃけぇ、北欧神話のことも調べちょられた。そんで、ブリュンヒルデたぁ桎梏の人なんじゃのぉとため息をついちょられた」

「そうか……」

「おいおい、そこで収まらんでくれ。あんたの桎梏は、もう一段深いんじゃぞ」

「どういうことだ?」

「ブリュンヒルデは、こっちの世界に来て、片っ端から亡者に名前を付けとるじゃろ」

「ああ、付けるというか、思い出させてやるというか……この世界には、戦争で名前まで焼かれた者やら、いろんな事情で名前を失った者が大勢いる」

「名前は大事じゃ」

「神さまが救うにしても『おい、そこのおまえ、助けてやるぞ』では情が薄い。救われる方も『そこのおまえ』では心底からは救われんだろ……戦死者を選ぶときも、わたしはフルネームで呼びかけたものだ」

「そうじゃのう……じゃが……まあ、それはええ。いずれは戻るんじゃろ、オーディンの世界へ。ほんで、またラグナロクで戦わせるために戦死者を選ぶ。その苦労に耐えるための休み。これは、もう相克、二律背反じゃ」

「そうか……そうだな……」

「ほんとうは、分かっちょるんじゃろ。決めるさあブリュンヒルデ自身じゃ……さあ、これで寅次郎さんの言伝は済ました。どうじゃ、アンナミラーズいう雰囲気のええ茶店が品川にあるそうじゃ、ちいと付き合わんか?」

「プ( ´艸`)、天下の高杉晋作がアンナミラーズか!?」

「別にええじゃろが、お仕着せがぶち可愛いんじゃ。提灯袖のブラウスに腰高のスカートが乳の下まで迫っちょってな。健康なお色気に、客足も引きも切らずで、むろん味も天下一品らしいぞ(^▽^)」

「アンナミラーズなら、この秋で閉店したぞ」

「え! 閉店してしもうたか!?」

「ああ、繫盛はしていたが、再開発の為とかでな」

「いやあ、高杉晋作としたことが、烏退治に精出し過ぎてしもうた!」

「そ、そんなに朝寝に忙しいのか(#'∀'#)!?」

「あん……ヒルデ、なにか勘違いしとるで」

「か、勘違い?」

「ああ、儂がやっつけとる烏は、女郎の烏ばっかりやないで」

「ち、違うのか?」

 玉ちゃんは、そう言ってたぞ。

「今はな、国定忠治の烏を片付けとる」

「忠治の!?」

「あいつの本性は……まあええけど、とにかく烏もしぶとうて数が多い」

「そうだろうな」

「烏を片付けたら、ちいと時間を巻き戻してアンナミラーズに行かせてもらう。その時にゃあ、また声を掛けるけぇ、付き合え」

 そう言うと、後姿で手を挙げ、懐手して消えてしまった。

 

 眼下のグラウンドでは、今日も玉ちゃんが勝ったようで、下級生たちの悔しそうな歓声があがって、昼休の終了を告げるチャイムが鳴った。

 

 漆黒のブリュンヒルデ 第一期 完

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • 高杉晋作              さすらいの烏退治
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父 

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・55『マクベスの首・2』

2022-12-16 07:00:57 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

55『マクベスの首・2』 

 

 

『ハムレット』もすごかった。

 

 どこがって……やたらに人が死んじゃうんだもんね。ただね、ホレーショっておじさんが都合良く生き延びちゃうのには、若干の抵抗。

 あれだけの波瀾万丈のドラマの中で、親友のハムレットがメチャクチャやって、一族死に絶えちゃって、なんだか自分一人だけ語り部みたく生き延びて……残りの人生虚しくないの? って、わたしがひねくれてんのかなあ。


『ロミオとジュリエット』は、なんだか我が身と引き比べちゃったりして、興味津々。

 ストーリーや登場人物は、よく分かんないけど、発見が二つあった。

 忘れもしない、第二幕第一場「キャピュレット家の庭」チョ-有名な愛の語らいの場!

 なにがすごいって、一回読んでみるといいわよ。

 ロミオが庭、ジュリエットがバルコニー……すごいと思わない? 

 並の作家なら、同じ平場で愛を語らせちゃうんだろうけど、これを互いに見えるけど手の届かないところに持ってきて、キスどころか、指一本触れさせないんだもんね。ミザンセーヌが最高! おそらく世界最高のラブシーンだと思う。

 それに、もっとすごいのは、あれだけのラブシーンで「I love you!」が一言も無い。

 気になって、ここだけ二回読んだんだけど、無い……「do you love me?」「Love me!」はあるんだけどね「I love you!」は無い!

「愛は勝ち取るものなんだ!」って、スタンスがすごいと思うのよ。

 この場面は、互いに「愛してる! んでもって結婚しよう!」ってことだけなんだけど、字数にして六千字も使ってんのよね。このわたしのことを書いてる作者なら、章一つでそんくらい。才能が違う……なんて言ったら、どこで仕返しされるか分からない。なんたって、第五章じゃ主役のわたしを焼き殺しかけた人だもんね。

 それから、タマゲタのは、ジュリエットに出会ったとき、ロミオにはすでに恋人が居たんだ!……知らなかったでしょ? ロザラインって子で、二回ほど台詞の中にしか出てこないんだけどね。

 明らかに、ロミオは二股かけてんのよね!!

 わたしはロザラインに同情したわ。シェークスピアってオッサンもたいがいよ!

 ……なんて妄想してるうちに薮医院が近くなってきた。
 

 説明するわね。


 わたしが生まれる一年ほど前に、お父さんとお母さんは大げんかをした。

 バブルの後、工場の経営が今イチだったってこともあるんだけど、どうやらお父さん浮気もしてたみたい。

 で、お母さんは、ほんのガキンチョの兄貴連れて、家をおん出ちゃったわけ。

 そこを間に入って、元の鞘に収めたのが薮先生。

 お陰でわたしは一応無事に生まれることができたわけ。

 兄貴のアンニュイなとこもこのへんの幼児体験に原因あり……と見てるんだけど、まあ、それは置いといて。恩義に感じたじいちゃんが、盆暮れのつけとどけをお父さんにやらせてたんだ。

 でも十七年もたっちゃうと、もう時候の挨拶ってか年中行事。

 薮先生も、お父さんの顔見てもつまんないんで、今年は兄貴をご指名。どうやらクリスマスの香里さんへのフライングが耳に入ったみたい(このへんが、下町のいいとこでも、怖いとこでもある)なんだ。

 で、恋人同士来いってことらしいんだけど、兄貴嫌がっちゃって……兄貴は香里さんが嫌がってるって言ってた。ただ目的語が抜けてるんで、兄貴が、まだ嫌われてんのか、薮先生とこへ行くのを嫌がってるのかは分からない。

 で、わたしが代理ってわけ。むろん三千円のギャラ付き。

「こんちは……」

―― 二十八日~新年三日まで休診 ――の張り紙をしたドアを開ける。

「まどかか? そのまんま上がってきな~」

 と、奥で先生の声。まあ一時間程度の「お話」は覚悟していた。ギャラもらってんだもんね。

「失礼しま~す」

 殊勝げに、待合室を抜けて、奥の座敷へ。

 あ……!?

 しばらく、声が出なかった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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