大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・301『戻った!』

2022-12-19 15:50:27 | 小説

魔法少女マヂカ・301

『戻った!語り手:マヂカ 

 

 

 あ、戻った!?

 

 クマさんが感動の声を上げたのは、まだ完全にタイムリープが完了する数秒前だ。

 来栖司令が回収したM資金の残り全てをかけて整備してくれた時空転送機。

 高機動車北斗の移送システムを流用しているので無理がきかず、無事に戻れるのは昭和二年(1926年)が限界。

 昭和と言っても関東大震災からは三年足らずなので問題はないだろうと思ったのだが、クマさんは「せめて大正時代に戻してください、心配を掛けたくありません」と強く希望するので、無下にもできず、ちょっと無理をしている。

 大正十三年一月、震災から三か月、富士山頂の戦いでファントムに連れ去られて二か月あまりの原宿。

 スペック不足のグラボを付けたゲームパソコンのように、実風景が戻って来るのが遅い。

 

 まず蘇ってきたのが、足を載せる地面だ。

 

 出発したニ十一世紀の原宿駅前は舗装道路だったが、昭和二年の原宿はことごとく未舗装。

 フワリと靴の裏に戻った感触が、高坂家に奉公に来て以来馴染んだ土の感触。

 だから、視界が戻るより前に戻った喜びがせき上げてきたんだ。

 

 右手に神宮の森がしずもり、左に後年に『竹下通り』として全国区になる若者の通りは、まだまだ田舎道。

 その道を一分も走れば、数年後に東郷神社が建つはずの高坂侯爵邸。

「分かっているね?」

 念を押す。

「はい、承知しています」

 昭和という年号は言っていないけど、十日余り前の年末に大正天皇が崩御されたことを伝えてある。

 崩御されて、昭和と改元されたけど、十二月も末の事であったので年が明けたと言っても、国を挙げて喪に服している。

 原宿の駅前も正月だというのに、それらしい飾りつけは無い。

 

 あ!?

 

 竹下通りの入り口には、まだ百メートルはあろうかと云うのに、双方が気が付いた。

 双方走り出したいのを堪えて、足早に接近していく。

「御心配をおかけしました、虎沢クマ。ただいま帰還いたしました」

 深々と頭を下げるクマさんは、まるでシベリア出兵から帰ってきた兵隊のような挨拶をする。

 同時に頭を下げた高坂侯爵家の令嬢も、出征兵士を出迎える愛国婦人会のように慇懃に礼をする。

 令和の時代に慣れてしまった女子高生の感覚ではじれったい限りだが、数百年を生きて日本を見てきた魔法少女としては、さもありなんだ。

「霧子お嬢様!」

「お帰り! お帰りクマさん! ちょうどクマさんの無事を神宮でお祈りしてきたところよ! よかった! ほんとうによかった!」

「はい、あちらでは真智香さんたちに大変お世話になって……お嬢様、あちらに真智香さんが」

「ま、真智香あああ!」

 今度は耐え切れずにクマさん共々、こちらに駆けてくる霧子。やっぱり、この年頃の女の子は――感動したら走り出す――のが似合ってる。

「ダメ、近づいたら、今度は霧子を巻き込んでしまう! 詳しくはクマさんに聞いて、とっても遠いところから戻ってきたんだから」

「ありがとう真智香!」

「うんうん、クマさんもそうだけど、霧子も元気で! これから大変な時代がやって来るけど、がんばって生きて!」

「うん、真智香も!」

「じゃ、離れて、もう行くから!」

「真智香さーん!」

 クマさんも手を振ってくれる。その向こう、令和の時代には牛丼屋ができているあたりから、背の高い巡査が腰のサーベルを押えて走って来る。

 箕作巡査だ。

 箕作巡査も、クマさんの横に並ぶなり、イギリスの騎兵将校のように敬礼を決める。

 バカ、はやく自分の彼女を抱きしめてやりなさいよ!

 一言言おうと思ったら、目の前をプラズマが走り出した。

 時間切れだ。

 

「さようならあああ!」

 

 いつの時代でも通じるお別れと信愛の気持ちを精一杯叫んで、手を振りながら令和の時代に戻っていく。

 

 原宿~原宿でございます。

 

 きれいなアナウンスと共に雨だれに似た陽気な着メロ……タイミングよく、一番線に列車が来たところだ。

 アナウンスの方向に五六歩歩けば改札だ。

 このまま電車に乗って日暮里に帰るか。大塚台公園の司令部に報告にいくか。

 数秒迷って、そのまま竹下通りに向かう。

 昭和二年でも、クマさんや霧子が、そしてその後ろを見守るように箕作巡査が屋敷に向かっているはずだ。

 時空を隔て、せめて、一緒に歩いていると感じて。

 それでも『東郷神社⇒』の標識は横目に殺して明治通りに抜ける。

 敵はまだまだ多い。

 ポチョムキンは倒したが、ファントムは健在。クマさんから分離された神もジッとしては居ないだろう。

 しかし、ここしばらくは仕掛けてくる力は無い。

 

 そもそも、わたしは休むつもりで令和の東京に来たんだからな。

 

 明治通りを千駄ヶ谷の方向に歩く。

 魔法少女マヂカは渡辺真智香に戻りながら、東京の雑踏の中に紛れていった。

 

 魔法少女マヂカ   第一期 完

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

  

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・58『大波乱の予兆』

2022-12-19 07:01:59 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

58『大波乱の予兆』 

 

 

―― 理由は、その両方だと思いますよ ――

「で、おまえ達は、どこまで進んでるんだ?」

「え……」

「その……」

「適当に返事しときゃいいわよ。どうせこの先生の暇つぶしなんだから」

「失礼なババアだな。わしゃ、若者の健全な育成のためにだな……」

「はいはい。ババアはこれで退散いたしますよ。また機械の操作が分からなくなったら声かけてくださいな」  

 奥さんは意外なくらい新しい鼻歌と共に行ってしまった。


「おばちゃん、なかなかいけてますね」


「少年よ、人も物ごとも正確に見なくちゃいけない。あれは、おばちゃんではない。礼節をもって呼ぶとしても、お婆さんが限界だ」

「でも、あの鼻歌、オリコンで十週連続でトップですよ」

「ただの、オチャッピーのなれの果てさ。ただ、女子挺身隊で電機工場に行っとたせいか、いまだに家電には強いけどな。有り体に言えばクタバリぞこない」

「アハハ、家じゃ、おばあちゃんが、おじいちゃんのことをそう呼んでます」

「あれでも心臓が弱くてな。二度ほど俺が蘇生させてやった。時々後悔するけど、あいつが居らんとテレビも満足に点けられん」

「夫婦愛ですね……」

 忠クンがしみじみ言った。とたんに先生がハデにむせかえった。

「ゲホゲホ! ゲホホホ! 忠友少年。そう言う言葉は、少年の少の字が中になってから言いたまえ……で、どこまで話したっけ?」

「あのう……ね」

 思わず二人は目を合わせた。

「うん、分かった!」

 先生は膝を叩き、メガネをずらしてわたし達を見つめ直して断言した。

「せいぜいキスの段階だな」

「「あの……」」

 同時に声が出た。

「どうだ、大当たりだろう!?」

 当たってはいるんだけど、状況が違う。あれは賞状が風に飛ばされて不可抗力だったんだ(詳しくは7『スマホ片手に悶々』を読んで)

「二人とも、純で真っ直ぐで曇りのない目をしている。今時珍しいと誉めてやる」

「ありがとうございます」

 忠クンは、照れて頭を下げた。

「しかし、二人とも、雰囲気と行きがかりに弱い……ま、それで、火事場の馬鹿力。まどかの命を助けることもできたんだろうけどな。でも、どうだ、俺のおまじない、あらかわ遊園じゃ役にたっただろう。な、まどか」

 やっぱ薮先生は狸だ、こんなことまで知ってるなんて。

 実際火事の件は近所でも少し評判になった。でも、あらかわ遊園のことはね……よく考えたら、あらかわ遊園以来だ。二人で会うのは……って、狸が一匹オジャマ虫。

「物事には、裏と表があってな。こうやって狸じじいが、出会いの場を作ってやることもあるし、オジャマ虫になることもある」

 先生は、最後のヨウカンを口に放り込んだ。意外においしそうに食べている。

「忠友少年……真っ直ぐで曇りのない目だが、焦りを感じる。まどかに対して、その焦りは禁物だ。何事にもな」

「先生……」

「話は最後まで聞きなさい。俺の親父は海軍の軍医だった……」

 先生は、わたしの背後の長押(なげし=襖の上の水平な細い梁みたいなの)に目をやった。

 体をひねっても見えないんで、忠クンの横に行った。忠クンの体温を間近に感じて、少しトキメイタ。それを知ってか知らでか、先生は演説を続けた。

「軍人というと十把一絡げに悪く言うやつもいるけどな、気持ちのいいヤツも多かった。親父は航空母艦の軍医長を長くやっていてな。おれがガキンチョの頃、よく家に若いパイロットを連れてきた。みんな真っ直ぐで曇りの無い目……しかし視点は爽やかなほど彼方にあった。まだ戦争は本格的にはなっていなかったけどな。國を護るということは、こんなに人の心を綺麗にするものかと思って聞いてみたことがある」

 気がつくと、先生は湯飲み茶碗にお酒を注いで飲んでいた。いま飲み始めたのか、さっきからそうしていたのか分からない。顔色を見ても、お酒に強い人なので分からない。

 やっぱ、薮先生は狸だ。

「その人は、こう言ったよ――そんな大げさなもんじゃないよ。航空母艦の飛行機に乗っているとね、潮風と空の風に吹きっさらされて、見えるものは遙かな水平線。で一見爽やかそうなバカッツラができあがるんだよ。秘訣って言えば、曜日を忘れないように、毎金曜日にカレー食うことぐらいかな――ってな」

 長押に掛かった写真は、少し帽子を斜めに被った先生と似ても似つかないイケメン。

 そのイケメンは――どうした若いの、どうしようってんだね――と、挑発している。

 それをわたしといっしょに眺めている忠クンの顔は……ね。

 マクベスの首を獲ったマクダフのようでした(分かんない人は『マクベス』読んでください)

 で、このときの忠クンの顔……というか、想いは、来年に起こる大波乱の予兆だった。ガキンチョのまどかが、それに気づくにはもう少しの時間が必要だった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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